平成最後の夏、きっとこの夏を振り返ったら、「暑すぎた」という言葉が思い出されることだろう。そういえば、二十歳頃の夏も暑かったと記憶している。いやもしかしたら、アツかったのは気温のせいではなく、その頃の出来事がアツかっただけなのかもしれない。
まさか1日に2度も○○してしまうとは、当時の私は知る由もなかった。そして、何より気づかされたのは、「自分の敵は自分」であるということだ……。
・全部がイヤだった
その当時の私は、すべてがイヤになっていた。たしか当時の彼女と別れたばかりで、仕事も面白くなく、とにかく毎日がイヤだった。何に不満を持っているのかさえも分からないけど、自分の置かれた状況がイヤでイヤで仕方がなかったんだ。今振り返ると、幼い自分の単なるわがままに過ぎなかったんだけど……。
・夜のドライブ
その頃の楽しみといえば、高校の同級生たちと夜ドライブに出かけること。その日も2人の友達と夜中に出かけて、気に入った音楽を爆音でかけながら、海の方へと走って行ったっけな……。
極度に鬱憤のたまった人間は、ワケのわからない行動に出るものだ。私たち3人はどういう訳か、車内でパンツ一丁になって、気に入りの曲を3人で熱唱していた。運転している私ももちろんパンイチ。何がしたくてそうなったのか、今では全然わからない。でもとにかく、その時までは猛烈に楽しかったことだけを覚えている。そう、その時までは……。
・海沿いの道
海沿いの道を気分良く走っていた。カーオーディオからは、高校の時にコピーしていた「BON JOVI」の曲。日常のわだかまりも一気に解消できるほど、爽快感に浸っていた。もしかしたらこの時、そこそこのスピードが出ていたのかもしれない。波打つような防波堤の道を、それこそ縫うように走っていると、次の曲がり角で突然目の前に壁が見えた!
ドン!
──と鈍い音がしたと思ったら、車体右前方を激しく壁にぶつけてしまったらしい。緩やかに失速して車は静かに止まった。幸い、車内の誰もケガすることはなかった。ただ、何が起きたのかを理解できず、そこまでハイテンションだった3人は、一瞬で沈黙。それから約5分の間、誰も口を開こうとしなかった。あたりには街灯もなく、重い闇が立ち込めていた。
・先輩の一言
とりあえず近くの海水浴場まで行こうということになり、傷ついた車を走らせる。もう音楽は聞いていない。前輪からおかしな音が聞こえるけど、今は何が起きたのかを明るい場所で把握することが必要だと思った。海水浴場に着くと、前の職場で世話になった女性の先輩がいた。
「あんたたちどうしたの!」
大変驚いた様子で声をかけてくれたのだが、驚くのも無理はないだろう。なぜなら、我々は車の前にパンツ一丁で佇んでいたのだから……。
・隣街へドライブ
翌日、車を修理工場に出した。代車を借りて、この自損事故は解決の方向へと向かうことになった。
ただでさえ日常に嫌気がさしていて、気晴らしのドライブでも事故をする始末。「俺ってどうしようもねえな」と、ますます鬱憤が貯まる。少しでも憂鬱な気持ちを和らげようと、昨日の仲間と隣街までドライブすることにした。
・良いことないって
今でも思い出すことだが、その当時の口癖が「あ~、なんか良いことねえかな~」。そんなことを言ってる他力本願な人間に、何もいいことなんか起こりっこない。前方を走る車がトロトロしているのにイラ立って、ムリに車線変更をしたところ……!
ドン!
一瞬にして血の気が引いた。隣の車線を走る車に接触してしまったのだ。すぐに警察を呼ぶ事態となった。幸い、両方の車両に乗車している人間にケガはなく、車の傷も大きなものではなかったため、すべて保険で片が付くとのことだった。
まさか代車で事故をするとは。情けなくて涙も出ねえや……。身体全体がやたらとベタついて、妙な吐き気に見舞われたけど、何も吐くことができず悶えた。
・一番の底
理由もなく、イヤだイヤだってわめいてばかりいたら、イヤなことばっかりに遭遇する自分になっちまってたよ。誰が悪いんでもない。そうやって、イヤなことを引き寄せてしまう自分が悪いんだ。その時に得た教訓は、まるで不運を引き寄せるようにしてた自分が自分の敵だって気づいたよ。
24時間で2度も事故に起こすなんて、マジで救いようがねえヤツだ。って自分のことを心底嫌いになり、メンタル的に一番どん底にたどり着いてしまったらしい。そこからまだしばらくは、ウジウジした人間性を引きずってたけど、あれ以上、自分を嫌いになる日は今のところ訪れていないと思う。
平成最後の夏に、アノ夏のあつさを思い出す。胸の奥が焼けつくような痛い思い出は、30年の歴史の狭間に置いて行こう。自分の敵は自分、たしかにそうだけど、自分の味方もまた自分だと、あの頃の私に伝えたい。
執筆:佐藤英典
Photo・イラスト:Rocketnews24