
砂漠でエンストするバス、乗車率500%の鉄道、暴走するオート三輪……世界にはまだまだ多くのビックリ交通機関が存在しており、今日も日本人旅行者を呆然とさせている。現在私が滞在しているエジプトなんてもう、どう考えたって怪しい乗り物がブンブン走っていそうだ。
命の危険さえないのなら、旅は多少ビックリするくらいが面白い。そんなワケで私は今回「エジプトの高速バス」に乗ってみることにした。
・バスセンターへGO
私がエジプトでまず上陸したのは海沿いのリゾート地フルガダ。今回はここから北へ約500km離れたカイロまでバスで移動しようという算段だ。
ホテルの人に勧められたのが『GO BUS』というバス会社。立派なバスステーションがエジプト全土に点在しているらしい。
受付で「カイロまで」と叫ぶと、「カイロのどこ?」と返された。細かく降車場所が指定できるとはありがたい。私の本当の目的地はカイロ中心部からやや離れたギザ(ピラミッドのあるエリア)だ。ここは遠慮なく「ギザまで」と告げる。
すると「座席を選んで」とモニターを示された。通路に座ることも辞さない覚悟だったが、まさかの指定席! おまけにゆったり3列シート!
気になる価格は425EGP(約3083円)……た、高ぇ! もちろん日本と比べれば安いのだが、確かホテルの人は「カイロまで200EGPくらい」と言っていたはず。売り場で確認したところ「安い4列シートの便もあるが、この日のギザ行きは3列タイプしかない」との答えだった。
ギザへ向かうタクシー代を差し引けば多少は安い計算になること、そして何より “エジプトのいいバス” に乗ってみたいという好奇心が勝り、私はこのチケットを購入。予算に限りがある旅行者はあらかじめチケット売り場で確認しておくべし。
・出発の朝
さて出発当日。早朝のバスセンターは人が少なく穏やか。
「出発5分前から乗車できる」と言われたので、センター内の売店をのぞくなどして待つ。
カイロまでは7時間ほどの道のりとのことだが、念のため水や食料を多めに買っておくとしよう。途中で立ち往生……なんてこともありえるもんね。
この日乗るバスは豪華2階建て。
荷物を預け……
2階へ……
ワァ〜オ!! 「エジプトのバス」と聞いて想像するヤツの5倍は立派だ! さりとてメチャクチャ綺麗というワケでもなく、絶妙にコメントしづらい。え〜と、私の席は……
…………
…………
あらっ? 席番号がどこにも書かれてないような……? 所在なくウロウロする私。すると添乗員の青年A君が私に近づき、とびっきりの笑顔でこう言った。
「席番号なんてないさ! 君は好きなところに座ればOKなのさ!」
・なぜ選ばせたのか
そうか、席番号なんてなかったのか。私は太陽の向きなどを考慮したうえで座席を指定したが、あれは一体何だったのだろう。別にいいけど。
ともかく私は適当な席に座り、バスは定刻通りに発車した。各席にはタブレットが備え付けられており、映画や音楽が鑑賞できるほかUSBポートも使える。もはや当初イメージした「エジプトのバス」のイメージは完全に崩壊したと言ってよい。
添乗員A君はとても親切で、イヤホンやチリ紙などをかいがいしく運んできてくれる。
ついには大きなボックスまで配られたぞ。まさかお弁当……?
中身はミネラルウォーター、ジュース、菓子パン2つにインスタントコーヒーとティーパック。飲み物に関しては、なんと必要に応じてA君がお湯を注いでくれるシステムなのである!
まさに至れり尽くせり。
立派なトイレも完備だし……
道中は特に面白い景色が見られるわけでもない。途中休憩もない。遅延どころか予定より早く目的地に着きそうな気配だ。期待していたアクシデントは何もなかったけど、まぁここは素直に「エジプトのバス最高だった」でシメるとしようか。
・ところが……!
しかし車窓の景色が都市部へ移り変わってきたころ、私は妙なことに気がついた。どうやらこのバス、私の目的地ギザとは別の方向に向かっている様子なのである。
不安になった私は乗務員A君を呼び「このバスはギザ行きだよね?」と尋ねてみた。すると「いや、カイロ止まりだよ」との答えが返ってきたではないか。(※ バスは東側から西のカイロを目指しており、ギザはカイロよりさらに西)
慌てて乗車券を見せると、A君いわく、そこには確かにアラビア語で「ギザ行き」と記されているらしい。「ちょっと待ってて」とどこかへ電話をかけるA君。数分後……「OK、ギザまで行くよ!」と笑顔を見せてくれた。君はなんて頼もしいガイなんだ!
それにしてもギザ行きのバスに乗ったはずがギザへ行かないとは、これ一体いかなるワケなのだろう? 乗るバスを間違えた? いや、乗車時に何度も乗車券を見せているし、そもそも同時刻に発車するバスは他になかったハズ。う〜む……ま、終わりよければよしとするか。
その後、カイロ手前の停留所でなぜかA君は下車。少し心細いが、きっと彼がなんとかしてくれたに違いない。そしてバスはカイロに到着。他の乗客が全て下車する中、ひとりポツンと車内で待つ私は…………
「終点だ降りろコラ!」と運転手につまみ出された!
「いや話が違う!」と説明する私。聞く耳持たない運転手。あきらめてその場を去ろうとしたその時……颯爽と登場したのは乗務員Bだ。どうやらA君から私の件を託された人物であるBは、運転手にギザへ向かうよう指示。そして……
豪華2階建てバスは私ひとりをギザへ届けるためだけに走り出したのだった。なぜこうなったのか真相は不明。しかし、このような体験はまたとできるものではない。最前の特等席からカイロの街並みを見下ろす私。
すると……そこへ近づいてきたのは先ほど登場した乗務員B。「ジャパンから来たのかい」などと、どうでもいい世間話を繰り出してきた。適当にあしらっていると、やがてBは声をひそめ……しかしハッキリと、私にこう言った。
「マネー」と…………!
・やはりエジプトはエジプトだった
「特別にギザまで運んでやるから金を払え」とB。なぜ終盤に登場したお前に払わにゃならんのか? そう叫びたくなるも、誰もいない車内でモメるのはちと怖い。私はおとなしく50EGP(約363円)を支払った。なお、これはカイロからギザまでのタクシー代より高い。
お母さん……やはりエジプトはエジプトでした。金を受け取り満足げなB。何も知らない運転手。そして呆然と空を見上げる日本人。謎の3人組を乗せてエジプトバスは走り続ける。あ〜ぁ、こんなことなら世話になったA君に金を渡したかったァ……。
そこからさらにタクシーへ乗り継ぎ、ピラミッドへ着いた頃にはとっぷり日が暮れていた。期待どおり一筋縄ではいかなかったエジプトの長距離バス……みんなも機会があれば乗車してみてくれよな!
執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.
亀沢郁奈























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