皆さんは覚えているだろうか? 「だいすき日本」というカレーとナンのお店のことを。ここはビカスさんというネパール人の方が店主のお店だ。2010年のオープン当時、悲しすぎるTwitter投稿が注目を集めて話題になった。それから一旦閉店したのちに2018年に場所を変えて再オープン。現在も営業を続けている。

そのだいすき日本のある商品に、全国から注文が相次いでいるという。それは「カレー味の肉まん」だ。最近テレビで取り上げられて人気商品となっている。カレー屋なのになぜ肉まん? 一体どんな味なの? 実際に食べに行ってみた!

・お店はやめない

ビカスさんはとても善良な人だ。2016年に1度閉店した理由を聞けば、誰でも「人がいいなあ」と思うはずである。その当時、お店を独立した弟分がすぐ近くにお店を構えた。「だいすき日本」の2号店としてだったのだが、近くに同じ名前のお店が2軒もあったら客を取り合ってしまうことになる。それでビカスさんはもめ事を避けるために、自らが身を引いたのだ。


さて、そんなビカスさんもこのコロナ禍で店の運営に苦労されている。実際、自粛期間中は客足はなく、テイクアウト対応で何とか店を維持してきた。それでもお店を回すには十分ではないため、現在は早朝に以前の職場(ホテル)のアルバイトに出て維持費に回しているそうだ。


佐藤「お店を閉めるってことは、考えなかったんですか?」

ビカスさん「僕はTwitterで助けてもらった(2010年当時から今まで)からね。だから、お店はやめない。続けます」


彼はTwitterで助けてもらったと考えている。お店を続けることで、その「恩」を返したいようだ。現在もTwitterは彼にとって大事なツールだ。実際、肉まんの販売を始めたのも、Twitterがきっかけになっている。


佐藤「最近テレビの番組で取り上げられましたよね。それから注文がたくさん来るようになったんですか?」

ビカスさん「その前から注文はもらってましたよ。沖縄以外の全国から注文を頂いてますね」


佐藤「すごい!」

ビカスさん「一昨日は70個くらい送ったかなあ。福岡、愛知、広島、埼玉や都内からも注文をもらってます。本当はねえ、僕が持っていこうと思ったんですよ。直接持っていってあげたら、喜んでくれるかなあと思って」


佐藤「いやいや、ビカスさん。そこまでやったら、身体がいくつあっても足りなくなりますよ」

ビカスさん「近くだったらね、僕の昼休みに持っていけると思ったんですけど」


佐藤「いや、休んでくださいよ。朝もアルバイトされてるんだから……。それで注文はメールでもらってるんですか?」

ビカスさん「Twitterのダイレクトメッセージです」


ビカスさんとTwitterは切っても切れない関係だ。彼はTwitterの縁で出会った人たちとの間で、コミュニティを形成している。そのつながりは全国に広がっていて、各地から肉まんの注文をもらっている状況なのだ。


・良心で動いていい

実際に注文の流れを尋ねると、ここでもビカスさんの人柄を伺わせる考えを聞くことができた。


ビカスさん「DMで送り先を頂いて郵送しています。送料は着払いでお願いしています。送料無料でもよかったんだけど」

佐藤「送料はもらいましょう。送料まで被ることはないですよ」


ビカスさん「そうみんな言います。それで料金は後からお支払い頂いてます

佐藤「後払い? それお金を支払ってもらえなかったらどうするんですか?」


ビカスさん「肉まん1個250円でしょ。2個で500円。4個でも1000円。それが払えないってことは、それだけ食べるものに困っているってことでしょ。そうしたら、お金がなくて食べられなかった人を助けたんだなって思います。人を助けたと思えばいい。今のところ、後払いで払わない人はいませんけどね」

佐藤「……そんな風に考えるんですね。考えてもみなかった……」


ビカスさん「レジ袋有料化になったでしょ。小銭しか持っていなくて、たまたま袋が買えなかったとしたら、お店の人は「すみません」といって手渡しにするしかないでしょ。本当はお店の人は、袋の1枚くらいあげてもいいって思っているはずです。

でも、お店としてはダメ。会社としてはダメでしょ? 今の日本はそういう仕組みとかルールに縛られていて、個人が良心で動くのは難しくなっている気がします。なんというか、融通が利かないというか。後払いとは話はちょっと違うかもしれないですけど、多少はお互い許し合うようにしないとねえ」


正直、自分が恥ずかしかった。私なら、後払いの約束をして払わない人間を「不届き者」くらいに思ってしまう。そんな人間に遭遇したら、本当に許せない気持ちになると思う。でも、ビカスさんはもっと大きな視点でモノを見ている気がする。


・肉まんにした理由

ところで、なぜ肉まんになったのだろうか? カレー屋なのだから、カレー自体を販売すれば良いはずなのだが……。


佐藤「でもどうして肉まんの通販になったんですか?」

ビカスさん「カレーを売りたかったんだけど、真空パックにする機械(真空パック器)は高いんですよね。家庭用の機械だと、湯せんで加熱する時に袋が破けたりするので、お店では使えないんです。それで肉まんにして挽肉のカレーを閉じ込めたら、冷凍しやすいんじゃないかなと思って、試作を重ねて今の形になりました」


佐藤「なるほど! たしかに扱いやすいかも」

ビカスさん「ただ、冷凍に1日かかるので、作れる数が決まってるんですよね。うちの冷凍庫だと大体80個くらいが限界。作り置きすると冷凍焼けするから、いっぺんにそんなにたくさん作れないんですよ」


・皮が美味い!

ランチメニューに肉まんは載っていないのだが、特別に1つ温めて頂いた。皮は厚目で、モッチリとした手触り。


半割りにすると、ほのかにスパイスが香り、中から肉汁があふれ出してくる。皮に汁が浸透して、とても美味そうだ。


食べてみると、皮が美味い! 肉まんといえば主役はやっぱり中のタネである。しかしここの肉まんは皮が主役。噛むとほのかに甘さがあり、スパイシーなカレーの味を引き立てている。これは中に何を入れても美味くなる皮じゃないだろうか。


・「感謝」がある

新型コロナウイルスの影響で、飲食店は変わらず厳しい状況下にある。以前の日常を取り戻すのには、まだ時間がかかるだろう。ビカスさんは今、将来をどう捉えているのだろうか?


佐藤「ビカスさん、まだ状況は厳しいと思いますけど、この先にやりたいことは何かありますか?」

ビカスさんコロナが落ち着いたら、肉まんを買ってくれた人のところに行きたいねえ。全国の皆さんのところを訪ねる旅がしたいです。肉まんを買ってくれたお礼に、カレーの作り方を教えてあげる。無料でカレーを作る旅がしたいです


佐藤「商品をお送りするお礼に、お金をもらうのが「商売」だと思いますけど、ビカスさんにとって商売はそういうものじゃないんですね」

ビカスさん「Twitterもそうだけど、つながりですね。人と人とのつながりが商売なのかなあ。僕は肉まんを買ってくれたことにお返しをしたい。だから、カレーを作る旅がしたいんです」



ビカスさんとお話していると、彼の心の中にはいつでも「感謝」があるように思った。お店を営業することは彼にとって、その感謝を示すことなのかも。どうか身体に気をつけて、末永く商売を続けて欲しいと願う。なお、お店や肉まんなどについては「だいすき日本」にTwitter(@daisuki_vikas)に投稿しているので、そちらを確認して欲しい。


・今回訪問した店舗の情報

店名 だいすき日本
住所 東京都板橋区仲町37-7 古内ビル
時間 11:00~21:00
定休日 火曜日

Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24