細かいことが気になってしまうんですよねえ。僕の悪いクセ。『相棒』の杉下右京さんではないが、筆者は細かいことが気になってしまうタチである。そんな筆者が以前から気になっていた「細かすぎて伝わらない疑問」を今回は書いてみたいと思う。

それは、かつてプロ野球・日本ハムでプレーしていたセギノール選手の身長が1年で7cmも伸びたのではないかという疑惑。そんなことってあるのだろうか。

・愛読書

プロ野球選手写真名鑑。この手のひらサイズの小冊子を、筆者は20年間にわたり購入し続けている。各選手の成績や寸評などが掲載されたもので、筆者は日刊スポーツの選手名鑑を愛読している。

この選手名鑑を読みこんで各選手のデータを頭に叩き込むのが習慣となっており、毎年ひいきチーム以外のページも隅から隅まで熟読しているのだ。そんな弛むことのない選手名鑑パトロールの末に、筆者は驚がくの事実に気付いてしまった……!

・両打ちの大砲

パ・リーグファンの方なら、この名前に聞き覚えがあるのではないだろうか。フェルナンド・セギノール。オリックス、日本ハム、楽天の3球団でプレーし、通算172HRをマークした助っ人外国人だ。

左右両打席ホームランを記録するなど強打のスイッチヒッターとして知られ、2004年には本塁打王を獲得している。しかし筆者の目に留まったのは、彼の身長。正確にいえば身長・体重である。

まず2006年度の選手名鑑を開いてみると……

身長194cm、体重92kgとある。背が高くていいですね。

続いて翌2007年度の選手名鑑を開いてみると……

身長201cm、体重100kgとある。なるほど。そうですか。


……。


………。


……ってオイ!


7cmも伸びとるがな!



1年で!


7cmも!

 


いったい何があったの? 舞の海のように、頭にシリコンでも埋め込んだの?

このときセギノール選手は32歳。成長期の子供ならともかく、成人男性の身長が1年で7cmも伸びることなんてありえるのだろうか?

・3つの可能性

いったいどんな読み方をしたらそんなことに気付くのかというツッコミはさておき、この謎は解き明かさねばなるまい。概ね、3つの可能性が考えられる。

①誤植
②身体測定をミスった
③本当に身長が伸びた

考えられるとしたらこの3つのどれかだと思うのだが……。一つずつ検証していこう。


①誤植
身長194cm、身長201cmのいずれかが誤植だという可能性。確かに、どんな書籍でも誤植は起こりうる。単純なタイプミスだったり、掲載するデータを取り違えたり。

しかしタイプミスだとすると、少し納得がいかない。例えば194cmを195cmとタイプミスするのならまだ分かるが、194cmを201cmと入力し間違えるだろうか。逆もまた然りである。身長に合わせて体重まで増減している点も引っかかるし、タイプミスとは考えづらい。

他の選手のデータを誤って掲載したという可能性もあるが、2006年当時の日本ハムに194cm・92kgという選手はいないし、2007年当時の日本ハムに201cm・100kgという選手もいない。そもそも、これだけ大きな体の選手自体、そういない。

となると誤植ではないのか……。


②身体測定をミスった
筆者もサラリーマン時代には年に一度、身体測定を受けていたが、身体測定とは多少誤差の出るものである。もう背は伸びていないはずなのに、年によって身長が1cm高かったり、低かったり。

しかし身長にして7cm、体重にして8kgもの誤差が生じることはあり得るだろうか。鎧兜でも着込んで測定台に上がらない限り、そんな誤差は生じないだろう。したがって、身体測定をミスったという可能性も考えづらい。ということは……。


③本当に身長が伸びた
にわかに信じ難いが、これが真実ということになるのではないだろうか。誤植でも誤測定でもない以上、実際に身長が7cm伸びたという結論に至ってしまうのである。

30歳を過ぎてなお、劇的に身長が伸びるチャンスがあるということだ。オイラも身長180cmになったらモテるかな……。


ちなみに、セギノール選手は身長が劇的に伸びた(であろう)2007年限りで日本ハムを退団し、翌2008年のシーズン途中に楽天で日本球界に復帰している。選手名鑑は開幕前に発売されるので、彼が再び選手名鑑に顔を見せるのは2009年度版ということになる。

今度は何センチになっているのだろうか。また伸びてたりして。そんなことを考えながら2009年度版の選手名鑑を開いてみると……。


開いてみると……。


身長194cm、体重92kgに戻ってるぅぅぅぅ! えぇぇぇ……。

1年で7cm伸びた身長が、日本を1年離れるうちに元に戻ったというのか。こうなるともう、筆者の手には負えない。ギブアップだ。

・真相は闇の中

選手名鑑を発行している日刊編集センターにも問い合わせてみたが、「今となっては分からないですね……」とのことだった。ですよね。

ということで残念ながら真相は闇の中。セギノール氏は現在、メジャーリーグのスカウトとして活躍されているのだとか。

執筆:グレート室町
イラスト:稲葉翔子