業界によって様々だと思うが、だいたいの社会人は「電話対応」の道を通ってきたと思う。近頃は固定電話に馴染みのない若者が増え、使い方さえ分からないような人もいるらしい。“固定電話世代” である私からすると、「マジか……」である。

ちなみに私は、以前接客業に従事していた。新入社員時代、電話を取るスピードだけは誰にも負けなかったと思う。もちろん後輩にそんなことは要求しなかったけれど、私の「先輩に電話取らせるなんてあり得ない」なんて精神は、ハラスメントになるのだろうか──。

・新入社員に電話対応をさせることは「TELハラ」

多様化する “ハラスメント問題” に、新たに「TELハラ」なんて言葉が加わった。電話でネチネチ詰めてくる輩(やから)を指すのかと思ったらどうやらそうではなく、「電話は新人の仕事」などという習慣をそう呼ぶらしい。

たしかに、電話の向こう側でメチャクチャ怒ってるクレーマーの対応を「これは新人の仕事だから」と押し付けることはTELハラに値するのかもしれない。

しかし、かかってきた電話を取るくらい自分がやらなきゃ! という意識は新入社員にとって必要ではないだろうか。いや、もしかしてその考えもハラスメントになるのか? ……気を付けよう。それはさておき、以下で私の新入社員時代のエピソードを紹介したい。

TELハラ被害というわけではないが、電話対応に悩む誰かの役に立つことを願って。


・電話対応の思い出

私も電話対応は苦手だった。でも、相手に顔は見えていないし、相手が怒り狂って大声出して唾液を飛ばしてくるなんて攻撃も避けられるし、対面でお客様の対応をするよりもはるかに楽だと考えていた。

それでもやはり気が進まないものだった。でも、電話が鳴っているのを無視して仕事を放棄する先輩には憧れなかったし、同期と「取られてたまるか!!」と“競技かるた” 的な勢いで受話器を奪い合っていたら、苦手だと思っていた電話対応も楽しく思えた。

対面だと解決しなかったであろう問題も、電話対応で即解決したこともあった。たとえば、「責任者を出せ!」と言われ、その場に上司がいなかったとき。

同期がたまたま取った電話の相手が超絶クレーマーで、「お前じゃダメだ。上の者を出せ!」と言われたことがあった。そんな時に限って上司が近くにおらず、すぐに対応できそうな先輩もいない状況だった。

待たせると余計に怒らせるかもしれない……。上司を探しに行こうと立ち上がった同期を制し、「ここは任せて」と私は保留音が鳴る受話器を手に取った。


……ゴホン。


大変お待たせいたしました。責任者の五月でございます。


何者でもない新入社員だった私は、相手に見えていないことをいいことに、堂々と責任者になりすました。

「さっき対応してた者と同レべですけどね」と笑いそうになったが、相手はクレーマー。いつもより落ち着いた声色を意識して、対応に臨んだ。

対応を代わってもずっと怒っているし、このままだと面倒な要求をしてくるかもしれないし、責任者じゃないとバレてしまったら取り返しのつかないことになるかもしれない──。平然を装っていたけど、確実に受話器を持つ手は震えていた。

でも、責任者として電話に出たからには任務を全うせねば……。とにかく低姿勢で、相手の話を聞くことに徹した。

クレーマーが言っている内容に対しては詫びる気など全くなかったけど、責任者が対応していないことについては申し訳ないと思っていた。私は見えない相手に向かい、「責任者じゃなくてゴメンよ」という気持ちで受話器を持って何度も頭を下げた。

そして、「さようでございますか」「申し訳ございません」「そちらは致しかねます」と同期が対応していたことと同じことをただひたすら繰り返した。

次第にお客様はトーンダウンし、最終的には「……わかったよ」と和解。最後の最後まで私を責任者だと思い込ませたまま、話を丸く収めることに成功した。

決してこれが得策とは言えないし、相手にとっては大変失礼であるのは重々承知の上だ。でも、上司に代わったところで「致しかねる」ことは致しかねるのだから相手に対してできることは変わらないのだ。

怒られるかな~と思いつつも対応後に上司に報告すると、「よくやったね!」と笑ってくれた。

見えない相手におびえることはない。新入社員のみなさんには勇気を持って電話を取ってほしいと思う。


・電話対応でピンチになったときの対処法

対面接客と違って電話対応は自分がピンチであることを周りに知らせることが困難だったりする。そんな時でもいきなり保留ボタンを押したりせずに、落ち着いて行動することが大事だということを新入社員教育で教えられた。


もしも電話対応中にピンチになったら……



周囲にメモで助けを求める。


──めっちゃ古典的! いまの時代、デスクに紙もペンもないかもしれないよね!

どんなやり方であれ、周囲に助けを求めるスキルも持ち合わせていた方がいいだろう。果敢に電話対応をする新入社員のことを助けてくれる先輩や上司はいるはずだから──。

参考リンク:PR TIMES
執筆:五月薫
Photo:RocketNews24