「人の噂ほど当てにならないものはない」と昔から言われるが、噂が全てを決めてしまう場合があるのが現代社会だ。ネットやSNSには口コミがあふれ実物を知らずに批判する人で炎上したりする。
だが考えてみて欲しい。これだけ価値観の違いが叫ばれる世の中で、他人の目線は本当に自分と全く同じ価値観なのだろうか? 今回はそんなズレを感じた話。Amazonで批判レビューが殺到しているアニメ『池袋ウエストゲートパーク(IWGP)』についてだ。
・2000年のドラマ
本作の原作は、石田衣良さんの連作小説『池袋ウエストゲートパーク』。池袋の少年たちが直面する社会の闇を描き出す人気作だが、38歳である私(中澤)と同世代なら2000年に公開されたドラマのインパクトの方が強いかもしれない。
私は大阪の片田舎に住んでいたが、イッチャッてる窪塚洋介キングのカリスマ性と長瀬智也のカッコ良さに毎週胸を躍らせていた。脚本の宮藤官九郎が “危険さ” と “鋭さ” を武器に切り込んできたところにも猛烈に「イマ」を意識させられたものである。
・アニメは低評価
だが、そんな人気作のアニメ化にもかかわらず、2020年11月26日現在、アニメ『IWGP』のAmazonレビューは星5つ中2.6とふるわない。これは今期のアニメでもかなり低い方である。おそらく現状、Amazonプライムに公開されているものの中では1番低いのではないだろうか。
実は、私は今期のアニメ1話を大方見た段階の記事で『IWGP』をオススメしている。作画も綺麗で、惹きこまれ普通に楽しめたからだ。しかし、その時点でのAmazonレビューは星1つのオンパレード。アニメ『IWGP』に何が起こっているのか?
・低評価コメントを見ると
そこで著しい低評価のコメントを見てみたところ、ドラマ版と比べている声が多く見受けられる。中には、キングやマコトやカラーギャングたちがドラマ版のイメージと違うことに嫌悪を示しているものも。
一方、私は何が面白いと思ったのかと言うと、最も大きいのはキャラや設定が現代に合わせられていることだ。もし、2020年のアニメで池袋に2000年代バリバリのテンションのカラーギャングが登場したらオススメしなかったと思う。
つまり、変わっていることが良かった。小説でもドラマでも “イマ” を切ってきた『池袋ウエストゲートパーク』。アニメもやっぱり変化する “イマ” を切っていると思うのだ。
・8話
それを強く感じたのが第8話「千川フォールアウト・マザー」。シングルマザーの貧困を描くこの話は2008年に発売された『非正規レジスタンス 池袋ウエストゲートパークⅧ』に収録されていたものでドラマでは作られていない。
子供の転落事故がニュースとなり、母親のユイがSNSで誹謗中傷を受けるこの回。ユイに関わることで、主人公のマコトを通してシングルマザーの貧困が描かれる。シングルマザーに対する男性目線と女性目線の違いなどもあり、30分の中に現代社会において批判の対象となりそうなシーンがいくつかあるが、恐れず描かれているという印象を受けた。
特に印象的だったのが主人公マコトの最後のナレーションで「児童手当とかケースワーカーとかいう言葉すら知らないまま苦しんでいたユイ」という部分。ここで私はユイの存在がとてつもなくリアルだと思った。
・ユイがリアルに感じた理由
私はロケットニュース24で書く前は失業手当を受けている。会社とゴタゴタしたので、申請するまでは面倒くさかったが、結果的にそのおかげでロケットニュース24に応募する余裕ができたと言っても過言ではない。
そのため、身近に生活が厳しそうな人がいれば、行政の補助を調べてススメるようにしているのだが、ほとんどの人がサイトすら見ずに誤魔化そうとする。もちろん、その気持ちは分かるので、そういった人を非難したいわけではない。むしろ、それで非難したくなるような関係性ではススメないし。
ただ、行政などの補助を受けられる状態なのに、それを知らないという人は多いと思うのだ。
物語のユイもそういう状態で、崖っぷちではなく転落が始まっていることに気づかない。原作の力もさることながら、2008年の話にこれだけの共感を感じられるのはアニメの出来が良いからだと思う。
そして、私個人の実感で恐縮だが、ユイのような人は増えているのではないだろうか。つまり、まさに第8話は『池袋ウエストゲートパーク』らしいイマを切った回。数ある原作の中からこの話を選んで放送したアニメスタッフに拍手を送りたい。
参照元:IWGP
執筆:中澤星児
©石田衣良/文藝春秋/IWGP製作委員会
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