
明日の叙景(あすのじょけい)ってバンドがちょっとキテるらしい──。そんな噂を聞いたのは楽器メーカーで働く友達からだった。その友達は、同僚の若い女性社員から聞いたそうで口伝で広まっている雰囲気を感じる。へえ、そういうバンドがいるんですなあ。
と思っていたら一緒にライブをすることになったのが2025年1月のこと。私(中澤)がやっているバンドであるsi,irene(シー・アイリーン)が「明日の叙景」の北海道ソロコンサートのゲストアクトをすることになったのだ。そんなことある!?
・音を浴びた感想
そう、1月に謎のタイミングで新千歳空港の寿司とか、比布町の日本一過保護なマンホールをレポートしていたのはライブツアーで行っていたわけです。さて置き、周りで文字通り話題になっていたバンドの音をラッキーで浴びた私の感想は「文脈を理解したくなるバンド」というものだった。
メタルシーンから出てきてネットを通じ海外で評価され、実際にヨーロッパ・ツアーも回っている明日の叙景。その評判だけ聞くと硬派でゴリゴリなメタルバンドを想像する。でも、音を浴びたらいわゆる王道ではないことが理解できた。
・等力桂さんに話を聞いてみた
確かに、歌とドラムはメタル感がある(デスボイスだし)んだけど、ギターのアプローチがゴリゴリ刻むグイグイしたメタル感とは違うのだ。コードの豊かさと浮遊感があってUKロックっぽさも感じられる。
そこで打ち上げで作曲をしているギターの等力桂(Kei Toriki)さんに話を聞いてみたところ、メタラーからは「ポップだ」と言われ、邦ロックやJ-POPファンからは「メタル」と言われるのだとか。そして、それゆえに、どちらのイベントに出ても異端児になるのが強みなのだそうな。でも、なんで今の音楽性になったの?
(左からDr.齊藤 誠也、Ba.関 拓也、Vo.布 大樹、Gt.等力 桂、サポートGt.Gen)
等力桂「実は、メタルと同じくらい、JロックとかJ-POPも自分の根本にあって、例えば移動の車の中でかかってたSUPERCAR(スーパーカー)とか普通にブチ上がりましたし。そういう自分が好きな音楽のパーツを全部集めていったら今の形にまとまったんですよね」
──それは本当に “キメラ” な話ですねえ。
・ミュージシャン的に気になったポイント
で、せっかく私もミュージシャンの端くれなので、その目線で注目してしまった点も議題にあげてみた。それはライブでアンプを使ってなかったこと。
エレキギターはギターアンプに通して音を増幅して出す仕様なので、普通ステージ上にはアンプが並んでいる。さらに、足元にコンパクトエフェクターを並べて音色を変えるというのが昔から多くのギタリストがライブでやっている手法だと思う。
でも、明日の叙景のステージ上にはエフェクトボードどころかアンプすらない。結果、ライブ中のパフォーマンスが何者にも縛られてなくて自由なのが印象的だ。
等力桂「ギターの音はQuad Cortex(マルチエフェクター)で作り込んでLineでイヤモニに返してもらってます。クリックを聞きながら演奏して、曲の進行に合わせてエフェクトが勝手に切り替わるようにプログラミングしてます。使ってるDAWは『Cubase12』でMIDI CCでQuad Cortexの音色切り替えを制御してますね」
──ほえ~、モダン。それって最初からそうやってるんですか?
等力桂「いや、実は結構アンプ派で、このスタイルになったのもここ1年くらいのことなんですけど、やってみたら良いことしかないなと」
──例えばどんな利点があるんですか?
等力桂「足元の切り替えの動きがないことによって、普通にギターがウマくなるんですよ。やってみて、エフェクターの切り替えにどれだけ意識を持っていかれてたのかということに気づきました。
あと、ライブハウス機材のレンタル費が削れるのも大きいです。節約できた分を極力人件費に回して、音作りのチームが固定できるのはバンドにとって相当デカイと思います」
──それは確かに合理的。そういうやり方って明日の叙景を取り巻くシーンだと普通なんですか?
等力桂「普通……ではないけど、やってる人もいるって感じですかね。海外のバンドとかだと」
・改めてソロコンサートへ
音楽の進化は楽器の進化と共にあって、新たなムーブメントは新しい技術の発明から生まれるという話がある。例えば、ロックにはエレキギター、テクノには打ち込みがあるように、ここから生まれるものがあるのかもしれない。いや、もしくはもう生まれてるのか?
少なくとも私はこの話にカルチャーの匂いを感じた。音楽性も含めて新世代と言える。
そんな打ち上げで話した印象が再度頭をよぎったのが、2025年3月12日の渋谷クラブクアトロ。この日、明日の叙景のソロコンサート「海を渡る翼」が開催されたので行ってみたところ……
会場は入口まで人でいっぱい。男性の割合が大きく、曲間の歓声が雄たけびみたいにも聞こえる。ライブハウスシーンでの盛り上がりを感じずにはいられない。
・風穴を開けるか
中には品定めに観に来たメタルファンもいる模様。本編が終わった後の喫煙所では、硬派なメタルファンが「ポップかメタルか」について感想を話し合う姿も見受けられた。言ってること凄い分かる。ただ、それゆえに……
それは明日の叙景が放つ新しさの証明であるようにも感じられた。明日の叙景はこれからもこういった議論を巻き込んで進んでいくのかもしれない。
なお、ライブ中の等力桂さんのMCによると「まだ詳細は言えないけど、なんかレコーディングしてる」とのこと。シーンに風穴を開けるか? そんな未来がほんのり感じられたソロコンサート『海を渡る翼』。フェスで名前を見かけたら話の種に見てみるのも一興かもしれません。
執筆:中澤星児
Photo:Jun Tsuneda
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中澤星児









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