中国の鍋料理といえば? いまでこそ小肥羊や真っ赤な火鍋も有名になってきたが、長いこと日本で最も有名な中国鍋の座を守ってきたのが白菜がメインの激ウマ鍋「ピェンロー」だ。メディアによっては「ピェンロー鍋」と表記されることもある。日本では「冬になるとピェンローが恋しくなる」という人もいるくらい知られた料理である。
そんなわけで、私(沢井)は、あるとき中国人に「日本で有名な中国鍋料理はピェンローだと思う」と話したことがある。すると「何それ?」とキョトン顏。これって中国料理じゃないの?
・妹尾河童・著『河童のスケッチブック』で一躍有名に
ピェンローとは、1995年に出版された妹尾河童さんのイラストエッセイ『河童のスケッチブック』でレシピと共に紹介されたもので、広東省に隣接する広西チワン族自治区の料理だという。著書のなかで妹尾さんは中国に長く住む友人から教わったと述べている。漢字で書くと「扁炉」。
詳しいレシピは同書でご確認いただけるが、ザックリというと。シイタケの戻し汁で、シイタケ、大量の白菜、豚肉、鶏肉、春雨を煮た料理だ。味付けは具材のダシと煮込む途中で、2回しかけるゴマ油のみ。各自が取り皿に、一味唐辛子と塩、鍋のつゆを入れてつけ汁を作り、具材をそのつけ汁につけていただく……というものである。
40分ほど煮込んで、柔らかくなった白菜は舌の上でトロントロン! いくらでも食べられる無限白菜だ。味も予想以上にしっかりとしており、ゴマ油の風味がシイタケと野菜や肉からしみだしたダシを引き立て、そこにほんの少しの塩が加わると……その味わいは格別なのだ。
この鍋つゆだけで1リットルは飲めそうだが、このスープで作ったおじやがこれまた最高なので理性を保ったまま食べ進めたい、そんな激ウマ鍋なのである。
・中国人は知らない?
さて、そんなピェンロー(扁炉)だが、中国で全く同じものがあったという話は聞いたことがない。中国の検索サイト百度やSNSで検索してもヒットしないのだ。ウマすぎて禁止ワードにでもなっているのか!?
気になったので実際に中国人に聞いたこともあるが、
上海人「何それ?」
北京人「うちらが “頓白菜(ドゥンバイツァイ / 白菜煮込み)” という料理かも。どこ? 内陸の方言でしょ」
と、キョトン顏。
だが広東人から「ピェンローって、もしかして打辺炉かな?」という情報を得ることができた。広東や広西エリアでは、扁炉、辺炉、打辺炉という言葉があり、いずれも「鍋料理」を指すのだという。つまりアレか? 「ピェンロー鍋」というと「鍋鍋」って言ってるようなもん?
・レストランのメニューにも載っていない
調べたところ広東では具材は白菜と決まっているわけではなく、海鮮などを入れることが多いのだとか。中国でピェンローと完全に一致するレシピを探すのは困難かもしれない。
『河童のスケッチブック』でも「レストランのメニューには載っていない」とあるように、同書のピェンローは妹尾さんにレシピを伝授した「中国に長く住んでいた友人」が滞在した地域やお家独自の作り方なのだろう。もしかしたら広西のチワン族の間ではメジャーな食べ方なのかもしれない。チワン族の方、いらしたら教えてください~!
そんな郷土綾里が、日本で有名に。さらに中国では妹尾さんの著書や日本の有名人の「ピェンローが好き」という発言を聞いて、白菜のピェンローを知ったという人もいるそうだ。なんだが不思議なループだが、このピェンローの輪が途切れないのはやはりモノが美味しいからに他ならないだろう。まだ食べたことがないという人は一度試してみてはどうだろうか?
Report:沢井メグ
Photo:Rocketnews24.