それなりに暑いかと思えば急に涼しくなったりもする。東京住まいの筆者はこうした近頃の微妙な気候において何を食べればいいか迷いがちなのだが、皆さんいかがお過ごしだろうか。熱いものにも冷たいものにも食指が動かず、「ちょうど良いメニュー」を探すのに苦労することってないだろうか。
何か解決策はないものかと調べていたところ、すこぶる有益な情報を入手した。東京のとあるそば屋では、温かすぎず冷たすぎない「ぬるいそば」を提供しているのだという。こんなにちょうど良いメニューが他にあるだろうか。胸を弾ませて現地に向かった。
・ぬるいからこそ
丸ノ内線・方南町駅から約3分ほど歩いたところに、目当てのそば屋「Y’z (ワイズ)」は存在する。
のれんには痛快なまでに「うどん」と書かれているが、うどんも提供するそば屋だということだ。引き戸にいくつも張られたメニュー表に目を向ければ、「そば」の文字が多く見受けられる。
店内の壁面にも、所狭しとメニュー表が並ぶ。それだけにラインナップが豊富で、風味豊かな田舎そば、細めでつるつるした日本そば、七割そばに十割そば、茶そばや前述のうどん、きし麺などがあり、それぞれ「かけ」と「もり」を選べ、ざるそばも用意されている。
そんなバリエーションの中の1つとして強烈な異彩を放っているのが「ぬるいそば」である。斬新すぎるため隠しメニュー的な位置づけかと思いきや、逃げも隠れもしないとばかりにこちらの目を引きつける「当店名物」の文字が頼もしい。
付け加えておくと、そば以外にうどん、きし麺もぬるいものに変えられるので、うどん派、きし麺派の方々も安心してほしい。
さっそく「ぬるいそば」を注文してみたところ、ほどなくして丼がお目見えした。ネギ以外具なしの状態なので価格は280円と安い。ここに無料の揚げ玉やきつね(50円)、かき揚げ(60円)、半ワカメ(60円)などをトッピングすることもできる。ちなみに普通のかけそばも280円、もりそばは300円だ。
見た目は普通のかけそばと全く変わらないが、丼に手を触れてみるとほのかに温かい。つまりぬるい。本当にぬるい。生まれて初めてぬるさに感動してしまった。人肌のような温かさがなんとも心地よく、落ち着くのでずっと触っていられる。
とはいえずっと丼を触っているわけにもいかないので、箸を取り、いざそばをすする。ぬるい。ぬるいのに美味しい。出汁の効いたつゆの風味は穏やかな温度の中でも損なわれておらず、しっかりと舌に響いてくる。「これぞかけそば」と言いたくなる王道の味だ。
ぬるいからといって、そばがのびているわけでもなく、適度に歯切れの良い食感がある。全体として決して間延びしてはおらず、それでいて優しい口当たりとなっている。
普通のかけそばに引けを取らないどころか、むしろそれよりも身体に染み渡るように感じられる味わいだ。「人肌」という感想もあながち間違いではなかったかもしれない。フーフーと口で冷ます必要もないので、あっという間に箸が進み、気付けば完食していた。
熱い料理が冷めてぬるくなってしまうとあまり美味しいとは感じないものだが、最初からぬるくチューンされた「ぬるいそば」は違った。ぬるいからこそどんな季節でも食べやすい、そしてこの時期にもふさわしいと思える期待通りのそばだった。
そのうえ多くの人が親しめるであろう仕上がりである。メニュー選びに困っていない方でも、ぜひ1度味わってみてほしい。たまにはぬるま湯に漬かってみるのも一興というやつだ。
・今回紹介した店舗の情報
店名 Y’z (ワイズ)
住所 東京都杉並区方南2-15-5
営業時間 月~金 6:00~19:00 / 土・祝 6:00~17:00
定休日 日曜、祝日
Report:西本大紀
Photo:Rocketnews24.
▼見た目は普通のかけそばだけど「ぬるいそば」
▼人肌のような適温が心地よい。そのうえしっかり美味しい
▼絶対どんな季節でもいける