ピーチ航空は2021年10月13日、東京・渋谷パルコに1回5000円で行先を選べない「旅ガチャ(旅くじ)を設置した。これが大きな話題となり設置からわずか3日で10月分の販売が終了したそうだ。

事前にガチャ体験した私(佐藤)は、大分行きの割引ポイントを獲得したので実際に大分へと飛んだ! 何ひとつ予定を決めずに現地に赴いたのだが、感想は一言で表すと最高! 旅のめぐり合わせを楽しむことができた!!


・成田なのに羽田へ

本稿ではまず旅の全行程(1泊2日)についてお伝えしたいと思う。次に費用を含めて気になったこと。そして最後にこの旅で感じたことをつづっていく。


私が大分に向かったのは16日だ。出発地の成田空港に行こうとしたところ、出足からつまづいてしまった。誤って羽田空港に向かってしまっていたのである。品川で間違いに気づいて、慌てて成田行きの電車に乗り換えた。

結果的に間に合ったものの、同便に搭乗した他のお客さんには多大な迷惑をおかけしてしまったと思う。この場を借りてお詫びします。すみませんでした……


・ミッション「地獄のイチロウ」に会う

約2時間の搭乗で無事に大分空港に到着した。到着口を出るとデカい風呂桶が出迎えてくれた。さすがおんせん県!


ちなみに空港内に足湯まであったぞ。


この日は快晴! まるで私を歓迎してくれてるみたいだ!!


今回向かう先は別府市と決めていた。なぜなら旅ガチャのミッションで『「地獄のイチロウ」に会って、大口を叩いてきて!』と指定されていたからだ。地獄のイチロウは別府にいるらしい。それを果たすためには別府駅方面行きのバスに乗った。


まずは宿を決めないとな。駅に行けばホテルが取れるだろう。……っとその前に腹が減った。空港で朝食をとるつもりだったが、ギリギリセーフすぎてパンを買う時間さえもなかった。保安検査場を抜けるのがやっとだったから仕方ない……。

バス停からすぐの商業施設に入るとフードコートに「東洋軒」を発見。


とり天発祥の店だと!? そりゃ食わん訳にいかんな。


注文したのは本家とり天定食(税別800円)。揚げ物だから時間がかかるかな? と思ったら、すぐに出てきた。


本場のとり天を食べるのは初めて。衣はサックリしていて鶏肉はジューシー。これはいくらでもご飯が食えるヤツだ。腹減ってたからもう1膳食おうかな? と思ったけど、ここで時間を費やしてる場合じゃない。とりあえず宿を決めないと。駅の方に行こう。


・ジェノバの安部さん

駅に向かう途中で古めかしいアーケードに遭遇した。地方ではどこでも見る風景だったが、この街はちょっと様子が違う気がする。シャッターの降りている店も多いけど、どことなく活気を感じさせる


ふと見ると、無人販売所みたいな足湯(100円)があったり……。


昭和の佇まいを色濃く残した映画館もある。そこかしこにレトロな雰囲気が漂っているのだ。でもさびれている訳じゃない。


駅前高等温泉も渋い! 画になるなあ。


宿を探すつもりがすっかり街の風情が気に入ってしまった。ブラブラと歩いていたら、「日本一の純生アイスクリーム」の看板が目に入った。


冷乳果工房 ジェノバ」はこの地で約40年続くアイスクリーム専門店である。甘いモノが好きな私は、ショーケースに並んだ色鮮やかなアイスに誘われるようにして中に入った。

すると女性の主人が「全部味見できますよ。なんでもおっしゃってください」と気さくに話かけてくれた。いくつか味を見させてもらったがそのどれもが美味しい! 味見で済ませる訳にはいかん! 買って食わねば! 

ということでピスタチオとキャラメルを頂いた。ハロウィンのお飾りがついていて可愛らしい。どちらもスゴく濃厚で舌触りがとてもなめらかだ。


東京から観光で来たことを伝えると、店主の安部さんは観光地図を取り出して「ここに行った方がいいですよ」と穴場スポットを教えてくれた。候補として挙げて頂いたのは「鉄輪(かんなわ)むし湯」、「別府海浜砂湯」、「鉱泥温泉」。3つ目の鉱泥温泉は午前中しか営業していないそうだ。


なんて親切なんだ! 予定を決めずに来たのでとても助かる!! 今日はやるべきことがあるので、明日の午前に鉱泥温泉に行こう。安部さん、ご親切にありがとうございます!


