緊急事態宣言の延長を受け、全国の動植物園・水族館の休園が今しばらく続きそうである。動物たちはさぞやのびのびしているのではないか……と思いきや、すみだ水族館(東京都)では来園者がいない日常に魚たちが慣れてしまうと困るというので、チンアナゴの顔を見る……ではなく「チンアナゴに顔を見せる」ユニークなビデオ通話イベントを開催。面白い!

他にも休園中の動物たちがどんな風に過ごしているのか、全国各地の動物園が工夫をこらして情報発信している。その中から、スマホやパソコンで観られるライブ配信・動画配信のサービスをピックアップしてご紹介したい。新型コロナウィルス収束後に「リアルで来園するならここ!」という筆者のイチオシ動物園もお伝えするぞ。


one zoo(ワンズー)

「one zoo(ワンズー)」はKDDIが提供する「デジタル動物園」のプロジェクト。とりわけこの外出自粛期間には「家にいながら、動物園を回遊できる体験」の実現に取り組んでいる。メインはスマホアプリだが、一部の動画はYouTubeチャンネルでも配信。GW期間中の5月5日には、休園中の旭山動物園(北海道)からライブ配信も行われた。

アプリ版ではこれまで、提携する動物園の「園内マップ」「スタンプラリー」「音声ガイド」「どうぶつ動画(1日5分)」などのコンテンツを提供してきた。動画を無制限で視聴するには有料会員になる必要があったが、感染症対策で多くの動物園が休園している現状を受け、5月1日より「どうぶつ動画」を無料公開中(会員登録必要)!

アプリをインストールすると、おもむろに動画が再生。スマホ画面いっぱいに広がる動画は迫力満点だ。動物園スタッフ撮影ならではの、近距離からの高画質な動画が再生される。

画面下の「園情報」のアイコンをタップすると、施設情報やアクセスを確認できる。

また「図鑑」アイコンからは、その種の説明と、同じ園で一緒に飼育されている仲間や、関連する動画を一覧できる。例えばキリンが好きなら、次々に別のキリン動画をたどっていけるし、○○動物園にはキリンが何頭いて……ということがすぐにわかる。

動画の検索は、動物別に探すことはもちろん、動物園別やタグ別、名前別から探せるぞ。普段動物園に行かない人には馴染みがないかもしれないが、もちろん飼育されている動物たちには1頭1頭名前がある。

例えば愛媛県立とべ動物園のピース(飼育員による人工哺育で奇跡的に成育したホッキョクグマ)など、全国的な知名度を誇る動物もいるので、名前で検索できるのは嬉しい機能だ。

しばらくすると無料会員登録を促されるので、アプリの使い心地が気に入ったら登録するといいだろう。どのキャリアでも会員登録はできるのだが、au IDが必要。auユーザーはすでにIDがあるので簡単だが、それ以外のキャリアでは少し手間がかかるかもしれない。

なお、今回公開されている「どうぶつ動画」は無料会員でOKだが、動物園の入園クーポンなどがもらえる有料会員登録をした場合の利用料の一部は、どうぶつの飼育や繁殖の研究、動物園の整備などに役立てられるという。

現在、動画を提供しているのは、旭川市旭山動物園(北海道)、よこはま動物園ズーラシア(神奈川県)、天王寺動物園(大阪府)、野毛山動物園(神奈川県)、金沢動物園(神奈川県)、福岡市動物園(福岡県)、豊橋総合動植物公園のんほいパーク(愛知県)、愛媛県立とべ動物園(愛媛県)、静岡市立日本平動物園(静岡県)の9園だ。


・PECO「見る見る応援 おうちで動物園」

ペット専門メディア「PECO」でも休園中の動物園の支援を開始。全国12カ所の動物園の動物たちの動画を5月2日~5月31日の期間限定で無料公開している。視聴方法はYouTubeまたはアプリだが、アプリの方が充実している。

アプリ版では一部の動画に「寄付はこちら」のボタンがあり、それぞれの動物園の寄付受付ページにダイレクトにつながっている。応援の気持ちを行動に移しやすい。

対象の動物園は、よこはま動物園ズーラシア(神奈川県)、東山動植物園(愛知県)、日本モンキーセンター(愛知県)、京都市動物園(京都府)、アドベンチャーワールド(和歌山県)、神戸どうぶつ王国(兵庫県)、姫路セントラルパーク(兵庫県)、大牟田市動物園(福岡県)、旭山動物園(北海道)、豊橋総合動植物公園のんほいパーク(愛知県)、天王寺動物園(大阪府)、金沢動物園(神奈川県)の12園。

一部「one zoo」との重複もあり、動画の本数も「one zoo」の方が多いが、両者を併用すれば全国の主だった動物園が北から南まで網羅される。動画だけで国内の動物園を遊覧できるぞ!


