かねてから疑問に思っていたのだが、老舗と言われる飲食店の安い商品は美味いのだろうか? 高いものが美味いのはわかる。良い素材を高い技術で調理しているから当然美味い。では、それほど高くないものはどうなんだろう?

たとえば、明治元年創業の老舗料亭「招福楼」のたこの酢の物は、はたして美味いのか? 良い素材を使うといっても、ぶっちゃけ市販のものとそんなに違いがないはず。老舗の技術は素材の持ち味を超える美味さを引き出しているのか? 気になったのでたしかめてみた!

・創業150年の老舗料亭

招福楼は、1868年(明治元年)に滋賀県東近江市の八日市にお茶屋(貸座敷業)として創業している。第二次大戦中は軍隊将校の宿舎となり、1948年に三代目が料理屋として事業を再開し、今に至る礎(いしずえ)を築いたそうだ。

後に会席料理へと発展して、現在も本店は同じ場所で営業を続けている。私(佐藤)が訪ねたのは、伊勢丹新宿店の地下1階にある持ち帰り専門店である。


本当は弁当を買いたかった。四季折々の懐石料理を詰め込んだ「十二ヶ月風流弁当」ってヤツを頼みたかったけど、税込5940円もするのである。さすがに弁当でこの値段は容易に手が出ない。

そこで! 店頭でもっとも安いと思われる、たこの酢の物を買ってみた。価格は税込756円。総菜としては高いけど、弁当に比べれば驚くほどではない。伊勢丹と招福楼のブランド力を考えると妥当な値段ではないだろうか。



そういえば購入時にお店の人が「酢の物は袋に入っています。その袋の中の汁は捨てずに、一緒にお召し上がりください」と言っていた。中身を出すと、たしかに袋には入っている。小さな容器にも液体が……。これは酢かな?


さっそく袋の中身を全部皿にドバー。見た目にとくに老舗を感じさせるものはない。うちのオカンがつくっていた酢の物と、それほど違いがあるようには見えないのだが。


続けざまに容器の液体をジャー。酸(す)い香りはしない。色からして米酢のような気がするな。


たこにも特徴はないな。繊細な飾り包丁でも入っているかと思ったけど、その様子もない。


至って普通のどこにでもありそうなオカンレベルの酢の物と思いきや……


バツグンに美味い。特別なものは一切入っていないはずなのに、家庭では食えないレベルの美味しさなのである。


その理由は食べて即座にわかった。出汁が違う。出汁の旨味がきいていて、口に含んだ瞬間にその旨味がジワリと広がるのである。米酢のやわらかい酸味が食欲をそそり、ひと口、またひと口と箸を進めるのだ。だから、お店の人は「汁と一緒に」と言っていたんだな。


出汁に使われている素材は、ひょっとすると一般では入手できないものの可能性がある。また出汁は取り方ひとつで味に大きな影響を与える。その出汁があるからこそ、150年もの長きにわたってお店を続けることができるのだろう



侮った……、たかがたこの酢の物と完全に侮っていたが、この味に歴史の重さを感じずにはいられない……。ってことで、これから酸味が欲しくなる季節。有名店の酢の物を食って、暑い夏を乗り切ろうぜ!


・今回訪問した店舗の情報

店名 招福楼 三越伊勢丹新宿店
住所 東京都新宿区新宿3-14-1 三越伊勢丹新宿店地下1階
時間 10:00~20:00
定休日 なし(施設に準ずる)

参考リンク:招福楼
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]