代々木上原駅の改札を抜けてゆるやかな坂道をのぼっていくと日本最大級のモスク「東京ジャーミイ」が見えてくる。モスクとは「イスラム教の礼拝堂」のことだが、イスラム教徒じゃなくても見学は自由。イスラムの文化や芸術を知るために毎日多くの人が訪れている。

今回私が訪れたのは「イフタールの食事会」に参加するためだ。イフタールとは「断食明けの食事」のことで、ラマダン期間中(2023年3月23日〜4月20日)は一般の方でも予約をすれば体験可能。東アジアで最も美しいと言われているモスクとイフタールを堪能してきたぞ!

・ラマダン

ラマダンについてはアキル記者が詳しくレポートをしている。彼曰く、断食の目的は「悪い欲を遠ざけて心を綺麗にし、ありがたみを知ること」だという。この日も「お腹をすかせることで貧しい人の気持ちを知り、施しをする」という断食の意義を教わった。

そして「一緒に食べれば喜びは倍になり、悲しみは半分になる」と、人と人との絆を教えてくれるのがイフタールだそうだ。


・サハラ砂漠でも

そういえば、ラマダン中にモロッコのサハラ砂漠に滞在していた時も、毎日、日没の時間を待って皆で同じ料理を食べるのが決まりだった。

日没前になると必ず誰かが「そろそろブレックファースト(断食を破る食事)の時間だ」と呼びにくる。「お腹が減って死にそう」と返すと、私の嫌いな「ラクダのミルク」をどうぞと渡してくるのが仲間内でのお約束となっていた。人と人との絆とは。


・東アジアで最も美しいモスク

さて、東京ジャーミイでは土日祝日に「館内案内ツアー(申込不要・参加無料)」が開催されている。せっかくなのでイフタールと併せて参加することに。日本とトルコの関係や同館の歴史、もちろんラマダンについても詳しく教えてもらえるぞ。

東京ジャーミイの花といえばチューリップ。チューリップの原産地はオランダではなくトルコだそうだ。言われてみるとモスクの所々にチューリップのモチーフがあって、探してみると面白い。

続いて外壁を見ると「鳥の宮殿(巣箱)」が取り付けてあるのがわかる。これはイスラムの教えである動物への慈悲の表れで、トルコ・イスラム芸術の中に頻繁に見られるという。

ただガイドの方曰く「鳥が住んでいるのは見たことがありません」とのこと。ちょっと豪華すぎたのかもしれない。

そう、同館はオスマン・トルコ様式のイスラム教寺院で、家具や装飾品、建築資材などはトルコから運んできたものだという。扉を開けてみると……

圧倒的な空間が広がっていた。ここは1度に約800人が入れる礼拝堂だという……思わず息を呑むほどの美しさだ。なお、女性は髪を布(ヒジャブ)で覆うのが決まりだが、持っていない人のために無料で貸出もしている。

2階の礼拝空間の天井には、数千年前から使われている技術「ドーム内空室」が音響装置として取り付けられている。礼拝を告げる「アザーン」や「コーランの朗唱」がよく響き渡るのだ。それと言うまでもなく、礼拝を間近で見られるのも大きな特徴と言えるだろう。

正面中央のくぼんだ部分は「ミフラーブ」と呼ばれていて、聖地・メッカの方角を示している。そんなこんなで見学を終えたら、いよいよイフタールの食事会だ。


・イフタールの食事会

イフタールは寄付によって実施されている。ラマダンは「多くの善行が祝福される月」。より多くの人、とくに貧しい人々にイフタールを分け与えるのが慣例なのだろう。寄付をしてからプレートを受け取って列に並んだ。

この日のメニューは「コーン入りスープ」「トルコの定番ピラフ」「ひよこ豆の煮込み」「ジェジック(キュウリとヨーグルトとミントの前菜)」。アル・パチーノ似のトルコ人シェフが朝から300食用意したというから驚きだ。異国情緒あふれる香りが会場に漂っている。

スープは断食明けにぴったりの優しい味。豆と野菜が溶け込んだ定番のスープだ。ムスリム版の味噌汁といったところだろう。癒される。

意外だったのは、ヨーグルトとキュウリの組み合わせ。これがけっこう美味しい。トルコでは定番らしく、家庭によってヨーグルトの濃さやとろみ具合、きゅうりの切り方やスパイス類も様々だという。すっきり爽やかな味だから夏の暑い時期にいいかも。

食べ終わったら席を立ち、次の方に譲る。会場内は断食明けを祝っているような雰囲気。そういえば、アキル記者も「僕たちは喜んで断食をしてラマダーンの月を迎え入れる」と言っていた。なるほど、喜びなのか。

なんとなく「ラマダン中はイスラム過激派によるテロの脅威が高まる」「お金持ちはラマダン前に国外に逃げる」などといった、ほんの一部の情報のせいでヤバいイメージを持っている方も少なくないだろう。言うまでもなく、実際には全然そんなことない。

というわけで、イスラム教やトルコに興味のある方は東京ジャーミイにぜひ足を運んでみてほしい。ハラールマーケットではお土産も買えるぞ。おかげで良い1日となりました。


・今回ご紹介したスポットの詳細データ

名称 東京ジャーミイ・ディヤーナト トルコ文化センター
住所 東京都渋谷区大山町1-19

執筆:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.

▼イフタールの食事会