日常にある見慣れたものが小さくなるだけで、どうしてこうも “萌え” をかき立てるのか。「うわ、ちっさっっっ!」というのは一種の興奮である。ミニチュアコレクターやハンドメイドファンなら、きっと共感してもらえるはずだ。

とりわけ何段階ものミニチュアが作り出す “らせん構造” は魅惑的。「ドールハウスの中のドールハウス」とか。「テレビの中にテレビが映っていて、さらにそのテレビにテレビが映っていて……」とか。

というわけで究極のロマン、ミニチュアでミニチュアを作ってみた。ちょっと何言ってるかワカラナイと思うが、以下のようなことだ。


・ミニチュア作品「こびとシリーズ」

ミニチュア制作、コマ撮りアニメ、トリックラクガキと多方面で活躍するクリエイターのМozu(モズ)さん。名前までは知らなくても、「壁の中にこびとが住んでいるミニチュア」ならきっとSNSで見たことがあるだろう。

ただ精巧なだけでなく、住人がありありと想像できるような「物語性」が最大の魅力。そんなMozuさんのミニチュアをミニチュアにした「みにちゅあーと」を作ってみた。……くどいな!

株式会社さんけいの「みにちゅあーと」は、レーザーカット済みの厚紙パーツを特徴とするペーパークラフトキット。大小さまざまあるが、Mozuさんコラボの「こびとのベランダ」(税込2530円)は、ACアダプターくらいの手のひらサイズで販売されていた。


開封すると名刺サイズの素材シートが18枚も出てくる。紙の利点を活かし、細かく色分けされている。


さっそく作ってみよう。どんなに小さなパーツも、1~2か所をカットするだけで切り離せるようになっている。上手く刃が入ると、サクッという手応えとともにパーツが分離する。この感覚が気持ちいい!

素材が厚紙だから、バリやケバ立ちもカッターで簡単に処理できる。ペーパークラフトで一番面倒な “パーツをきれいに切り出す” という工程をまるまるショートカット。ペパクラ界のパラダイムシフト!


ご存じMozu作品は、コンセントカバーをパカッと開けると中が秘密基地だったり、風呂場のタイルを1枚外すと同じ雰囲気の風呂場が登場したりと、「実在の人間サイズの部屋との組み合わせ」が印象的。ここでも「壁の照明スイッチ」と一緒に作り込んでいくぞ。

厚みのある硬質紙は、プラモデルのようにカチッと噛み合う。重ねることで立体感が出て、窓枠などの陰影をリアルに表現できる。


エアコンの室外機カバーやベランダの格子といった、人の手では切り出せないほど細かい部品もカット済み。

「みにちゅあーと」の恐ろしさは、一般人が簡単に買える「趣味」のキットに、すさまじい精度のレーザーカッティングが施されているところだ。高度先端技術の無駄遣い!(褒め言葉)


子ども部屋を再現した「こびとのベランダ」は、投げ出されたランドセルや黄色い筆洗いバケツ、並んだ漫画本などが発表時に「リアルすぎる」と話題になった作品。

この部屋の主役(?)「伝説の二度寝」の習字もばっちり紙パーツで再現。もはや印刷がつぶれて読めないが、学校の行事予定表や賞状やカレンダーが用意されていた。

上写真で壁掛け時計が立体的になっていることがわかるだろうか? 薄いシートの文字盤に、硬質紙を重ねることで厚みが表現されていた。本物のMozu作品では、腕時計をはめ込んだのだそう!


……と感心していたら、プリントシートをカッターでざっくりやってしまった。不注意だった。いかん、いかん。

裏面をテープで留めて、改めて切り出すことでリカバリーした。失敗を「それっぽく」ごまかすことは得意だ。


コンセント、外壁、ベランダ、内壁など大きな部分は完成。ここまでの工程は「短気を起こさず、丁寧に作業する心」さえあれば誰でも到達できるだろう。


・地獄はここからだった

続いて家具や小物を作っていくが……うぉぉぉこれは小さい! 壁や床を作っているときに比べ、段違いにサイズダウンした!!

棚を組み立て、本に見立てた紙片を飾っていく。実際のMozu作品ではコロコロコミックなど、小学生男子が好みそうな雑誌が登場。

だんだん木工用ボンドとの格闘になってくる。狙ったところに確実にパーツを置くことが難しくなり、あちこちに意図せずボンドがついてしまう。思ったのと違う角度で接着されてしまったり、ゴミが付着したり……


ひぃ、筆洗いバケツが吹っ飛んだ! 紛失したかと思ってしばらく探した。

エアコンの風ですらパーツが散逸するレベルになってきたため、ここからは無風。指先への過度な集中を求められて酸欠のようになってくる。控えめに言って気が狂いそうだ。


息が詰まるような作業が続く。写真右下の紙クズのようなものはレゴブロックの「おうち」だ。順調だった前半に比べ、後半の小物作りのほうが100倍はツラい……!


しかし小さいながらも、ちゃんとスノコのシェルフに見えるなど、再現度は抜群!


「楽しい」を通り越して「正気の沙汰ではない」作業が続くが、Mozu作品のこだわりが存分に再現されていた。図画工作で作っただろう紙粘土の人形とか、赤いミニカーとか、マグネットで閉まる筆箱とか、小学生男子の暮らしが活き活きと伝わってくる。


最終工程、これまでに作ったパーツを配置していく。これは「ご褒美」のような楽しい作業だ。最後にキットが入っていたパッケージに収めて完成。天井に「明かり取り」の穴を開ける方法も紹介されていたが、せっかくなので100均のライトを仕込んでみた。


・完成像はこちら!

本物の住宅の壁紙そっくり……なんなら「うちの壁紙にしか見えない」台紙に、照明のスイッチがついている。


スイッチの隣にはベランダがあって、物干し竿やエアコンの室外機が見える。


のぞき込んでみると、小学生のこびとが住んでいる! 屋外からの構図のため、部屋のすべては見えないけれども、この「かいま見る」感じがイイ! ロフトベッドに勉強机、カラーボックス、スノコシェルフ……壁にはたくさんの掲示物が無造作に貼りつけられている。


しかしすべては手のひらサイズ! 信じがたい。

もともとの作品はエアコン室外機が消しゴムくらいのサイズ感。それがさらに、何分の一にも縮小されている。

さすがに細部は「小さすぎて元ネタがわからない」くらいになっているが、Mozuさんのこだわりが極限まで再現されているのがわかる。完成すると、途中の苦労なんてどこかに吹き飛ぶ中毒性……それがミニチュアだ。

そんなMozu作品が見られる個展『Mozu ミニチュア展 ようこそ、ちいさな世界へ。』が全国を巡回中だ。すでに終了の会場も多いが、宮城、沖縄、新潟、北海道、福島と続く。グッズコーナーでは「みにちゅあーと」も買えるぞ!


参考リンク:『Mozu ミニチュア展 ようこそ、ちいさな世界へ。』公式サイト
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.

(C)MOZU STUDIOS
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