
「フリーランス保護新法制定へ」というニュースが流れている。
ざっくり言うと、依頼主とトラブルがあっても「じゃあ、ほかの人に頼むからいーよ」と言われたら泣き寝入りせざるを得ない個人事業主のため法律を整備しようというもの。
「保護」という言葉には驚くが、一方でわずらわしい人間関係から解放される、自由な働き方ができる、自分の実力を試せる、といった魅力からフリーランスが注目されている側面もある。
はたしてフリーランスは「自己実現できる魅惑のライフスタイル」なのか「冷遇と困窮のデスロード」なのか。今回は脱サラを考えている人のために、大組織からフリーになった筆者が「驚いたこと」「泣いたこと」をシェアしたい。
・その1. セーフティネットがない
日本の社会保障制度は「集団に属していることを前提に設計されている」とよく言われる。
フリーランスに福利厚生制度は存在しない。有給休暇も傷病手当金も雇用保険もない。ついでに退職金もないから、「リタイアしたら退職金で○○しよう!」といった夢もない。
なんらかの事情で働けなくなったらジ・エンド。怖すぎる……!
自ら退職金を用意する小規模企業共済制度など、代替となる制度はいくつかあるものの、いずれにしても「自分で意識して蓄財しないと人生詰む」のは同じだ。
ひとり暮らしならまだいいが、家族を養っている人は並々ならぬ緊張感があると思う。さらに後述する恐怖の納付書ラッシュがある。
・その2. 社会保険料で破産しそう
フリーランスになって驚愕したこと、それは「国民年金保険料」「国民健康保険料」「住民税」といった、日本国民として生きていくだけでかかる金が馬鹿高いことだ。諸外国に比べれば安いという声もあろうが、家計に与えるインパクトは強烈だ。
会社員も同じく納めているのだが、「労使折半(ろうしせっぱん)」と言って、会社が負担してくれる部分がかなりある。さらに給与天引きとして、あらかじめそれらを引いた分が「手取り」になっていることが多いだろう。
おそらく「自分がいくら社会保険料を払っているか意識したことがない」人が大多数ではないかと思う。筆者もかつてはそうだった。
生命保険なども団体扱いで入れるプランがあったり、その組織独自の共済制度があったりと、目に見えない恩恵も多数ある。
しかしフリーランスは、すべてが個人での加入だ。もらった報酬から銀行窓口なり口座振替なり自分で支払う。年齢や家族構成や自治体にもよるが、毎月7万、8万と飛んでいくので、預金残高を見るたびにショックで倒れそうになる。
・その3. たしかに個人は弱い
ライター募集記事でも書かせていただいたが、ロケットニュース24はライターをひとりの人間として尊重する姿勢が徹底しているので、軽視や冷遇を感じることはまずない。
けれど周囲には「契約がグダグダ」「追加の作業がどんどん出てくる」「要望を伝えたら契約を切られた」といった、ひどい話が横行している。調査によるとフリーランスの4割が「取引先とのトラブルを経験したことがある」という。
標準単価や相場はあってないようなもので、言い値で仕事を受けるのが常態化。とても生活していけないような低単価の依頼も見かける。
もし「それはおかしい」と意見を述べるなら、よほどの覚悟が必要だ。唯一無二のスキルを持っているならともかく、自分と同じくらいの人材なら「掃いて捨てるほどいる」のが現実だからだ。
無給ででもしがみついて仕事をするうちに段々と信頼を勝ち得ていく、という考え方もあるから一概には言えないものの、「都合よく使われている」「軽く扱われている」という空気は感じるもの。連絡をしても返事すらないなど、悔しい思いは尽きないかもしれない。
・その4. 社会的信用がない
フリーランスは社会的信用がないと言われる。数千万単位の年収を得ているであろう芸能人でも「ローンが組めない」「引っ越しの審査を通らない」といったトークネタが鉄板なので、たぶん事実なのだろう。
時給や月給ではないから、来月どれくらいの収入を得ているのかわからない不安定な生活実態。そんな人に、筆者なら「家を貸そう」「お金を貸そう」と思うだろうか。いや絶対に貸さない。
クレジットカードを作れない、融資を受けられない、賃貸住宅の審査が厳しくなる、住宅や自動車などの大きな買い物ができない、といった話も頻出。もしあなたが現在サラリーマンなら、これらの手続きを退職前に済ませておくことを強くおすすめする。
組織を辞めた途端、生まれたての赤子のように無力な存在になるぞ。前職の実績はまったく関係がない。
・その5. 全部の仕事がワンオペ
「一国一城の主」とも呼ばれるフリーランス。組織に属していると、良くも悪くも自分は “歯車のひとつ” だ。役割さえこなせば、あとは組織がやってくれる。
しかしフリーランスは、広報(対外的なやりとり)、営業(仕事をとってくる)、法務(契約や行政手続き)、経理(収支管理や納税)、実働(ライターなら原稿を書く)といった、全部門を自分ひとりでやっているようなものだ。
たしかに一国一城の主なのだが、誰もいない城で、自らメシ炊きも掃除も馬の世話も戦(いくさ)もやらなければならない城主なのだ。ワンオペってこのこと?
とくに確定申告は死ぬ。
自分がどれだけ稼ぎ、最終的に税金がいくらになるのか税務署に申告するわけだが、「こんなの素人にできるかー!!」という煩雑(はんざつ)な作業である。そこに追いうちをかけるようにインボイス制度……。死……。
・その6. あなたの健康に興味があるのはあなただけ
組織の規模にもよるが、人間ドックや健康診断など従業員の健康管理の仕組みがある企業も多いだろう。筆者のいたところもそうだった。
大きなところだと産業医がいたり、有給の病気休暇があったり、医療費の補助があったりもするはず。
大企業だけではない。先般の新型コロナウイルスのワクチンでは、中小飲食店が連合のようなものを作って接種会場を設定しているのを見て感心した。
ところが、フリーランスでは自分の健康に関心をもつのは自分だけだ。「10年間、健康診断を受けていません」といったことが普通に起きる。
あるとき気づいた。「今日私が倒れて死んでも、世間はまったく興味がねぇや」と……。
・その7. 成果が出たら泣く
と、かなり劣悪な環境であるかのように書いてきたが、実態調査によると現フリーランスで「今後もフリーランスを続けたい」と答える人は圧倒的に多い。再び組織に属したいと考える人は少数派だ。
やりたいと夢みた仕事が獲得できたときには泣く。仕事で成果が出たときには泣く。依頼主や取材先や読者に喜んでもらえたときには泣く。それは、うれし涙だ。
残念ながら「悪質な依頼主にあたる」「自律性がないと生活が崩れる」「報酬の価格破壊」「Uber Eats問題」「偽装請負問題」など、個人の適性の問題から社会制度の問題まで、フリーランスにまつわる課題は山積みである。
それでもフリーランスは魅力的なワークスタイルであると筆者は思う。人間関係を自分で選べる、やりたくない仕事はやらなくていい、自分らしく生きられるというのは概ね事実だ。
なお、同じライターでも筆者のようなフリーライターと、編集部に所属して社員としてライターをやるのとでは、まったく労働環境が異なる。
また「最低限の稼ぎでいいから自分らしく暮らしたい」という人と、「実力を発揮してどんどん上を目指したい」という人でも事情が異なるはず。
立場によって法律への賛否はあろうが、誰もが安心して働けるようになるのは歓迎だ。
参考リンク:読売新聞オンライン、フリーランス実態調査(内閣官房日本経済再生総合事務局)
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
冨樫さや







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