
漫画『ゴールデンカムイ』でも知られるようになった、アイヌの伝統儀式「イオマンテ」。集落で子熊を大切に育て、ある程度成長すると「神の国に送り返す」として屠殺(とさつ)するものだ。
野蛮だ、残酷だといった批判から事実上禁止(2007年に撤回)された歴史もあり、議論を呼んできた風習でもある。
そんな、ある意味タブーともいえる繊細なテーマを描いた映画『アイヌモシㇼ』がAmazon Prime Video、U-NEXT、Huluなどの動画配信サービスでレンタル開始。同時にDVDも発売された。
・北海道を意味する言葉『アイヌモシㇼ』
トライベッカ映画祭、グアナファト国際映画祭など海外でも高く評価された同作。あらすじは以下のとおりだ。
主人公は阿寒湖アイヌコタンで生まれ育った14歳の少年カント。地元の生活に嫌気がさし、高校進学では「どこでもいいから別の場所に行きたい」と、誰しも一度は覚えがある葛藤を抱えている。
そんな中、アイヌコタンの中心的存在であるデボから子熊の世話を託される。愛らしい子熊に夢中になるカントだが、デボは熊送りの儀式「イオマンテ」の復活を考えており……
物語は淡々と進む。シナリオもカメラワークも、ドラマティックな演出はまったくなく、どこまでも静かである。人によっては退屈だと思うかもしれない。
テーマはもとより、撮影手法も異例づくし。まるでドキュメンタリーのような、どこからが創作でどこまでが現実なのか境界線がわからない。
多くの出演者が実際にアイヌ民族であり、またプロの俳優ではないという。舞台となる阿寒湖アイヌコタンは、いうまでもなく実在の観光地。コロナ禍による様子の違いはあるが、いまも映画そのままの風景が広がっている。
筆者は、ここの人々は普段どうやって生活しているのだろうと疑問に思ったのだが、映画を見て謎が解けた。
並んでいるのは店舗 兼 住宅。観光客向けの飲食店や民芸品店を経営しながら、通学したり地域の集まりに行ったりと、ごく普通の市民生活を営んでいる。
実際に映画を見ていただければ、「観光地」としてのアイヌコタンの在り方には強烈な違和感を覚えるだろう。筆者はいまだに答えが出ない。
また、イオマンテの是非。
記録映像を視聴したことがあるが、「見るに堪えない」というのが正直な感想だ。動物に不要な苦痛を与えてはいけない、という現代の動物愛護の精神には確実に反する。
漫画『ゴールデンカムイ』でも子熊の檻がキーになる場面がある。
単に「狩って食べる」のみならず、狭い檻に入れて1~2年も飼うという部分にも筆者は余計に悲痛を感じる。しかし牛や豚や鶏を太らせて食べることと、なんの違いがあるのかと問われれば答えられない。
後述するインタビュー記事で秋辺デボさんが語っているが、愛情を注いで育てた熊を、悲しみをもって屠(ほふ)るというところにイオマンテの最大の意味があるのだという。狩りで偶然に出会った動物を殺すのとはまったく違うのだと。
江戸時代の図画にも世話係の女性が泣く姿が描かれている。感情を通わせた命を、悲しみとともに食べる。心の重さをともなった、命への感謝が根底にあるのだという。
・ひとことでは表現できない後味
監督も出演者も口を揃えて「あれは映画です」「ドキュメンタリーではない」と話すが、映画全体を通してアイヌの精神が真実味をもって迫ってくる。以下を知って視聴すると、より感じるものがあると思う。
──主人公カント役の下倉幹人(かんと)さん、デボ役の秋辺デボさんなど、ほとんどの主要登場人物が実名で出演していること。
──下倉幹人さんと、母親を演じる下倉絵美さんは実の親子であること。
──秋辺デボさんには、過去にイオマンテの復活に挑んだものの断念したという実体験があること。
──台本はあるものの、出演者はセリフの暗記を求められず、ほとんどがアドリブであること。
──作中で出てくるイオマンテ賛成派、反対派は実在の人々の意見そのままであること。
──アイヌの歴史を知らず、先入観のまったくないアメリカ人カメラマンを起用していること。
──コタン在住の多くの人々がエキストラとして登場し(演技指導されたものではなく)伝統芸能をそのまま撮影していること。
以上のような撮影の裏側については、プロインタビュアー・佐藤智子氏のインタビュー記事が非常に詳しく読み応えがある。福永壮志監督、秋辺デボさん、下倉絵美さんが率直な思いを語っている。ネタバレも多くあるので、映画の視聴後にぜひ一読してみて欲しい。
決して万人受けする内容ではないが、北海道の雄大な自然を背景に、深く考えさせられる作品である。少しでも心に引っかかった方は、お使いの動画配信サービスをチェックだ。公式DVDサイトからも配信会社を確認できる。
参考リンク:『アイヌモシㇼ』映画サイト・DVDサイト、Yahoo!ニュース・佐藤智子インタビュー[1][2][3]
執筆:冨樫さや
Photo:PR TIMES、RocketNews24.
冨樫さや








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