子どもの頃、家族で良く行くファミレスに、どうしても頼むことのできないスイーツメニューがあった。「ババロア」だ。なんとなく言葉の響きが好きになれず、私(佐藤)はいつも「プリン」を頼んでいた覚えがある。
そのババロアが、もしも「ジジロア」だったら……。ジジロアってなんだ? とても気になったので、実際に注文してみた!
・名物ジジロア
私がジジロアに遭遇したのは、JR代々木駅周辺を歩いていた時のことだ。取材帰りにひと息つこうと「珈琲専門店TOM」の前にやってきた。古き良きレトロな喫茶店だ。濃いコーヒーでも飲んでゆっくりしよう。店先でメニューを見ると……
うん? 「名物メニュー」というのがあるな。コーヒーぜんざい(700円)、ババロアセット(800円)と続いて、その下に……。
ジジロアセット!(800円)
店のおだやかな佇まいとは裏腹に、なかなかエッジの利いたメニューだな……。ぜひとも食べてみたい!
・心の通う会話
中に入ると、店内は文化遺産に残したいレベルの渋いつくりをしていた。扉を開けて中に入った瞬間に、気持ちまで昭和にタイムスリップしたかのようだ。店を飾る調度品からは、歩んだ時の長さがうかがえる。この空間にいるだけで気持ちが丸くなる。音楽はない。聞こえてくるのは女将さんと常連さんの世間話。それがまた心地よくてずっと聞いていられる。
常連さんが「このお店、禁煙になったんだっけ?」ととぼけて尋ねると、女将さんは「今、何月? (禁煙になってから)もう半年以上経ってるでしょ?」とたしなめる。すると、常連さんは「まだ5月だよね?」ととぼけ返して笑っている。私も思わずつられて笑ってしまった。
これだよね! 喫茶店は。心と心が通っている。それがわかる会話が気持ちいい。
・時間と共に培った “癒し”
さて、注文したのはジジロアセットだ。淹れたてのストロング珈琲の芳しい香りと共に、白い皿にのって出てきた。
一般的にババロアは、卵黄と砂糖を合わせたものを温めた牛乳に溶かし、さらに卵白・生クリームと合わせて、ゼラチンで冷やし固めたものだ。真っ白な牛乳の風味がきいた洋菓子である。それに対してジジロアはコーヒー色をしている。
上からコーヒーシロップとコーヒーフレッシュが垂らしてあり、色のコントラストが美しい。食べてみると、甘さの中にかすかにコーヒーの風味がする。ストロング珈琲を飲むことで、その甘さがより際立ってくる。
ユニークな名前だが、味には品がある。店の雰囲気も相まって、この味に一層癒される思いがした。巷に溢れた新しいモノ、派手なモノに触れるのはカンタンだ。だが、逆にこのお店が時間と共に培った “癒し” はなかなか手に入らなくなってしまった。どうかこの先も50年、60年とお店が続いてくれることを願っている。
なお、ジジロアとババロアは数に限りがあり売り切れになる場合があるので、あらかじめご了承ください。
・今回訪問した店舗の情報
店名 珈琲専門店TOM
住所 東京都渋谷区代々木1-37-3 岩崎ビル 1F
時間 9:00~22:00 / 土曜12:00~19:30
定休日 日曜日
Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24