
筆者は思う。この世界は「最新の情報」にあふれすぎている。最新のファッション、最新のグルメ、最新のツール。いつしかそれらに追いつくことに義務感を覚え始め、ひとりでに心を疲弊させる人も少なくない。実に嘆かわしい。
そこで本記事では、読者の方々に一時のくつろぎを提供する。筆者は最近、生まれて初めて電動自転車に乗った。家族が買ったものに乗せてもらったのだが、通常の自転車との違いに驚かされた。この驚きを今さら皆さんと分かち合いたい。
どうだろうか。怒涛のごとく目まぐるしい現代社会において、何ら波風を巻き起こさない安穏とした内容が予感できないだろうか。その予感はあまりに正しい。落ち着きを得たい方は是非とも覗いていかれることをお勧めする。
あらかじめ記しておくと、筆者が乗った電動自転車はパナソニックの「ビビ・SL」という機種である。本記事の内容は当該機種に基づくことを念頭に置いてもらいつつ、以下より「驚いたこと」を3選ばかり綴っていきたい。
・意外に癖のある操作性
まず意外だったのは、その操作性である。通常の自転車からそっくりそのまま進化したものが電動自転車だと思っていたのだが、実際には少々違った。停車した状態から発進する際、またはかなり減速してから加速する際に発生する電動アシストが、やや独特なのである。
ペダルを若干踏み込んだだけで、自転車が弾かれたように大きく前に出るため、周囲の物や人にぶつかってしまわぬよう注意しなくてはならない。筆者は前もって家族からその仕様を伝え聞いていたものの、自信満々の態度で自転車にまたがった数秒後にあえなく翻弄された。
慣れれば問題はない。しかし慣れたと思って油断した途端、例えば「こんな場所にこんな店が出来たのか」と停車したのち、世の変化を達観した顔でペダルを漕ぎ出すも、急発進に情けない声が出るような事態が起こる。「アシストがある」という意識を保つことが大事である。
・「走る重量級家電」
電動自転車は、電気で動く。当然の事実なのだが、初体験してようやく筆者はそれを認識できた。電源を入れなければ「電動」しないのはもちろん、上記機種は10分以上放置していると自動的に電源が切れるため、どこかに立ち寄ったあとなども再びスイッチを押す必要がある。
この自動電源オフを忘れていると、「まずい、勝手に電源が切れた。壊してしまったのか?」とか、「家族に修理費を弁償するのは御免だ。いや、私は何もしていないから何も悪くない。そうに決まっている」とか、ちょっとしたてんてこ舞いを演じることになる。
家族うんぬんは紛うことなき私事なのだが、ともあれ更に付け加えると、電気で動くということは充電する必要も出てくるし、何ならバッテリーやら様々な機構やらが搭載されている分、電動自転車は通常の自転車よりも大抵の場合重くなる。
上記機種に関しては軽量モデルであるため、いわゆるママチャリと同じく20kg程度におさまっているが、30kgに近い機種の方がむしろ多いのではなかろうか。つまり要するに、電動自転車は「走る重量級家電」なのである。
ゆえに、通常の自転車にはない一手間や苦労が付き物だ。これもまた慣れれば問題はない。しかしこのたびの初体験で、全く戸惑わなかったかと言えば嘘になる。
・結局何にも勝る楽しさ
さて、ここまで電動自転車についてネガティブ寄りに語ってきたが、実のところ筆者は電動自転車をいたく気に入っている。それとなく使用回数を増やしていって、何とか「これは私の所有物である」ということにして家族から奪い取れないかと画策するほどには気に入っている。
何故か。「楽しいから」に尽きる。筆者のような体力に乏しい人間にとって、乗っていて全く疲れないというのは何よりも大きい。そしてここまで示唆してきた通り、筆者は全てを忘れて調子に乗りやすい性質であるため、疲れないと知ったらどこまでも走り出す。
サイクリングに没入したのは、正直に言って初めて自転車に乗った子供の頃以来かもしれない。翼が生えたようにぐんぐん前に進む。世界がどんどん広がっていく。阻むものは何もない。
自宅の近所に、「通常の自転車で立ち漕ぎをすれば登りきれなくもないが、いざ立ち漕ぎをして途中で力尽きたところを人に見られると恥ずかしい」くらいの坂、すなわち個人的に「世間体破りの坂」と呼んでいる勾配が存在するのだが、その程度の坂は電動自転車の敵ではない。
より険しい、見上げるくらいの坂であっても、多少ペダルに力を込めればたやすく走破できる。もはやゲーム感覚で坂を歓迎してしまっている自分さえいる。まして平地を走っている時は鼻唄が止まらない。「動く歩道」ならぬ「座る歩道」に乗っているような気分である。
・たまにはこうして
というわけで、それなりに長々と「驚いたこと」3選を語ってきたが、いかがだっただろうか。筆者は電動自転車に出会えて良かったと思っているし、変な話、出会ってしまって後悔している部分もある。
忘れかけていた「乗り物に乗る楽しさ」が呼び覚まされて幸福である一方、果たして自分は通常の自転車に戻ることができるのだろうかという不安も否めない。とはいえ、もし本記事を読んで電動自転車に興味を抱いた方がいるなら、是非ともその心に従うことをお勧めする。
最新のファッション、最新のグルメ、最新のツール。それらを追いかけるのも良いが、たまにはこうして、ぶらりと横道に逸れるのも悪くなかろう。風の吹くまま、電気の走るままに。
参考リンク:パナソニック「ビビ・SL」商品ページ
執筆:西本大紀
Photo:RocketNews24.
西本大紀






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