筆者は週1日、ハローワークで職業検索をしている。理由は1つ。母親が非正規雇用なので、代わりに目ぼしい就職先を探しているからだ。母親は京都府に住んでいて、現在は事務のアルバイトをしている。父親とは離婚したので、自身で生計を立てなければならない。
非正規のため職を転々とせざるを得ず、定期的にハローワークを訪れている。しかし思うような仕事は見つからず、やむを得ず今も時給900円で事務職をしている。よくネットやニュースで話題に上がるが、時給900円で稼げる月収は微々たるものだ。1日8時間勤務(休憩1時間)を22日間こなしたとして……
900×7×22=13万8600円
時給1000円で考えてみても……
1000×7×22=15万4000円
なかには時給1300円を超えるアルバイトもあるので……
1300×7×22=20万200円
厳しい。非常に厳しい。ここから税金で消え、保険で消え、家賃で消え、食費で消え……とてもじゃないが生活できない。母親の場合は持ち家があるので、家賃を払わなくて済む。だからなんとか生活できているが、以前手取り額を聞いて驚いた。
「残業によって色々やけど、額面はだいたい15万円くらいかな。交通費が支給されるからもっと多いけど、結局は消えていくし。そこから税金と年金と健康保険が引かれて、12万円くらいになる。職場の他のアルバイトの人も同じくらいのはずやから、みんなどうやって暮らしてるんやろうねぇ」
これは母親の職場だけじゃない。日本全国で起きていることだ。
・賃金10万円台から募集される京都府の事務職
冒頭で述べたように、筆者は母親の代わりに週1日ハローワークを検索している。母親はネットをイマイチ使いこなせないため、リアルタイムの職業情報を仕入れるには私を頼るしかないのだ。したがって私は京都府内の事務のアルバイト事情がよくわかる。
ハローワークの検索条件はいつも同じだ。「フルタイム」「京都府」「59歳以下」で、フリーワード検索の欄に「事務」と打ちこむ。そうして出てくる求職情報に毎度言葉を失う。
あくまで私のイメージだが、14万円から17万円前後で募集しているのが、京都府の行政の事務。ちらほらと民間企業の求人も見かける。恐るべきことに、ときどき「交通費支給なし」の求人を見かける。
もちろん20万円前後の求人もある。多くは民間企業だ。ところが貿易事務や医療事務など特殊なスキルを要したり、残業が20時間を超えていたり、英語や中国語を必要としたり、突然ハードルが上がる。月収20万円って、こんなに得がたいものなのか……。ときたま年間休日が80日を切っていて、「最低賃金を割っているのでは?」と眉をひそめてしまう。
また、30万円に達する求人も見かけるが本当に稀だし、母親のようなスキルでは到底採用にありつけない。検索方法を「パート」に変えても、それほど状況は変わらない。
この記事の執筆のために、東京都や島根県など、いくつかの地域で同様の検索を試みた。さすがに東京都は20万円を超える求人が多いようだが、そもそも物価が違うのでなんとも言い難い。大阪府や島根県などは、やっぱり10万円台の求人が散見された。
これが世界第3位の経済大国、日本の現状だ。
・どうやって老後までに2000万円を用意しろというのか
本当に問題なのは、このような仕事に就く現役世代だ。私の母親は特別なスキルがないし、ネットもできないし、接客が苦手で単純作業も向いていない。けれども彼女は母親としての役目を終えた。
子育てを終えた息子はなんとか自立したし、持ち家がある。いつまで働けるか分からないが、本当に困ったら息子に援助をお願いすればいい。
ところが現役世代はどうだろう。もしスキルがなくて、自分を活かせる仕事が見つからなくて、仕事に恵まれなくて、やむを得ず同様の仕事に就いている人がいたとしたら……本当に目の前が真っ暗になる。
時給900円~1000円の仕事を続けていたら、生活は苦しいまま。お金のかかる恋愛なんて楽しめない。だから結婚も遅くなる。もしかしたらできないかもしれない。結婚したとしても、子どもの養育費で1人3000万円かかると言われているのに、どうやって支払えばいいのか。最低でも子ども3人? 無茶や、アホタレ。
ちょうど今、金融庁の報告書が話題になっているが、お役人は日本の現状を理解して発表したのだろうか。老後資金が年金だけでは足りず、夫婦で30年間生きるには約2000万円が必要だなんて、このような仕事に就いていればどう頑張っても不可能。投資でなんとかしようにも、種銭がないと闘いようがない。増える額は微々たるものだ。
というより、投資は100%増えていくものではない。米中経済戦争で儲かった人がいれば、市場から退場させられた人もいる。仕事に向き不向きがあるように、投資にも向き不向きがある。役人クラスの報酬がないと、どう頑張っても貯蓄2000万円は不可能だ。
・日本の未来は、誰がどうしたいのだろう?
時給1000円では厳しい。時給1300円だって厳しい。そこから抜け出せない人々が日本中で問題になっている。これのどこが好景気だ? どこが好景気なんだ? 先進国の中で日本だけサラリーマンの平均賃金が下がり続けているのに?
そんな状況で、2019年10月に消費税が10%に上がるとされている。現在の8%でさえ多くの人が厳しい生活を送っている。筆者だって同じだ。ひいひい言いながら生活している。
じゃあ10%に上がったら? 軽減税率を導入して私たちの生活は大丈夫といえるのだろうか? というより豊かになっていくのだろうか?
私が書いたこの記事は、ぜひ政治家や官僚、経営者のみなさんに読んでほしい。はっきりと断言したい。
日本を作り上げているのは、他ならぬ国民だ。国民の生活が苦しいままなら、日本の消費は落ちていく。そうすると自社の製品やサービスが売れなくなって、企業の経営が厳しくなる。つまり国民も法人も納める税金が減って、国家予算も厳しいものになる。国債の発行額は今後も止まらないだろう。こんなことはどの経済媒体でも当たり前のように書かれている。周知の事実だ。
それなのに日本企業の内部留保が過去最高だって? そんなアホな。先日、世界銀行が「経済成長率の見通し」を発表したが、日本は世界最低クラスの経済成長率が見込まれるそうだ。
これから日本はどうなるのだろうか? 誰がどうしたいんだろうか? 週1日母親のためにハローワーク検索をして、痛いほど胸をしめつけられている。それはきっと私だけじゃないはずだ。
参照元:ハローワーク、THE WORLD BANK「世界経済見通し」
執筆:いのうえゆきひろ
イラスト:稲葉翔子