なんでやねん! 大阪と聞けば、そんなツッコミがまず思いつく人は多いだろう。しかし、生粋の大阪人はそのツッコミを嫌う傾向にあると思う

実際は、もうちょっとピンポイントで何かに例えたりしてボケの的(まと)の中心を狙うのだ。むしろ、「なんでやねん!」しか出てこない場合は、ツッコミ側の敗北という感じすらある

そんな大阪人である私が思わずヒネリも何もなく「なんでやねん!」と叫んでしまった話をしたい。あれは10年以上前、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに遊びに行った時のことだった……

・初めてのUSJ

大阪が誇るテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ジュラシックパーク』『ハリー・ポッター』などハリウッド映画の世界観を体験できるアトラクションの数々は、映画ファンにとって夢のエンターテイメントワールドである

そんなUSJに1度も行ったことがなかった当時の私。ちょうど、経営体制が変わって「USJがかなり良くなった」という噂が立っていたこともあり大学の友達グループで行ってみることになった。

・新感覚アトラクション

午前からUSJに乗り込んだ私たち。アトラクションは、エフェクトで魅せるものからテクノロジーを駆使したものまであり、大学生の感覚で言うとかなり楽しかった。特に、VRもARも一般的ではなかった当時、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の映像の中をデロリアンで走っていく感覚には感動すら覚えた。

「やっぱり話題になるだけある」「なんか新しいよね」「さすがUSJ!」私たちの感想はおおむねそんなところで一致していた。あのミュージカルを目撃するまでは……

昼食を食べ終わってのんびりしたい気分になった私たちは、ブラブラと演劇が行われているっぽい会場に足を踏み入れた。

・ホラー系のミュージカル

どうやら、上演されているのはホラー系のミュージカルのようだ。ポスターには、墓とかミイラ男とかドラキュラ伯爵などのイラストが描かれていた気がする。まあ、座れたら何でも良い。席につくと、やがてキャストが登場したのだが……



ドラキュラ伯爵がバリバリの黒人だ

普通なら、俳優が黒人であること自体はもちろん何も思わないのだが、ドラキュラ伯爵と言われると「そういう風には見えない」というのが本音である。ドラキュラ伯爵はモデルもイメージも広く知られている人物だけに違和感を感じたのかもしれない。だが、劇自体の違和感はこんなもんじゃなかった

ミュージカルなので、ミイラ男にフランケンシュタインなど、キャストそれぞれに歌の見せ場がある。そんな中、ドラキュラ伯爵の見せ場が回って来た。流れ出したのは、テンションMAXのラテンのリズム。ステップを踏むドラキュラ伯爵。フラティなウィドゥムでぇ~♪ ギラつく胸は♪ こ、これは……


郷ひろみの『GOLDFINGER ’99』!!


ホラー系の劇に全く似つかわしくない上に、流行りを6年ほど逃している上に、微妙に歌が下手だ! っていうか「アチチアチ」が かたことだ!! なんでやねん!

なんでこの曲選んだねん!! これならウケが悪くなるとは言え、元曲のリッキー・マーティン『Livin’ La Vida Loca』を英語で歌った方がキレイに歌えたのではないか……。

だが、なんだ? 猛烈に伝わって来るこの熱意は。大きい目で口で顔いっぱいに笑いながら汗だくで「アーティーティーアーティー!」と歌うドラキュラ伯爵。気づけば私は応援していた。頑張れ! もうちょっとで曲が終わるぞ!! 頑張れェェェエエエ!!!!!

そして、歌が終わった時、謎の感動に包まれた。彼が歌い切れたことがまるで自分のことのように嬉しい。やった……やり切りやがった! ヒーハァー!! 最高だぜ!

ミュージカルなのに歌が下手だったり、ホラーだけど『GOLDFINGER ’99』を歌ったり、色々チグハグだったあの劇。だが、自分の持てる限りの力を尽くして走り切り、グダグダさをものともしなかったドラキュラ伯爵の人間力は今でも忘れることはできない。

肌の色もテクニックも言葉の壁も、全てを越えて伝わる熱意。黒人のドラキュラ伯爵は半端じゃなかった。

執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.