
きっかけは、本来別の者が担当する予定だった「アフタヌーンティーの福袋」を、偶然担当したことだった。全く知らない分野だったが、記事を請け負った以上は色々調べて何とかするわけである。
その過程でお店としての「アフタヌーンティー」人気はもちろん、イギリス発祥の習慣としてのアフタヌーン・ティーもまた、特に女性の間で人気だと知ることに。アフタヌーン・ティーって、紅茶飲むやつやろ? 良さがイメージできないが……とりあえず試してみっか!
・帝国ホテルへ
一見して自分にはその良さがわからないように思えるものでも、それが流行っているのであれば侮ってはならない。そこには多くの場合、全世代に通用する良さがあったりする。
ゆえに、女性の間で(個人的にはまだ全く良さがイメージできない)英国由来のアフタヌーン・ティーの習慣が流行っていると知って、真っ先に思ったのは「未知の良さがあるはず」ということ。調べてみると、ホテルのレストランなどで提供されているものが人気らしい。
ということでやってきたのが帝国ホテル。なぜ帝国ホテルなのか説明しておこう。まず、私はこれ以上ないほどのアフタヌーン・ティー初心者である。紅茶を飲むだけだろうという程度のイメージしかない。
自分が果てしなくアフタヌーン・ティーに無理解だという自覚があるので、とりあえず最上級のものを体験させてくれそうなところにいけば間違いないだろうと考えたのだ。
当初は「東京のホテルで初めて本格的なアフタヌーンティーを提供したといわれる」と述べているホテル椿山荘東京や、とにかく一流であることを妄信しても問題なさそうなザ・リッツ・カールトン東京なども候補にあった。
最初から帝国ホテル一択だったわけではなく、文句なしの一流ホテルの中のオプションの一つとして候補にあり、都合などと照らし合わせた結果すぐに行けそうなのが帝国ホテルのアフタヌーン・ティーだったという感じ。ちなみに値段はどこも5000円前後。帝国ホテルのものは5200円だった。
私のアフタヌーン・ティーに対する知識や理解がどれだけ貧相であったとしても、帝国ホテルが提供するものなら読者の皆さんも間違いなく信用できるだろう。キアヌ・リーブスだって映画『JM』で帝国ホテルの洗濯を推しているしな。
・最上階にて
帝国ホテルは帝国ホテルでも、中にはたくさんお店が入っている。今回アフタヌーン・ティーを嗜(たしな)んだのは、最上階にある「インペリアルラウンジ アクア」。最上階のレストランである。
予約の段階で「できれば隅の方の席がいいです」的な要望を書いておいたのだが、案内された席はまさに隅の隅。フロア内の一番端で、他の人からの視線もほぼカットされる場所。推し量ってくれてる感がありがたい。ちなみに窓からの眺めは最高である。
出てくるものは決まっており、ただ待つのみ。なお、予約の時に出てくるものの一覧表みたいなものを見たが、正直よくわからなかったので全く覚えていない。
この時の認識としては「何かイイ紅茶が出てきて、ケーキとかといっしょに食べる感じだろう」みたいな感じ。「きっとウマい紅茶とケーキを味わうのがアフタヌーン・ティーなのだろう」という曖昧なものである。そして待つことしばし……
なんかスゲぇの来たぞ
何だい、この外枠のない鳥かごみたいなのは? これ映画とかでブルジョアなお嬢様が執事に持ってこさせる奴じゃあないか……! これはスゴイ。とりあえず圧倒される。しかし……
どうやって食べるんや……?