あちこち寄り道しながらようやく駅に到着! 目の前に良さそうなビジネスホテルがあったので、まずは部屋をおさえてしまおう。


お昼過ぎに部屋はとれたけどチェックインは2時間後の15時だから、荷物を預けて再び探索。その間に「べっぷ駅市場」に行ってみることにした。ここは総菜屋・お肉・魚・八百屋が立ち並ぶ商店街らしい。

ここでせんべろしようと画策していた訳だが……。

駅の観光案内所で場所を尋ねると「現在耐震工事で休業中です。申し訳ございません」という。休みなのは仕方ないとして、なんであなたが謝るんですか! あなたのせいじゃないでしょ! 丁寧すぎる応対に恐縮してしまった。


・地獄蒸し体験

さて気を取り直して、「地獄めぐり」で有名な鉄輪地域へとバスで移動。乗り込んだバスは乗降口が「ゆ」の暖簾風になっていた。さすが別府! バスにもこだわりが。


地獄のイチロウは地獄エリアのどこかにいるらしいのだ。イチロウ! どこだ!? っとその前に、ライターのヨッピーさんに教えてもらった「地獄蒸し工房」を訪ねた。


ここは温泉の蒸気で食材を蒸す釜場に自分で食材を入れて蒸す「地獄蒸し体験」ができる飲食店だ。


まずは受付して食券を購入。番号を呼ばれたら食券を渡し、食材を受け取って釜場へ。そこでサポートを受けながら食材を蒸すことになる。


という訳で地獄蒸し体験、開始! 蒸気は高温なので分厚いゴム手袋をつけなければいけない。


釜を開けたら猛烈な勢いで湯気が噴き出す。網にのせた食材を慎重に釜に入れて、あとはタイマーをセットして待つだけ。


そして15分後……、蒸し上がったよ~!!


「ぢごく」の焼印の入ったぶたまん完成! ちなみに料金はぶたまん2個で500円。それと釜の使用料が400円(1口1回15分)かかる。


地獄と入ってるけど味は天国! 生地はふんわりもっちりと仕上がっていて、口に入れるとしっとりとして美味。でも他のお客さんは野菜や肉を蒸しあげていた。ぶたまんは美味しかったけど芋とか蒸すべきだったとちょっと後悔してしまった。また次回だな。


・お前がイチロウか!

そして今回のミッション、地獄のイチロウの元へ! イチロウはここ鬼山地獄にいるらしい。


中に入るとそこはワニ園だった! 柵の向こうにはワニがウヨウヨいる。コロナ前はエサやり体験もできたそうだ。現在エサやりは休止中である。


どこだイチロウ! これか!? 三代目イチロウ!! 三代目ってJ SOUL BROTHERSみたいだな。クロコダイル科のイリエワニ、それがイチロウだ。


お~い! イチロウーーー!!(※実際には叫んでいません)


ダメだ、昼寝してるらしい。こっちには目もくれない……。イチロウに大口を叩くミッションは果たせそうにないな。残念……。


この鬼山地獄は大正11年に誕生した世界初の「養鰐場」なのだとか。余談だが、私は小学校の時にここに来た覚えがある。約40年ぶりの訪問だったが、あちこちから立ち上る湯気や硫黄の香りで当時を思い出した。「ゆで卵の匂いのする町」と覚えた気がする。


・須磨子さん

ホテルにチェックインしたのちにひと眠り……。目を覚ますとすっかり夜になっていた。腹が減ったし少し酒でも飲みたいので、夜の街を見に行くとしよう。

昼間見たアーケード、「北浜」という地域は飲み屋街で日中は休業しているお店が多いらしい。コロナ自粛明けということもあって、営業を再開したお店も多いようだ。昭和の風情が漂う懐かしいネオン街だ。とても居心地がいい。


ぐるぐると通りを歩きまわっていたら、プレハブ風のお店の前にたどり着いた。「別府屋台 たっちゃん」、おでんがあるらしいからここで飲むとしようか。


入ろうとしたその時、ふと見ると怪しい文言……、「須磨子と段差に注意」


店内にも「実は大人の託児所」と貼られている。何ココ!? どういう店なの?


