
こんな光景をご存じないだろうか。薄暗い土蔵のような、古い日本建築の天井の梁から、おびただしい数の鮭が頭を下向きに吊るされている──
自動車情報誌だったか機内誌だったか、昔なにかの記事で見たことがあり、「あれはどこだったのか……」とずっと気になっていた。GWの混雑を避けて日本海側を旅しようと計画していたとき、偶然それを思い出した。
・鮭の街であの光景を探す
不勉強ながら「鮭といえば北海道」というイメージがあった筆者。しかし新潟県村上市の塩引鮭は、食通のあいだではよく知られた伝統的な名産品だそう。
当地では鮭に敬意を払い、皮から骨まで余さず食べる。そのために生まれた料理法は100種類以上! ぜひ現地で食べてみたい。
しかし近年の国内旅行では「ふらっと訪れて良質な体験をする」ということがとても難しくなっている。有名観光地はもちろん、飲食店でも予約がないと入店すらできないことがあるし、開店前から行列なんてざらだ。渋滞で大幅に予定が狂ったことも一度や二度ではない。
行く前に入念にリサーチすること、予約すること、クチコミで攻略法を探すこと、などの “情報戦” は避けて通れないものになっている。
今回行ってみたいと計画したのは、1年中、鮭づくしのコース料理を食べられる名店「千年鮭きっかわ 井筒屋」だ。店構えや品書きをひとめ見れば、大変な人気店であることがわかる。
歴史的建造物を利用した店舗は席数も限られ、相当にハードルが高いだろう……と覚悟したのだが、風来の旅行者にも救済策があった。
当日席について公式サイトで丁寧に案内(令和7年5月現在)されており、毎日午前9時30分、店頭にウェイティングリストが出される。受付をすると戻ってくるべき時間を教えてもらえる。行列で殺伐とすることも、利用者に時間の無駄が生じることもなく、非常に美しい方法だと思った。
実際の入店時間までのあいだに街を散策しよう! 周囲は趣(おもむき)ある町屋通り。江戸の雰囲気を残す町屋のほか、大正・昭和レトロな建物が点在する。
井筒屋のオープンは11時なので、仮に第1グループに入れたとしても食事まで1時間半以上。軽く小腹を満たしたい……
と思って歩いていたら、朝9時からオープンしている和菓子店「十輪寺茶や 越後岩船家」を見つけた。ボリュームたっぷりの「十輪寺串だんご」を頬張った。筆者は朝食に菓子パンやドーナツも全然いけるクチなので、イートインできて歓喜!
糖分を補給して散策再開。町屋通りは、端から端までゆっくり歩いても10分ほど。古い建物が立ち並ぶが、ひときわ存在感を放っている一角があった。「千年鮭きっかわ 本店」だ。
店頭で鮭加工品の販売を行っているほか、店の奥に進むと……
これだ、この光景!
梁から無数の鮭が吊るされている。圧倒的な生命の気配と、塩の匂い。JR「大人の休日倶楽部」CMの吉永小百合さんを記憶する人もいるかもしれない。
村上の鮭には、独特の作法がある。切腹をさせないため腹部を全部割かずに一部残したり、首吊りをさせないよう下向きに干したり。城下町であり、また鮭に感謝と敬意を捧げてきた歴史的背景があるそうで、解説がとても面白かった。
個人的に興味深かったのが、てっきり土蔵だと思い込んでいたのが家の一部分、つまり生活空間だったこと。専用の作業場や離れなどではない。現代の家で言うなら、リビングに隣接したキッチンの天井にずらりと吊るしてあるようなイメージ。
当然、家の中には常に塩の香りが漂い、家族全員が鮭が目にしながら生活するのだろう。“暮らしの中心に鮭がある” と言っても過言ではない。
・街からして鮭づくし
町屋通りから少しそれて小道に入っていくと「黒塀通り」がある。行政ではなく、住民主体で景観づくりが行われた珍しい地域だという。晴天も相まって、とても風情のある裏通りだ。「路地裏」「袋小路」「鍵の手」などが好物ならたまらない!
