流行は繰り返されるもの──ということで、20〜30年前に全盛期を迎えたであろうレトロな理容室を訪問し、店主おまかせのヘアスタイルにしてもらう企画「全盛期カット」。今回訪れたのは30年どころか……152年前に開業した現存する日本最古の理容室『柴垣理容院』だ。

ちなみに同店は、断髪令(チョンマゲを切り落としてもOK)が交付される2年前の明治2年(1869年)に “髪結処” として開業したらしい。そんな歴史ある理容室で温かく迎えてくれたのは……5代目店主・柴垣眞太郎さんである!

・柴垣理容院

「ざんぎり頭をたたいてみれば、文明開化の音がする」のざんぎり頭(散切頭)とは、西洋風に短く切った髪型のこと。ざっくり言えば、世の男性がチョンマゲから現代風のヘアスタイルに移り行く時代の中で、初代店主・久太郎さんは髪結処から散髪業に転身したという。

柴垣理容院は文明開化の発祥地・横浜に店を構えている。創業地は横浜市中区の住吉町。

関東大震災と戦争を経験し、終戦後にGHQの命令で強制退去となり初音町に移転、現在に至るそうだ。5代目・眞太郎さんは昭和33年(1958年)から同店でハサミを握っている。

・まだまだ頑張ります

現在78歳の大ベテランは「私より一回り上(昭和5年生まれ)の先輩が石川町(横浜市内)で現役ですからね、まだまだ頑張りますよ」と力強く宣言。さっそく「おまかせ」をお願いすると……

「外国風の刈り上げだね」と一言。なんと大ベテランは前回カットした「ネパールカット」の特徴を一瞬で見抜き、そのまま静かに調髪がスタートした。なお、常連さんも椅子に座るだけで「髪型は眞太郎さんに任せる」という方がほとんどだという。

世間話をしながら “いつも通り” に容姿を整えてもらう……大人の社交場って感じだな。派手さはないが、流行りのバーより良い時間を過ごせるだろう。常連さんの中には、毎週日曜日の朝8時30分に来る方もいれば、1年に1度「0.8ミリの坊主頭」にする方もいるそうだ。

・洗髪は前かがみ

さて、洗髪は「前かがみ」で行う。たしかに襟足をスッキリ刈り上げるスタイルなら、前かがみの方が洗いやすい。「バックシャンプーは1番洗いたいところ(後ろ)が洗えないから嫌いなんだよね」と眞太郎さん。洗髪もお店によってそれぞれ……


というのも実は、福岡の「スーパーカット21エクセレント」では “座ったまま” のシャンプーだったし、新大久保の「ライサンヘア」では “水で流す” のが基本だった。意外な違いがあっておもしろい。

・シェービングとマッサージ

そして驚いたのがシェービングとマッサージ。文明開化の香りが漂うクリームでマッサージをしながら肌を柔らかくした後、タオルで顔全体を蒸らし、シェービングフォームをたっぷりと塗ってスーッと剃っていく。まさに職人芸である。安心感もハンパではない。

続いて、右手に「謎のマシン」を装着した眞太郎さん。

昭和の時代に開発されたというマシンを身につけてマッサージを行うのだが……これが信じられないほど気持ちいい。もんのすごい振動で肩を揉まれるのだ! まさかクライマックスで眞太郎さんがサイボーグとなるとは。

・かなりスッキリ

そんなこんなで、カット開始から約1時間でスタイリングは完成。丁寧な顔剃りでだいぶスッキリ、明治から受け継がれる熟練のワザを存分に堪能することができたぞ。


・たしかな技術と究極の癒し

聞くところによると、県内の利用店舗数は店主の高齢化や後継者不足により年々減少傾向にあるという。しかし、152年目を迎えた柴垣理容院は、これからもたしかな技術と究極の癒しを武器に勝負を続ける。本物に触れたい方はぜひ日本最古の理容室に行ってみてほしい。

・今回ご紹介した理容室の詳細データ

店名 柴垣理容院
住所 神奈川県横浜市中区初音町1丁目20
時間 8:30〜17:30
休日 月曜日・火曜日

執筆:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.
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▼柴垣理容院の2代目店主と当時の店舗

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