決められた期間内に「道の駅」をめぐってスタンプを集める「道の駅スタンプラリー」。上位者が表彰されたり賞品が当たったりもするが、参加者の多くはそれが目的ではない。自分だけが知っている「何駅めぐった」という達成感のために戦っているのだ。たぶん。

筆者も過去に何度も参戦しているが、満足のいく結果を出せたことはない。週末ドライバーだと行動範囲も限られるし、期限もあるし、好きな駅が決まってきちゃうし……。

しかし人生それでいいのだろうか。本気で取り組んだと言えるのか。「○○だからできない」と言い訳ばかり吐いて、弱者の理論じゃないのか。そんなんで心を燃やしたと言えるのか……!!

そうだ、もう一度やってみよう。


・運の悪すぎるスタート

ラリーは「北海道」「関東」「北陸」などブロックごとに全国で開催中なのだが、新潟県の北から南に向かって一直線に走ることにした。ガチでやったら一日に最大で何駅めぐれるのか、自分の限界に挑戦だ。スタート地点は北端の「道の駅 笹川流れ」とする。


「笹川流れ」は国の名勝。ここに至るまでも海にせりだした岩山のトンネルをいくつも抜ける、迫力のドライブコースだった。

新潟を選んだのにはいくつか理由がある。まず、国内トップ5に入るほど道の駅が多い(全42駅)こと。そして南北に細長~いので、ジグザグにならず無駄なく進めそうなこと。

今回はRTA……すなわちスピードランなので効率が大事だ。それぞれの道の駅ではトイレ&水分補給はOKとする。そして12時を過ぎて最初の駅で昼食、15時を過ぎて最初の駅でおやつとする。疲労などで安全運転が難しくなったら中止だ。


道の駅のオープンを待つ筆者の目に映るのは日本海の絶景。なーんか波が高いし、夕方みたいに空が暗いような気がするけれども。


なんだこれ……


日本中で起きている天気の異常は、新潟でも容赦ない。バケツをひっくり返したようなゲリラ豪雨のなか、営業開始を確認した筆者は「スタンプ帳」購入のため受付に走った。事務局が発行する公式スタンプ帳に押印していくのがラリーのルールなのだ。



意気揚々と駆け込んだ筆者を待っていたのは


「完売」のひとことだった。


そうかぁぁぁぁ、そういうこともあるのかぁぁぁぁ! 「スタンプ」は何万人が押そうが無限だけれど、「スタンプ帳」は有限なのだ。北陸エリアのラリー期間は2024年春から2026年春までの2年間で、すでに残り半年になっている。完売の施設があってもおかしくない。


仕方がないので紙に押印した。ちなみに正式なラリールールではこれは無効票だ。ちくしょー。


・初めてのスタンプをゲット!

しょっぱなから雲行きが怪しすぎる。が、気を取り直して次の施設「道の駅 朝日みどりの里」へやってきた。天気は少しだけ回復してきたような?


ここは比較的規模の大きな駅で、スタンプ帳もたくさん在庫があった! よかったぁぁぁ!! 価格はマップつき1冊400円。後光が差して見える……!

そうか、これがレアリティという概念なんだな。なかなか手に入らないものは相対的に価値が上がるのだ。


今はデジタルスタンプラリーも多いから、インクをつけるアナログなスタンプは新鮮だ。この後も何度か遭遇したが、注意書きがあるにもかかわらずスタンプパッドをご開帳して立ち去る輩は極刑に処すべきだと思う。押し直しができない一発勝負だから結構ドキドキ……


初スタンプゲットォォォ!(ホントは2個目だけどな!)


よし、どんどん行くぞ! ここからは怒涛の勢いで「道の駅 神林」「道の駅 関川」「道の駅 胎内」「道の駅 加治川」を獲得。新潟は本当に道の駅が多く、10kmとか15kmおきに次の駅があるような感覚だ。

しかし、各施設の滞在時間はわずか数分。到着→スタンプ探す→スタンプ押す→出発だ。展示もお土産も見ていない。ゆっくり見たいところもあったなぁ……!


・予期せずランチ場所になったのは……

開始から3時間が経ち、時刻は午前11時47分。12時を過ぎて最初の駅で昼食にするとマイルールを決めていたので、必然的に「次」ということになる。

この辺では「道の駅 新潟ふるさと村」が大型施設のはずで、飲食店も複数あるらしいので密かに期待していた。しかしまだ遠い。途中「道の駅 胎内」が見つからず、道に迷ったのもタイムロスだった。道の駅が見つからないなんてあり得ないだろ、と思うだろうが、ログハウスのような超ミニマムな施設だったのだ。


昼食場所になったのは「道の駅 豊栄」だ。豊栄には恨みはないのだが、筆者はちょっぴり「ちぇー」と思っていた。聞いたことない駅だけど、一体なにが食べられるのか……


なに……? 「道の駅 発祥の地」だと……?。


豊栄は制度発足前から道路休憩施設として存在し、後に道の駅「第1号」に登録されたのだそう! このチャレンジにふさわしい、めちゃくちゃ記念碑的な施設だった! すごい、ここから歴史が始まったのか!!


