そのトイレはあまりにもオシャレだった。だから最初に見たときは音楽ホールか芸術ホールか、あるいはオシャレなカフェかと思った。

いま改めて外観の写真を見ても、いい意味で公衆トイレっぽくない。この空間の奥で東京管弦楽団がコンサートをしていても、あるいはシルク・ドゥ・ソレイユが公演していても違和感がない。

しかも、見た目が良いだけではない。実際に利用してみるとメチャクチャ快適だった……が! 同時に、考えさせられたのだ。公衆トイレとは何かを。

・トイレにオシャレは必要か?

問題の公衆トイレ(幡ヶ谷公衆トイレ)は、個室2つに男性用小便器が2つという構成になっている。ちなみに、個室トイレはどちらも男女利用可能で、赤ちゃんのオムツ替えなども出来る多機能タイプ


子どもがいる身としては大変ありがたい。というか、機能的には有料でもおかしくないにもかかわらず無料で利用できる点も嬉しい限り。

さらに、中は広々としていて清潔。


日本公衆トイレ快適度ランキングなんてものがあったら、TOP50には間違いなく食い込みそうなクオリティである。

しかし、考えてみてほしい。人が公衆トイレを利用する時はほぼ緊急事態である。ちょっとした尿意・便意なら我慢するが、我慢できないほどの波が来たから公衆トイレを使うって人が大半ではないだろうか。

そのようなビッグウェーブに耐えているときに欲しいのは、外観のスタイリッシュさではない。とにかく数が多くて……つまり空いている確率が高いトイレだ。

ところが、問題のトイレ、個室の前に庭のようなスペースが設けられているではないか。


それも狭苦しい感じではなく、かなりゆったりとしている。

もしも2つの個室が満室で、限界の便意と戦っている人がここに立ち尽くしていたら……どう感じるだろうか? 私だとしたら、間違いなくこう叫ぶはずだ。


「こんなオシャレ空間いらんから、もう1室個室作ってくれや!!!!!」



・利用者ニーズとのギャップ

もちろん、ゆったりとした空間で用を足したいというニーズもあるだろう。散歩がてらに立ち寄って のんびり用を足すという贅沢な時間の過ごし方もある。

が、公衆トイレに課せられた使命はあくまで「緊急事態への対処」ではないだろうか。

設計者としては、ゆとりのある洗練されたトイレ空間を作りたいのかもしれないが、利用者からすれば「とにかく今すぐ用を足させてくれ」なのだ。決壊寸前の状況で、オシャレ空間を楽しむ余裕なんてあるわけがない。

ただまぁ、何でもかんでも利用者二ーズに合わせすぎると、それはそれで没個性になりがちという問題は確かにある。なので難しいところではあるなぁ……と思って周囲を歩いていたら、さらに衝撃を受けた。


なんと!


そのオシャレ公衆トイレの隣、徒歩1分ほどの場所にもう1つ公衆トイレがあったのだ。


つまりこの周辺は、公衆トイレの密度が妙に高いのである。


一体全体、どういうことだ? もしかして、この地域では日頃から「トイレ難民」が大量発生しているのだろうか? 私には見当もつかない。

私が思いつくことといったら、区が「“人間の尊厳” は俺が守る! 絶対に漏らさせないから!!」という強い決意を抱いている……ということくらいだ。



とまあ、オシャレすぎる公衆トイレを前にして、「え?」となった話を書き連ねてみた。当時の状況を思い出しているうちに、なんだかお腹が痛くなってきたような……。

そろそろ、トイレ休憩とさせていただきます。もちろん、音楽ホールのようなオシャレトイレではなく、昔ながらのシンプルなやつで。では、ごきげんよう。

・今回ご紹介した施設の詳細データ

施設名 幡ヶ谷公衆トイレ
住所 東京都渋谷区幡ヶ谷3-37-8

執筆:和才雄一郎
Photo:RocketNews24.