長崎のお盆といえば「精霊流し」である。さだまさし氏が歌う「精霊流し」という曲でご存知の方も多いと思う。

あの静かで寂しい曲から、両手ほどの小さな舟をそっと川に流し、涙を流し故人への想いに手を合わせる……そんなイメージを抱くのではないだろうか。

いやいやそれが、実はまったく違うのだ……。今年、母の初盆を迎えて精霊流しに参加してきたのでレポートしたい。

・多分、日本一うるさいお盆

最初に言ってしまうと、長崎の精霊流しはすさまじいレベルでうるさいのである。

夕方から夜にかけて、派手な飾り付けをした大きな精霊船をみんなで引きながら「どーいどーい」という掛け声とともに、爆竹をバンバン鳴らし、花火に火をつけながら歩いていく……というものなのだ。

そのうるささたるや、耳栓がないと近くを歩けないレベル。

コンビニやスーパーでは耳栓が大量に売られ、うっかり耳栓を忘れた人が耳鼻科に駆け込む羽目になる……といった感じである。

さだまさしの『精霊流し』の曲のイメージで来て、呆然とする観光客が後をたたない。ちなみに、近くだと爆竹が爆発する可能性があるので、やけどしないように足元は靴下+スニーカーがよい。サンダルだと危ない。



・精霊船の飾りつけも独特

ちなみに、故人の魂を西方浄土へとつれていく……という、精霊船は不思議な形をしている。

船のまわりを花や提灯で飾り付けをして、先頭には「みよし」というラッパみたいな大きな赤い名前が入った部分がある。

そして、船の屋根に西方丸という帆を立てる。

ちなみに、精霊船の中には故人へのお花やフルーツなどの供え物をくるんだ「こも」という包みを入れる。

「印灯籠」という目印の灯籠を掲げた人が船を先導し、鐘を持った人がカーンカーンと鐘を鳴らすと「どーいどーい」という掛け声をかけながら精霊船を運んでいく……という感じ。

小さな精霊船の場合は手持ちのことも多いけど、大きい精霊船にはだいたい車輪が付いている。重くて担ぐのは難しいからである。

精霊船の形は意外と自由なので、故人が好きだったものをモチーフにすることもあって、デザインが個性豊か。最近はペットの精霊船を出す人も多い。

これは一大イベントなので、地元のテレビ局が解説付きで実況放送するのが毎年恒例になっている。



・最近は数も減ってしまった

ちなみに、初盆を迎える家庭全部が精霊船を出すというわけではない。町内会とか葬儀場が合同で出す「もやい船」に乗せることもある。

我が家も葬儀場のもやい船に乗せてもらう形だった。

今は故人で精霊船を出せるほど人出がある家も少ないので、もやい船が増えてきたなあという印象。船を作る準備も、持っていくのも大変だしね……。



・お祭りみたいだけどお祭りじゃない

精霊船を運ぶときに、爆竹を鳴らすのは中国からの影響で、魔除けの意味あいがあるらしい。


この爆竹の量がハンパではなく、見せ場と言われる浜町アーケード前の交差点や、県庁坂の交差点では数箱まとめて爆竹に火を付けるのである。そのうるささ、激しさたるや!

地面は爆竹の燃えカスで真っ赤になるほど。過去には爆竹の火が精霊船に引火してボヤ騒ぎが起きたこともある。


精霊流しは独特の熱狂に包まれるけれど、悲しみを忘れて騒ぐための行事ではない。


盛大に見送ることが故人への弔いであり、残された人たちが心に区切りをつけるための行事だという想いが、みんなの心にあるのだと思う。

だから、うるさい中にも、寂しさと物悲しさが漂っている。


ちなみに精霊船は最後に波止場にある「流し場」で作業員の方たちの手によって解体され、壊される。

自分たちが運んできた精霊船の提灯や飾りが外されていく様子を見ると、本当に別れのときが来たように感じる。さっきまでの喧騒が嘘のようで、なんだか涙が出た。


そして、爆竹と花火の燃えカスで赤くなった地面は、夜中のうちにキレイに清掃され、次の日の街は完全に日常へと戻っている。

以前、長崎の精霊流しのドキュメンタリーに出演していた方が「長崎の人はお葬式と精霊流しで、亡くなった人と2回お別れができる」と言っていた。

実際に参加してみると、まさにそのとおりだと思った。暑さと人混みと喧騒の中、船をひいて歩くのは大変だったけれど、明るくお別れができてよかったと思う。

みなさまもぜひ、耳栓持参で一度長崎の精霊流しを見に来てみてほしい。本当に死ぬほどうるさいのだが、一見の価値はあるんじゃないかと思う。


参考リンク:長崎旅ネットKTN長崎放送(動画あり)
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.
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