ちょっとビックリしたけど、普通の居酒屋さんだ。ただし主の須磨子さんはとてもストレートな性分で、歯に衣を着せぬ物言いでズバ! ズバ! っとお話される。それが聞いてて心地よい。時には失礼な酔っ払いと言い争いになることが、あるとかないとか……。

ビールを頂きながら世間話をしている中で、須磨子さんの人生についてお伺いすることになった。16歳の時に家業の手伝いで飲み屋の仕事を始めて44年、この道一筋。およそ40年の間に計り知れない修羅場をくぐり抜けてきていた。

その壮絶さたるや、凄まじすぎてとても私の口から説明することはできない。こんな人いるのか! と心で叫んだほどだ。私もちょっと変わった人生を歩んできた自負はあるが、そんなもの屁です。私の人生は屁でした。すみませんでした!

とにかくそれでも飲み屋を続けているのは、どれだけ大変な経験をしてきたとしても、人と触れ合うことが好きで、人を愛している。自らそう語った訳ではないのだが、そのことがひしひしと伝わってくるお人柄だった。


多分、私は今回の旅で、須磨子さんとお話をするために大分に来た。そんな気がした。もし仮に人生に迷うことがあったとしたら、ここに来るだろう。いや、そうでなくてもまた来る。


・人生初の鉱泥温泉

そして翌日、アイスクリーム屋の安部さんにお教え頂いた鉱泥温泉へ。午前中しかやってないから、朝来ないとね。


ここの風呂はわかりにくい場所にある。坊主地獄の駐車場の脇に小道があって……。


その先にある小さな建物が風呂の受付だ。営業時間は8時15分から12時まで。木曜日は定休日(元旦も休み)。小学生未満の入浴は不可となっている。


受付で料金(税込900円)を払うと入り方の説明をされる。温泉の入り方に説明なんかいらないのでは? と思うかもしれないが、初心者はちょっと戸惑う可能性がある。実際私も男湯の扉を開けて一瞬戸惑った。

というのは、扉の向こうには大きな露天風呂があるのだが、誰もそこに入っていない。お客さんは皆、風呂のフチで涼んでいる様子。その風呂の向こうに小さな小屋があって、そこが鉱泥の浴槽なのだ。小さな浴槽は灰色の湯で濁っていて中は見えない。そこに肩までつかって温まるという訳だ。


入るとこれはかなりの熱さ! お湯の熱さとはまた違って、身体の芯から熱くなるような不思議なのぼせ方をする。

鉱泥につかって熱くなったら身体を冷ます。しっかりと冷めたらまだ鉱泥に入る。それを繰り返すのがここの入り方。したがって露天風呂に入るまでもない。むしろ火照った身体を冷ましたくて露天風呂のフチにたたずんでいる。3度4度と出たり入ったりを繰り返して上がると、鉱泥の効果なのか肌がツルツルになった気がする。


・究極のプリン

別府駅に戻る前に食事をしよう。バス停周辺を歩いていたら「温泉閣」という宿の前に通りがかった。大変風情のある温泉宿だな。


ふと入り口を見ると、メニューが置いてある。抹茶に和菓子でも出しているのかと思いきや!


プリン! プリンにコーヒー、紅茶を出してる!!


「温泉の蒸気で蒸しあげたプリン」だと!? 琥珀のプリン(税込Lサイズ800円)とある。これまた食わねばという使命感に駆られて頂くことにした。マスターお勧めのコーヒー(税込600円)と共に。


コーヒーはマスターが目の前で豆から挽いてくれる。プリンは大判のモノをカットしてその場で盛り付け。

プリンの姿の美しいこと! これは写真を撮らざるを得ない。聞けはプリンにかけた手間と時間は尋常ではなかった。生地は最低でも7回裏ごしをして、なめらかな舌触りにこだわっている。カラメルソース(自家製エスプレッソソース)はコーヒーを加えて、コクと深みを出しているという。


その味は洋菓子店に引けを取らない美味しさ。少なくとも温泉宿で味わえるはずのない極上のスイーツであることは間違いない。理想の味の追求に5年の歳月を費やしたというから、そのこだわりはハンパではない!