また、付近一帯では「春の庭 百景めぐり」というイベントが行われていた。寺社・商店・個人宅の庭を無料で公開しているもので、チャイムなどを鳴らさず自由に見学してよい。街全体がウェルカムな雰囲気でとても心地いい。
ぶらぶら歩いていると、その名もずばり「鮭公園」にたどり着く。直球ネーミングだが、ここを流れる種川(たねかわ)は、まさに鮭が遡上してくる川だという。村上ではどこを歩いていても鮭と出会う。
巨大な鮭がどーんと鎮座する「イヨボヤ会館」は迫力満点。聞き慣れないイヨボヤという言葉、この地方の方言で鮭のことだそう。日本初の鮭の博物館だという。
「さすがに鮭だけじゃ、間が持たないでしょ~」とあなどり、ミニ資料館のようなものを想像していたら大違い。中はちょっとびっくりするくらい広かった。
(一般社団法人 村上市観光協会)
水族館のように稚魚がいる水槽があったり、漁師小屋が再現されていたり、そろそろ出口かなと思うとまだまだ展示が続き、思わず「え?」「え?」「ええっ?」と声が出る充実ぶり。
(一般社団法人 村上市観光協会)
最大の見どころは、川の中をのぞける観察窓。鮭の遡上シーズンには圧巻の光景が見られるらしい。
食事の予約時間もあったので、名残惜しいが筆者はもう行かなければならない。隅々までじっくり展示を見たら、鮭博士になれそう。
・一尾を余さず食べる村上の鮭料理
予約時間となり、井筒屋に戻ってきた。建物自体は何度か再建されているそうだが、松尾芭蕉も泊まった旅籠「久座衛門」跡地にあたる。
メニューは「八品」から「二十二品」まで各種あり、どれも鮭づくしのコース料理。筆者は「十一品(税込4048円)」をチョイスした。
前菜として「鮭の酒びたし」「鮭の手まり寿司」「鮭の白子の寒風干し」(写真右から時計回り)が登場。
下戸だし運転もあるしで、「酒びたし」はどうしようかなと思っていたが心配無用だった。普段は日本酒にひたして食べる同料理だが、コース内ではアルコールは一切使用していないという。
先ほどの町屋見学で、何か月も寒風に吹かれることでアミノ酸が凝縮するという話を聞いてきた。「酒びたし」は旨みあふれる鮭のジャーキー。「白子の寒風干し」はねっとりとした濃厚な食感が味わえる珍味だった。ほんのひとかけらなのに、口の中に残る存在感がすごい!
続いて登場したのは七輪だ。まずは「鮭の酒びたしの皮」を焼く。ドラゴンのうろこのような皮を七輪に載せると、くるくると踊り始める。カリッとした食感が楽しい。
なお、仲居さんが食べる順番、焼き方、素材や製法などを丁寧に解説してくれるので、初めてでも戸惑うことはまったくない。名店なのに格式ばったところがなく、気さくなおもてなしに緊張感がほぐれる。
七輪焼きを楽しんでいるあいだに料理が揃う。「鮭の焼漬」(写真上段の中央)は焼いた鮭を醤油だれにひたしたもの。
筆者は煮魚のクタクタとした軟らかさが少し苦手なのだけれど、焼漬は焼魚の歯ごたえを残しつつ、しっとり出汁が染みて “いいとこ取り”! この時点でお土産購入は済んでいたのだが、帰りに焼漬を追加してしまった。
「はらこの味噌漬」(写真上段の右)は濃厚な魚卵にさらに味噌のコクが加わり、無限にご飯が進む。「鮭のかぶと煮」(写真上段の左)は佃煮のような懐かしさのある味だった。
筆者のオーダーした十一品コースは、基本の八品コースに「鮭の白子煮」「鮭の生ハム」「鮭の昆布巻」(写真右側の上から)が加わったもの。ひとつひとつは小鉢くらいのミニサイズだが、積み重なるとかなりのボリューム感。高級料理にありがちな「キレイだけれど足りない!」という心配はまったくいらない。
メインディッシュと呼べるのが「鮭の塩引」だ。先ほどの七輪で焼いて、一切れはそのまま白米で、もう一切れはお茶漬けにして食べる。お茶漬け時にはご飯を追加してもらえるので、残しておかなくて大丈夫。
米どころ新潟、土鍋でほっかほかに炊かれたご飯が美味しくないわけがない! 出汁はまろやかな地元の村上茶。鮭はそのままでもかなり味が濃く、塩気を感じるが、出汁をかけることで優しい味に変化する。鮭の旨みが溶け出た出汁もまた、飲み干したくなる美味しさ!
・濃厚な体験ができる下越の旅
おそらく「発酵」がキーワードになっているだろう、独特の風味がクセになる料理の数々。大規模開発された観光地とはまた違う、さりげなくも美しい街並。公衆トイレなどもきれいに整備され、街の人々が旅行者に対してオープンマインドなところも素敵だった。
実はこの旅でもうひとつ、大好きになったものがある。苦みや尖りがまったくない、まろやかな村上茶だ。千年鮭きっかわでは村上茶を扱う「茶館 嘉門亭」も営んでおり、次はそちらを訪ねてみたいと画策している。アフタヌーンティーを体験したいけれど、井筒屋のボリュームたっぷりなランチとは両立しないのが悩ましい!
参考リンク:千年鮭きっかわ
執筆:冨樫さや
Photo:一般社団法人 村上市観光協会、RocketNews24.
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冨樫さや






















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