・ライブ配信も面白い

ここまで紹介したのは主に過去に撮影したものを視聴者が見やすく編集した映像だが、リアルタイムのライブ配信も面白い。

例えば旭山動物園(北海道)ではぺんぎん館、あざらし館、ちんぱんじー館の映像を公開。サポーター(有料会員)になると高感度・暗視カメラの映像も見られる。夜には「泳いだまま寝るアザラシの姿」が観られるらしい!

珍しいところでは対馬野生生物保護センターで飼育されているツシマヤマネコなんてものも! タヌキみたいにもモフモフで可愛い!

ライブカメラの面白いところは、動物たちが必ずしもカメラの前に来てくれるわけではないということ。見やすく編集している録画番組と異なり、下手すると無人(無動物?)の飼育場を延々と眺めることになる。そう、実際の動物園と同じ状況になるのだ。「あ、来た!」と思いきや、「行っちゃった……」とがっかりするなど、リアルな動物園体験ができるぞ。


・筆者のイチオシ動物園

独自のチャンネルで頑張っているところもある。例えば長崎バイオパーク(長崎県)では、休園中の園内の様子をこまめにYouTubeチャンネルで配信していて、名物(?)のカピバラの360°動画もあるぞ。

個人的見解だが、実際に行くなら筆者はこのバイオパークがイチオシ。最後に訪れたのは数年前で画像も古いのだが、とにかく自然豊かな敷地で、背後に見えるのは他の動物の飼育スペースではなく「山」という環境だ。

通路もまんま山道で、「え、ここに動物いるの?」というような無造作な飼育スペースがところどころに現れる。このゆる〜い感じがとてもよかった。

サイ(当時飼育)のような大型動物がコンクリートの飼育場に入れられているのを見るのは忍びないものだが、バイオパークはとにかく全体的に飼育場が広い。

コンセプトは「動物にさわれる」「柵のない」動物園で、例えば園内ではカピバラが放し飼いにされていて、来園者が歩いているすぐ隣でカピバラが寝っ転がっていた。

……となると心配なのが「動物にストレスがかかるんじゃないの?」ということだが、飼育場には池があって、泳ぎが得意なカピバラは池の中央に浮かぶ島に逃げれば人間に近寄られることはない。カピバラが自分で居場所を選べるのだ。お出かけの際には最新情報を確認して欲しいが、今でもコンセプトは変わっていないように思う。


・動物園の存続のために

筆者は動物園・水族館が好きでよく訪れるが、実は必ずしも「楽しかった」だけで終わらないことも多い。そもそも動物園には、野生動物を人間が飼育しているという「不自然な状態」があるし、飼育環境が良好とはいえないところもある。イルカショーなど動物に芸をさせることへの賛否もあるだろう。

では「動物園なんて全てなくせばいい」かというと、そうは思わない。1度もホッキョクグマを見たことがない人が、いくらテレビで「温暖化で氷が溶けてホッキョクグマがピンチ」と言われても、「どこか遠い世界の出来事」にしか感じられないのではないか。野生動物を身近に感じ、地球の環境に思いを馳せるきっかけになり得ると思うのだ。

その代わり、飼育している以上は人間は動物の最大限の幸福を追求しなければならない。広い飼育場、人間の視線を避けられる構造、生息地に近い温度管理など、たくさんの人が注目して予算が増え、どんどん環境改善できる、そういったサイクルが生み出されればいいと思う。休園中も動物園のことを忘れずにいられるような、記事のような取り組みは今後も応援していきたい。


参考リンク:one zoo、PECO(YouTube / アプリLive Zoo In あさひやま対馬野生生物保護センター長崎バイオパーク
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
ScreenShot:one zoo、PECO、Live Zoo In あさひやま、対馬野生生物保護センター、長崎バイオパーク(iOS)