ここ温泉閣のカフェにはもう1つの顔がある。それはマスコットキャラの「カナエちゃん」だ。公式Twitterでは宿・カフェのことや、鉄輪温泉や大分の魅力について発信している。



純和風の宿でありながら、カナエちゃんのコンセプトルームまであって、古き良き日本の風情と現代的な情報発信を両立させている点が、とても面白い。



温泉閣のすぐ隣には、鉄輪に湯治場を開いた「一遍(いっぺん)湯かけ上人(しょうにん)」ゆかりの永福寺がある。図らずも、別府の旅の最後にこの界隈のルーツを触れた気がした。


以上が旅ガチャで訪ねた大分(別府)の旅である。言うまでもなく大変充実した内容だった。何も予定を立てずにこれだけ満喫できて、とても満足している。できるだけ地元の人の勧めに従いたかったので、下調べは必要最小限にとどめた結果、さまざまな人と出会うことができた


・費用を含めて気になったこと

さて、旅ガチャで出かけるにあたって最初に気になったのが費用だ。ガチャでは行先と、その片道の航空代金に充当できるポイントがついているだけだ。

陸路での移動は別として、行き帰りでどれだけ費用がかかったかいうと……。


行き 成田 ― 大分間 1万2640円(うち6000ポイント適用 実費6640円)
バリューピーチ(通常料金)・プレジャーシート(0円)・受託手荷物(0円:1個まで)

帰り 福岡 ― 成田間 1万8980円(全額実費)
バリューピーチ(通常料金)・スマートシート(890円)・受託手荷物(0円:1個まで)


航空代金は合計金額3万1620円かかっている

なお、ピーチには運賃の種別がシンプル・バリュー・プライムの3段階あり、シートの種別がスタンダード・プレジャー・スマート・ファストの4段階ある。したがって、これらの組み合わせ方によって料金は異なってくる。

このほかに受託手荷物の追加料金や座席指定の料金など、運賃の種別によって変わるので、詳しくは公式ページを確認して頂きたい。

やりくり次第ではもう少し費用を安く収めることができるかもしれない。だが、格安航空だからこその不便があることも否定できない。

たとえば、手荷物は総重量7キロまでなので持ち込める荷物にはかなり限りがある。リュックとボディバッグを持って出た私は、700グラム超過でボディバッグを受託手荷物で預けるハメになった。

パソコンやバッテリーの類は預けることができないので、仕方なくボディバッグの方を預けることになったのだ。あの小さなバッグがレーンを流れて来るのを見るのは、ちょっとわびしかった……


・旅を感じた

結局旅ガチャで5000円払って6000円分のポイントを得て、1000円分だけ得したに過ぎないかもしれない。金額に換算すれば、その程度でむしろ余計にお金を使っている


そんなことはわかってる!


出かける前から1000円分しかメリットがないことをわかっている。だが、その上で出かけたのだ。

旅ガチャを引かなければ、もしかしたらこの先、大分に行く機会はなかったかもしれない。見知らぬ土地に出かける機会が日常のどれだけあるだろうか?

たとえ休みがあったとしても、情報の乏しい場所やあまり縁のない場所に行く気にはなかなかならないはず。振り返っても、ガチャを引く前に私の頭に「大分に行こう」という考えはなかった。


その機会を旅ガチャに与えてもらったと思えば、損得はそれほど気にならなかった。むしろ「どっかを面白いところを選んでくれ」と思ってたくらいで。


実際に出かけてみたら、私は存分に旅を感じることができた。普段ならきっと出会うことのない、会話を交わすはずもない人たちと会って、別府の地で優しさや思いやりに触れることができてとても満足している

だから私は旅ガチャで出かけてよかった。現在は10月分旅ガチャは販売は終了しているけど仮に11月から販売を再開したら、どこかで誰かに会いたい、そんな風に考えている人にはオススメしたい。「旅に出かけたい」、その気持ちをそっと後押ししてくれるぞ。


参考リンク:ピーチ航空
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
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▼別府、北浜のたっちゃんにて。お店で出会ったお客さんと須磨子さん

▼そのお連れさんと私。良い出会いでした

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