セブンイレブンのパンコーナーでその商品を目にした時、筆者は最初「ビッグカツ」が置いてあるのかと錯覚した。薄くつぶれた茶色いビジュアルに、カツフライを模した有名な駄菓子を強く想起させられた。

が、たとえどれだけ店員の方が不調をきたしていたとしても、「ビッグカツ」を誤ってパンコーナーに並べるような大事故は中々起こりえまい。何よりよくよく見直してみると、「韓国風クリスピークロワッサン」とシールに名前が書いてある。

どうやらこの「つぶれたパン」は、2024年5月28日より始まった韓国グルメフェアにて登場した商品のうちの1つらしい。一体どんな味なのかと、気付けば筆者はそれを手に取っていた。


他にどういった韓国グルメが登場しているのかは公式サイトを確認してもらうとして、「韓国風クリスピークロワッサン」について補足しておくと、同商品は「クルンジ」と呼ばれる韓国の人気スイーツをイメージした菓子パンとのことである。

「クルンジ」はクロワッサン生地を薄く伸ばして焼き上げたものだそうだ。日本でも流行の兆しを見せているようで、ゆえにこそ「韓国風クリスピークロワッサン」が生まれたということなのだろう。ちなみに同商品の価格は税抜158円であった。

クロワッサンと言えば「ふんわり感」が大きな特徴で、それをあえて放棄しているというのは斬新である一方、正直なところ容易には受け入れがたい。

もっと言えば、個人的にはその独特の形状に「後で食べようと思ってバッグにしまっておいた調理パンがいつしか奥底へ沈み、見るも無残な姿に変わり果てていた」時の状態を彷彿させられて、あまり気持ちが落ち着かない。

そういうわけで、様々な角度からネガティブな感情を刺激してくるこのパンに対し、筆者は美味しさへの期待というより「珍しいもの食べたさ」をもって実食に臨んだのだが、そんな斜めにねじ曲がった好奇心は確かなクオリティによって咎められた。



クロワッサン生地の重層に、おこげ仕立てのキャラメリゼが合わさって生まれる、やや硬めのザクザクとした食感。チョコや砂糖に覆われた見た目に反して、味覚に優しく沁みるような落ち着いた甘さ。その食感と甘さの協奏が、こちらの心を次第にじんわりと溶かしてくる。

なるほど、と思わされた。当然の話ではあるのだが、何もこのパンはふざけてこの形になったわけではない。このパンはこの形でなければならないのだ。この「噛むと染み出る甘さ」を演出するためには、クロワッサンをぎゅっと濃縮しなければならなかったのだ。

「物事には理屈がある」という自明の理を異文化接触によって再認識した瞬間であり、そして「異物」が「好物」に変わった瞬間でもあった。噛めば噛むほどクセになる味わいに、いつしか筆者は引き込まれていた。



これは良い。この商品が、ひいては「クルンジ」が爆発的なブームを呼ぶかどうかはわからないが、今までに誰もいなかったポジションを堂々と占めていることは間違いない。余計なお世話かもしれないが、バッグの奥底でつぶれてもダメージが少ないところも良い。

ともあれ、当記事を読んで興味の湧いた方は、速やかに「韓国風クリスピークロワッサン」を手に入れることをお勧めしたい。きっと筆者と同じく新鮮な体験ができることだろう。みすみすそのチャンスをつぶしてはいけない。つぶれていいのはこのパンだけである。

参考リンク:セブンイレブン 公式サイト
執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24.