そんな考えではキミはホストになれない【実録】ナンバーワンホストが私に教えてくれたビジネスと人生の勝負論(3ページ目)※1ページ目はこちら

・行動力を伴う頭脳派 ナンバーワン「S」

2番目に会った「S」は、ホスト界の顔役的人物が経営する店舗で売り上げ連続ナンバーワンを誇る、売れっ子ホストだった。


高校卒業後すぐにナイトワークを始めたSは、この道一筋18年、生粋の「夜の男」である。一般企業の就業経験はない。だが彼は、優れたビジネスマンだった。彼の強みは「行動力」「スピード感」「対話力」「記憶力」など多岐にわたるものだった。


○行動力とスピード感

SのLINEに「おはよー☆」などの不要な会話は一切ない。最初に送ってきたのは、店内で私が話したランチのお店に一緒に行こうという誘いであった。無駄がなく的確な文面で、仕事のとき同様、一往復半で待ち合わせの日時と場所が決まった。


ランチの席で私が近くのボクシングジムに通っている話をすると、興味を示し、スマホを取り出し、その場で会員登録をし、私が予約しているプログラムで隣のサンドバッグを確保した。その時間、およそ2分。私が好きなものごとに興味を持ち、共感し、行動で示す。しかも爆速で。顧客のフィールドにするりと入り込んでなくてはならない存在になる、というのがSの戦法のようだった。


○自己プロデュース

Sは自分を「特徴のない男」だと評価する。アイドルのような顔立ちがあるわけでもなく、背が高いでもなく低いでもない。ホストとしてこれといった「売り」がないのだという。実際、数年前までは月間売り上げ300〜400万円という「普通の」ホストだったそうだ。


そこそこの売り上げで満足し、上を目指すわけでもない。毎晩閉店までお酒を飲んで、その後もお客さまや同僚たちと朝まで酒を飲む。夕方ごろ目覚めて二日酔いの頭を抱えながら出勤する、そんな日々を送っていたそうだ。だがある日、そんな彼を見かねた経営者が「もったいない」と苦言を呈する。


その経営者の指導の元、Sは自分を改革することにした。


まずはブランディングから。普通の顔立ちの彼は他のホストとの差別化を図るために、ヒゲを蓄えることにした。髪形や服装もそれに合わせ、「ダンディ」にしていく(それは本来、彼の好きなスタイルではないそうだ)。次に変えたのはライフスタイルだ。深酒をやめ、朝起きて昼に活動する生活に変えた。毎日ジョギングもする。そうすると徐々に売り上げがのび、気が付いたらナンバーワンになっていたというのだ。


もしかしたらそれは、一般企業勤めである私向けのストーリーだったのかもしれない。だが、全てがウソというわけでもなさそうだった。事実、彼とはその後も何度か店外で会ったのだが、全て昼間の時間帯だった。



○リスク分散と泥臭さ

ナンバーワンであるSは、本来は月に数日の休みを取ることが許可されている。だが、彼はその権利を行使しない。毎日出勤し、コツコツと新規開拓に努める。


「太客(大口顧客)を一本釣りして、そのお客さまが来店するときだけ出勤するスタイルのライバルもいるが、俺はそれをよしとしない。コツコツと泥臭く積み上げていって、最後に勝つ」


売り上げの内訳は、月間1000万円だとしたら「1000万円の顧客1人」「800万円1人+100万円2人」などさまざまだが、ホストの多くは「エース(売り上げの多くを占める顧客)」によって支えられている。その中、Sは「100万円×10人」を目指す。特定の顧客への依存度を低くし、リスク分散を図るためだ。その10人のプールを作るために、「男性客」「昼職(一般企業勤め)」など、幅広い層の新規開拓に日々まい進する。


○ホストはチームワーク

Sの名刺には役職名がなかった。


先に書いたように、当時のホストクラブでは売り上げが多い順に「それらしい」役職名が付くことが一般的で、彼が勤務する店舗でも、彼以外のナンバー入りホストには「部長」や「主任」などの役職が付いていた。役職名がない理由を問うと、彼は「肩書は必要ないから」と答えた。


事実として自分はナンバーワンであり、わざわざ役職でそれを誇示する必要はない。それに「管理職じゃなくても、メンバーのフォローはする。そんなの当たり前だ」とのことで、言葉の端々からチーミングを大切にしている様子が伺えた。


Sいわく、ホストはチーム戦である。売れっ子/そうではない、会話が得意/飲みが得意など、さまざまなメンバーがそれぞれの得意分野を生かしてサポートし合い、全体の売り上げを伸ばしていく。


「自分ひとりの力では、俺はナンバーワンにはなれなかった」と語るSに、「足を引っ張るようなメンバーとチームを組むぐらいだったら、私は一匹狼でいいや」とカマを掛けたところ、ちょっと真剣な表情になった彼に「そんな考えでは、キミはホストになれない」と諭された。


その言葉を聞いた直後は「いやいや、私は女だから、そもそもホストにはなれないよ」と思ったのだが、後にゆっくり考えたらそれは「社会人として、やっていけない」という意味だったと気が付いた。


2人のトップホストが語ったのは、「チームワークの大切さ」だった。どんな職業でも、その道を極めた人間の言葉には力がある。どちらかというと一匹狼スタイルである私だが、彼らの言葉を胸に、これからはチーミングにも意識を向けようと思う。


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執筆:謎のプロライター
画像:Google「Gemini」