執事付きのお嬢様ならば作法も知っているのだろう。しかし、こちとら安い豆のブリトーばかり食う青年時代を経たのちに、安い牛丼ばかり食うおっさんになり果てた身の上である。これまでの人生における食事の7割くらいは歩きながら済ませているレベル。どうすべきなのか皆目わからぬ。
しばらく眺めまわしたり、他のテーブルで似たようなものをお召しになられているレディの皆様の様子を盗み見るなどして対処法を模索したが、全く駄目であった。仕方がないのでウェイターの人に聞いてみると「下からというのが一般的」との答えの後に
「ですが、ここはお好きなように楽しんでいただくのがよろしいかと」
なるほど、好みを最優先していいと。なんとなく、リラックスしてエンジョイしてええんやで? 的な免罪符を渡された気がして気が楽になった。ということで、適当に一番よくわからないものから食べていくことに。
サーモンが入っていること以外は正体不明だが、とにかくウマかった巻物じみたモノや……
もはや何一つわかる要素が無かったが、とにかくウマいモノを……
普段飲むコンビニのボトル入りの紅茶とはモノが違うことだけは確かな、とてもいい匂いがする紅茶と共に食べることしばし。
ふと感じたのだ。あぁ、これは紅茶がどうとか、食いものが美味いとか、そういうことではないな……と。
恐らく重要なのは、この諸々による演出全てなのだろう。通常ではまず無縁な、鳥かごじみたあのトレー的なもの。とても丁寧な接客。とても質のいい食器と、その場所そのものの景観などから来る雰囲気。
これら全てからくるスペシャルで優雅な感じこそが、アフタヌーン・ティーの本質なのではなかろうか? 端的に述べるなら、エレガントな非日常感である。まるで貴族にでもなったかのよう。ただのサンドイッチすらもスゴいものに見えてくる。
・ディズニー感
こうして得た人生初のアフタヌーン・ティー体験。この楽しさというか、心地よさというか、それと非常に似たものに覚えがある。それは、ディズニーにて感じた良さである。
かたやテーマパーク、かたや静かな場所でのお茶&軽食。目に見える点に共通項はほとんど無い。しかし、楽しさの種類や、楽しませる仕組み的な部分が似ているように思うのだ。
最も大きい共通点は、輝ける非日常感である。ディズニーにあふれるキラキラ感が、楽しいばかりではない日常を忘れさせてくれるというポイントはディズニーの重要な要素だろう。高級ホテルでのアフタヌーン・ティーもまた、日常を忘れさせてくれるきらびやかな体験だ。
ディズニーでは誰もがハッピーな魔法にかかるが、アフタヌーン・ティーでは誰もがエレガントな魔法にかかるのである。限界じみたおっさんの私でも一発でわかるレベルのエレガント感が、帝国ホテルでのアフタヌーン・ティー体験にはあった。
・男性も試してみる価値はある
恐らく男性でアフタヌーン・ティーを定期的にエンジョイするという人は、まだあまりいないだろう。試しにウェイターさんに、私のように男性一人、あるいは男性のみのグループでアフタヌーン・ティーを嗜む人をどれほど見たことがあるか聞いてみたが、「珍しいのは確か」とのことだった。
もしかしたら興味があっても、女性だらけで目立ってしまい、居心地が悪そうとか思う男性もいるかもしれない。女性客だらけという点においてはその通り。右を見ても左を見ても後ろを見ても、ディナーの時間になるまでは女性のみだった。しかし目立つかというと、全くそんなことはない。
恐らくあの場でおっさんが一人アフタヌーン・ティーをキメていたことなど、周囲の女性客は誰も覚えていない……というか、視界にすら入っていなかっただろう。
その理由はシンプルであるように思う。それぞれのテーブルに提供される食べ物のセットなどの視線誘導力やキラキラ感が圧倒的なのだ。皆そちらに夢中になり、他のテーブルに気を向ける余裕などない様子であった。
例えばディズニーにてミッキーが目の前に現れたらどうだろう。多くのディズニーファンはミッキーに夢中になり、周囲の出来事など認識できなくなるはず。それと同じような感じだ。
ゆえに、居心地はとても良かった。女性ばかりで落ち着かないと思いきや、むしろ一人の世界に集中することができたレベル。ややお高いのがネックだが、休日のスペシャルな過ごし方の一つとして、アフタヌーン・ティーは間違いなく良い選択肢の一つだ。
主に女性に人気のアフタヌーン・ティー。おっさんが一人で体験してどうなるのかと試してみたが、そこには無縁かつ初見でもわかる良さがあった。日々のストレスで精神がやつれ気味な男性の皆さん、高級ホテルでのアフタヌーン・ティーは、リラクゼーション的に大いにアリです。
最後に一つ。他の女性客を見るに、ソロ勢もいたが、やはりグループが多かった。恐らく多人数でこそわかる良さがまた別にあるのだろう。おっさんオンリーでアフタヌーン・ティーをキメて、どの様な楽しみが見えるのか……というのも興味深い気がする。
江川資具








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