先日、興味深い記事を目にした。いまだコロナ禍が続く昨今、オートミールの売り上げが爆発的に伸びているらしい。記事内のデータによれば、前年と比べて2021年の伸び率は約3倍だったそうだ。

正直なところ、筆者はオートミールという食べ物を目の当たりにしたことがない。何なら海外映画の中でしか見たことがないし、したがって極端な話、筆者にとってはオートミールもダース・ベイダーも似たような存在でしかないわけである。

が、現実においてここまで人気を博し、自分以外の人々に親しまれつつあるとなると、いつまでもそれを「ダース・ベイダー視」しているわけにもいかないだろう。初実食すべき時機がやってきたのだ。

本題に入る前に補足しておくと、先に紹介したデータは市場調査会社インテージが、全国約6000店舗の小売店舗より収集した調査結果を元にしたものである。

「2021年、売れたものランキング」と題され、推定販売金額の伸びによる順位付けとともに、「日用消費財の中で何がより売れたか」が公開されていた。3位に前年比137%の玩具メーカー菓子、2位に182%の麦芽飲料が並び、1位には291%とさらに圧倒的な差をつけてオートミールが君臨している

コロナ禍で健康志向が高まり、栄養豊富かつ低カロリーなオートミールに注目が集まったとされているが、それにしてもすさまじい。個人的な話をさせてもらえば、あまり親しみのない、何だかよくわからないものの売り上げが3倍になっているので余計に異常事態である。

この事態を打開すべく、「オートミールがどんなものか」を知るために筆者は実物を購入した。ちなみに今回選んだのはケロッグのオートミールだ。価格は330gで386円だった。

何故ケロッグかと言えば、この有名企業ならオートミールへの不安と好奇が渦巻く複雑な心を少しでもなだめてくれるだろうと思ったからなのだが、パッケージには「毎日の主食に」と書かれており、フェンシングもかくやとばかりの距離の詰められ方にむしろ緊張が高まってきた。

しかしそこまで言うからには、オートミールはそれだけのポテンシャルを有しているのだろう。まずは何もアレンジを加えず、そのまま食べてみることにした。わかり合うためには、剝き出しでぶつかり合うことが必要である。

パッケージの中身を皿に移すと、小粒なコーンフレークのような姿が登場した。本物のオートミールだ。映画の世界と筆者の世界がリンクした瞬間である。筆者以外の人類にとってはどうでもいいリンクなのでさておき、感動もそこそこにスプーンで一口すくって食べる。

結果、当然のことながら素材の味がひしひしと伝わってきた。オーツ麦100%を原料にした商品というだけあって、麦の香りが強い。加えてかなりパサパサしている。口の中の水分を奪ってくるかのようだ。

最初のうちは戸惑ったが、噛むほどに粘り気と甘味が生まれてきて、なるほどこういうものかと思った。食べられないわけではないどころか、独特の美味しさがある。とはいえ、主食に据えるというのは個人的に少し厳しいと感じた。

やはり食べ始めの乾燥具合が引っかかる。その問題点を解決する意図も込めて、次に試したのはメジャーと思われるアレンジ法、飲むヨーグルトの投入である。

そして投入した途端、一気に親近感が湧きだした。香ばしさは残っているものの、パサパサ具合は消し飛び、それこそコーンフレークとほぼ同じ食べ心地になったからである。ヨーグルトの兵器じみた制圧力に舌を巻かざるを得ない。シンプルに美味しい。

とはいえ、これでは何というか、オートミールならではの強みを見出せたわけではない。ブームの秘訣には迫れていない気がする。そこで思い出したのが、「米化」と呼ばれるアレンジ法である。

「米化」とは文字通り「オートミールを米のようにして食べる」方法だ。コロナ禍の影響のみならず、「米化」が広まったことでブームに火がついたとのことだった。実際、この商品のパッケージ裏にもアレンジレシピ筆頭として「米化」の方法が載っていた。

その記載に従い、大さじ5杯分(30g)くらいの量のオートミールに対して水50mlを回し入れ、レンジで600W1分ほど過熱する。「米化」と聞いた時には料理経験が皆無以上僅少未満の自分にこなせるものだろうかと思っていたが、必要な工程はこれだけで、非常に簡単である。

簡単すぎて、本当に米のようになるのかと疑ってしまうほどだ。過熱後、色味や質感の変わったオートミールを見てもなお、その疑念はぬぐえなかった。

しかし口に含んだ瞬間、脳は馴染み深い味わいに懐柔された。米だ。正確に言えば麦の香りが気にならない程度に残っているので麦ごはんのような感じだが、とにかく「米化」の工程を経ただけでモチモチと柔らかな食べ応えが、日本人の味覚をくすぐる化学変化が生まれている

驚いた。信じられないくらい、米だ。日々親しんでいる「ごはん」を食べている感覚に限りなく近い。今なら「毎日の主食に」という文言にも頷ける。確かにこれなら毎日でも平気だ。いや、たまには本物の米が恋しくなるかもしれないが、せいぜい違和感はそのレベルだ。

先ほどとはまた別の、より琴線に触れる親近感に心がときめく。が、変化はこれで終わりではない。まだ先があるのだ。もう一度オートミールを30g分計り、今度は180mlの水に浸し、適量のだしを入れて混ぜる。そののち、レンジで600W1分半ほど過熱する。

察しの良い方はお気付きだろう。雑炊だ。完成したのは、本来なら米を使う米料理である。食べてみると、これがまた信じられないほどに美味しい。口当たりの軽さも、優しい味わいも、まさしく雑炊なのだ。さらさらと滑るように胃の中へ収まっていく。

筆者はだしを小さじ2杯ほど入れ、その上きざみのりなんかもトッピングしたが、それらが丁度良く功を奏して、いっそう口の動きを捗らせる。深く堪能しながら、これはブームになって然るべきだと感じ入る。

何せこの美味しさで食物繊維や鉄分、ビタミンといった豊富な栄養を摂取できるわけで、それでいて30g程度でも満腹感を得やすいときた。

アレンジレシピについても、ここで紹介した以外のものが世の中にはゴロゴロ転がっている。要するにポテンシャルがあるどころの騒ぎではない。無限の魅力を秘めた食品と言えよう。

過去の筆者と同じく、まだこの衝撃を体験したことのない方がいたら、ぜひとも手を伸ばしてみてもらいたい。きっとあなたに合ったオートミールの形が、世界には存在するはずである。

いやはや、様々に変化するその柔軟さには、本当に恐れ入った。自分の凝り固まった価値観が恥ずかしくなったくらいである。再び未知の事物を前にした時に備えて、頭を柔らかく、「オートミール化」させていかねばなるまい。

参考リンク:株式会社インテージ「2021年、売れたものランキング」ケロッグ「オートミール」商品HP
執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24.