改めて観察してみると道の駅っておもしろい。高速道路のSAやPAはどこもピカピカで快適だけれど、ある意味「画一的」なところがある。しかし道の駅は、レジャーランドみたいな大規模施設もあれば、「え、ここ!?」と思うような古めかしい小規模施設もあったりして個性的すぎる。


「道の駅 豊栄」の食堂は駅そばのような立ち食いスタイルで、メニューもカレーとかラーメンとか、ごくごく平凡なんだけれど超人気だった。筆者は素朴なコシヒカリのおにぎり(2個で税込250円)を堪能。疲れた身体に米の旨みが染み渡る! 「軽食堂」の看板も昭和時代の遊園地みたいでレトロ!!


さて、午前中いっぱいかけて7駅目、想定よりもだいぶ少ない。駅ごとの間隔は短いから30分くらいの運転で着くんだけれど、累積すると2時間3時間なんてあっという間だ。

ここからは施設が東西に散らばるので、「の」の字を描くようにUターンしてこようと思っていたのだが、とてもそんな時間はなさそうだ。17時とか18時にはスタンプ押印場所が閉まってしまう。体力・気力だけじゃなく「営業時間というリミットがある」のも盲点だった。


・刻々と迫るタイムリミット

以降はひとつの判断ミスも許されない。緊張感をもって挑もう。ヘタに海側や山側に行くと戻ってくる時間が必要になることを考え、国道8号沿いにターゲットをしぼる。

三条市のあたりでは、この旅で初めての渋滞に遭遇した。そうか、国道沿いでアクセスがよいということは、すなわち交通量も多いということだ。渋滞のリスクがあるなぁ。


15時のおやつの「道の駅 燕三条地場産センター」は「オフィスビル!?」と思うような都会的な道の駅だった。運転中は体力的な消耗はないが、視覚・聴覚をフル稼働するから脳が猛烈に糖分を欲する。超絶オシャレな併設イタリアンレストラン「Tsubamesanjo Bit」で「一番高いスイーツください」と言おうと思ったら、ランチとディナーのあいだの昼休みだった。Bitよ、命拾いしたな……。


ここは三条市だから、えーっと……まだ半分も縦断してないの!? う、う、うそだろ……!! 新潟、南北に長すぎ……


スタートから6時間、肩も腰も尻も凝り固まってきた。ずっと同じ姿勢でいるから背中がミシミシと痛い。筋肉がつながっている脇腹まで痛くなってくる。こまめに停まりながらだけれど、体感的には「一日中走ってる」という状態だ。幸運なのは雨天のせいか、目が痛まないことくらい。目が乾燥して痛むと本当に運転がツラくなる。


果たしてあと何駅いけるか、タイムリミットが迫るなか再び走り始める。途中で施設閉鎖の重要情報もゲット。ラリー期間は2年にも及ぶから、休業や閉鎖になる施設もあるよね。あやうく「NPCの話をよく聞かなかったせいで目的地に着いてもクエストが始まらない」状態になるところだった。

※NPCとはゲーム内で重要な情報を教えてくれたり、ストーリー進行のきっかけになったりするノンプレイヤーキャラクターのことだ!


なにここ、めちゃくちゃ楽しそうな施設! 「道の駅 ながおか花火館」だ!!


フードコートにも10店舗も入っていて、しかも営業時間が18時までたっぷりだから夕飯も食べられる!! おにぎり専門店「ONIGIRI STAND」とか、つけ麺の「麺香房 ぶしや」とか気になる。ここで晩ご飯にしたい。ミュージアムのドームシアターでは迫力映像で長岡花火を体感できるんだって! 天気もピカッと晴れてきて、今さらながら観光日和に……。

しかし筆者は先へ進まねばならない……! なんでこんなチャレンジ始めたんだ……!! 道の駅に行きながら観光も休憩も買い物もしないなんてバカじゃないの!? なんの修行なの!?


先ほど休止情報を得た「道の駅 ちぢみの里おぢや」を賢く回避し、「道の駅 越後川口あぐりの里」に到着。急げ急げ。日も暮れかけ、ヘッドライトが路面を照らし始めた。

現在17時30分で最寄りの「道の駅 ゆのたに」はわずか10km先だから行けるはず! ゆのたに、ゆのたに……


あ。


・結果発表

結果を発表します。朝9時から夕方17時30分までで走行距離235.2km、獲得スタンプは14個+1個。ラリー対象40駅のうち、半分にも届かなかった……!

230kmというのは高速道路なら3時間足らずだから、普段ならたいした距離ではない。しかし到着して数分でスタンプを探し、すぐ次の駅という移動の繰り返しは狂気的にハードだった。施設内も自然と早歩きだ。空港でもないのにタッチアンドゴーだよ。

まぁ同じ行動をあと2日繰り返せば新潟県は完全制覇だな。やらんけど。

道の駅をめぐるならスタンプの個数など気にせず、興味のあるところにしっかり停まって滞在すべきだ! 新潟や燕三条、加治川、長岡なんかはじっくり見たかった。笹団子とか鱈とかご当地グルメも見かけたし、米どころらしく「おにぎり定食」が自慢と思われる施設が複数あったし、関川の「猫ちぐら」も気になったんだよなぁ。


……うん、もっかい北からゆっくり行こ。そうしよ。


参考リンク:全国道の駅連絡会
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.