ロケットニュース24

【実録】私が迷惑メールの記事を書けなくなった理由

2018年4月9日

世界唯一の「迷惑メール評論家」を名乗っている私だが、最近めっきり迷惑メール系のネタを書いていない。人からもよく「羽鳥さん、もう戦っていないんですか?」と聞かれるが、実は水面下で戦っている。人知れず、地味〜に戦っている。

だが、どうにもこうにも戦いが「スイング」しないのだ。だから書いていない。人様にお見せできるエンターテイメントになっていないのだ。

スイングしない原因は、もちろん私にもあるかもしれないが、まちがいなく相手(迷惑メール業者)にもある。たとえば1年以上も前に泥仕合を繰り広げた「ミエコ」もそう。簡潔に説明したい。

ミエコと名乗る女性は、まずFacebookのメッセンジャーで連絡をとってきた。その後、「Facebookを退会するので、続きはLINEで……」という定番の流れに。ちなみにミエコは「小児科で看護師をしている29歳」で、都内在住、趣味は料理だった。

ちなみに、ミエコのアイコンにモザイクをかけているのには理由がある。実はミエコ、とあるフリーのモデルさん(もちろん女性)の写真を勝手に使っていたのである。そのモデルさんに迷惑がかからないよう記事ではモザイクを入れておくが……

実はミエコとのチャット開始から5分以内に、ミエコのプロフ画像のパクリ元と、モデルさんの名前まで特定完了していた。よって、ミエコが送ってくる「こんなブログ(という名の有料ポイントサイト)をやってるんで見てね的な画像」の元ネタも把握済みだった。

つまるところ、ミエコなんて、この世にはいない。ミエコが言っていることも全てウソ。そんなことは承知のうえで、のらりくらりと会話して、怪しいサイトへの誘導もヒラリと交わし、どんどん情報(相手の良いところ)を引き出そうとしていったのだが……どうにもこうにも盛り上がらない。試合がスイングしないのだ。

たしかにこの日は、私も調子が悪かった。リングにあがるコンディションは最悪だったといって過言ではない。そのため、少しばかり焦ってしまった。反撃に転じるタイミングを見誤った。かなり早めの段階で、怒涛の攻撃を仕掛けてしまったのである。

詳しくは割愛するが、「あなたは本当にミエコさんなんですか?」から始まって、ミエコが送ってきた数々の写真と全く同じ写真、すなわち本物の写真(モデルさんのインスタ投稿のキャプ)をバシバシと送りつけて反応を伺った。しかしミエコは、しらばっくれた。

さらに、しらばっくれるだけではなく、敗北を悟ったのか、「やっぱり冷やかしなんだね」などと言い始め、「楽しかったです。ありがとうございました。」と、勝手にチャットという名のリングから降りようとしたのである。ダメダメ、それは、ダメ。

なぜなら、このリングに誘ってきたのはミエコ本人。ぜんぜん試合も盛り上がっていないし、こんなんじゃお客さんも納得しない。なんとかオチをつけなければ成立しないのだ。よって私は、正体を明かし、ミエコにインタビューを申し出た。

ミエコがウソをついた証拠として、ミエコが誘導しようとしたブログの全てを保存したことや、ミエコが使っているデバイスやキャリアなどについても調べ終えている旨を伝えたうえで、あらためて「この仕事、儲かりますか?」と聞いてみたのだ。

しかし……!

そんな私のインタビューに対するミエコの返事こそが、私が迷惑メールの記事を書かなくなった理由のひとつになってしまった。たった6文字。私の戦意ならびに迷惑メールバトルへの情熱は、その6文字だけで一気に崩壊したのだ。続きは次のページへ。

Report:迷惑メール評論家・GO羽鳥
Photo:RocketNews24.

死ねゴミクズ。2017年1月16日22時35分、ミエコが放った事実上のフィニッシュブローは「死ねゴミクズ」の6文字だった。この文言が送られてきた瞬間、私は大きなショックを受けた。とても大きなショックだった。具体的には、2つのショックだ。

まず一つ目は、文字通り、言葉の汚さ。いくら迷惑メール業者とはいえ、そして私が迷惑メール業者の敵であるとはいえ、たとえ顔すら見えない匿名のネット上であろうとも、人様に対して言って良いことと悪いことがある。よくもまあ人に対して「死ねゴミクズ」だなんて汚い言葉が吐けるものだと。

もうひとつのショックは、いとも簡単にミエコは「ミエコ」という役を放棄したということ。あえてプロレスに例えるならば、ちびっこたちのヒーロー的存在のマスクマンが窮地におちった……と思ったら突然マスクを脱ぎ捨て、懐からナイフを取り出しリング上で相手を刺したようなものである。まったくもって芸がない。会場、シーン……だ。

似顔絵の愛子だって、LINE乗っ取りのニセホリだって、AKBのニセこじはるだって、そして電話ではあるが架空請求のオリンチンさんだって、最後まで自分の役をまっとうしていた。騙す側ではあるが、それが「プロフェッショナル」というものだ。

いずれにせよ、その「死ねゴミクズ」だけで、私の戦意と情熱は一気に萎えた。それと同時に、動揺した。もしも将棋に例えるならば、私が「光速の寄せ」で勝利目前という時に、突然ミエコが将棋盤の上で脱糞したかのような動揺だ。その証拠に……

なんと返事したら良いのか一瞬では判断できず、(笑)としか返せなかったのである。私もプロフェッショナル失格なのかもしれないが、とっさに放てたカウンターは、情けなくも(笑)だけだった。しかし、口の悪いミエコはその直後にも……

──と畳み掛けてきたのである。ある意味ではミエコこそが「光速の寄せ」をしていたのかもしれないが、とにかくこれは、私の求める「明るく楽しい知的な戦いのエンターテイメント」ではない。私は真剣勝負のプロレスをしたいんだ。殺し合いをしてるんじゃないんだ。

その後、またも動揺して「(笑)(笑)」としか返せなかった私だったが、すぐに冷静さを取り戻し、あらためてインタビューを申し込むも、メッセージは未読のまま。残ったのは、疲れと、哀しみと、そして虚しさ。プロフェッショナルとは何かを考えさせられる一戦だった。

ちょうど、この「ミエコとの泥仕合」をした頃から、他の迷惑メール業者との戦いもスイングしなくなっていった。ミエコのような、プロ意識に欠けた詐欺師が多くなってきたからである。残念でならない。

しかし、それでも私は、地味〜に地味に、いまだ迷惑メールとのバトルは続けている。いつかまた、スイングできる勝負ができると信じて。「名勝負数え歌」ができるプロい相手が、まだリングにいることを信じて。

ちなみに余談だが、つい1カ月ほど前、ミエコのLINE IDが約1年ぶりに、私にメッセージを送ってきた。内容は「1万円を今すぐ受け取って下さい。」だった。過去のメッセージも上にあるので、間違いなくミエコのIDなのだが、ミエコの名前は……

『オフィシャルプロジェクトサービス』になっていた。ミエコは、新しくIDを取得することもなく、「屋号」だけを変え、新たな獲物を狙っている真っ最中のようだ。「ミエコさん、おぼえていますか?」と問うてみたが、未だ返事は、ない。

Report:迷惑メール評論家・GO羽鳥
Photo:RocketNews24.
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