昔から都市伝説の1つとして噂されている高額バイト『治験』。求人情報誌には掲載されていないので「裏バイト」とも言われ、その内容は「自分の体を薬の実験台にする代わりに高額報酬をゲットする」というもの……。危険な香りはハンパじゃないが、その実態は一体どうなっているのだろうか。

今回は、勇敢な筆者が治験の被験者となって、実際に入院生活を送ってきたので報告したい。事前に健康診断を受けて「健康体」と評価されたら、晴れて人間モルモットの仲間入りだ。厳しい審査をクリアした健康戦士たちは約30名……男たちの壮絶な物語は幕を開けたのである。

・入院2回で12万円

今回の治験は2泊3日の入院が2回、その協力費として約12万円をゲットできるというもので、応募条件は20歳から35歳の男性。ただし、先述した通り、治験に参加できるのは事前の健康診断で選抜された「エリート健康戦士」のみである。

・熱すぎる健康診断

詳しく説明すると、自称「健康」である全員の健康状態を「数値化」して比較するために、血液検査や尿検査、既往歴や肥満度をチェックする必要があるのだ。病院内では、ここで落選するわけにはいかない参加希望者と看護師による「熱血ドラマ」が繰り広げられていた。

体育会系の看護師が、体重が少し足りない参加希望者に対して「すぐにコップ2杯の水を飲んでこい!」と助言し、顔色が悪い参加者に対しては「きっと大丈夫だ。入院するつもりで頑張れ!」と謎の励ましを与えている……。「絶対全員で入院しようぜ」という空気に笑いそうになってしまう。

約2時間の健診を終えた後に、治験の内容について説明を受けて帰宅。1週間後に合格の通知を受けて、筆者も めでたく新薬の実験台デビューが決定した。

治験終了までは、禁酒や禁煙などの注意事項があり、各自が完全な健康体を仕上げてから入院に臨むことになる。

・多分 死なない

入院前に改めて調べてみると、治験とは「新しい薬の安全性や有効性を研究するために行われる試験」のことで、その中でも最強レベルなのが「人類で最初に使用する薬(多分 死なない)」らしい……。

また、「すでに外国で使われている薬」や、「日本のA社で販売している薬を、B社でも販売するため(今回はこのパターン)」という治験もあるようだ。

・採血のラッシュ

それでは、スケジュールを紹介しよう。初日は注意事項などを伝えるオリエンテーションと健康状態を最終チェックする検尿、採血が行われる。

2日目は水を飲んだ状態、3日目は薬(1週目A社、2週目B社)を飲んだ状態で、それぞれ午前中に9回の採血ラッシュがあり、初日の検査も含めると、2回の入院で計38回の採血祭りが開催されるのだ……。健康戦士たちの表情も鬼のようなスピードで曇っていく。

また、採血の度に「15秒前!」「10秒前!」「5秒前!」という、激ヤバカウントダウンがあり、「お願いしまぁぁぁすッ!!」の合図で血を抜かれるのだ……そのテンションは完全にミサイルの発射。とても冷静ではいられないが、我々モルモットは黙って腕を差し出すしかない。

・ギブアップ寸前の戦士もいる

繰り返される採血に気分を害した被験者もいて、彼らはベッドで横になり医師の診察を受けていた。リタイアはいつでも可能なので無理をする必要はない。ちなみに、万が一、副作用が出た場合は製薬会社から補償を受けることもできるようだ。

・午後は自由時間

そんなこんなで、一通りの採血と診察は午前中には終わる。昼食後は自由時間となり、ベッドでゴロゴロ漫画を読んだり、携帯やパソコン(持ち込みOK)をつついたりして暇をつぶすのだ。8人部屋だったが、誰かと会話をすることは一度もなく、午後は静かに過ぎていく。

筆者も暇だったので、本棚で見つけた漫画『暴力団』を読み始めたのだが……入院中という要素も重なり、内容の5倍増しで暗い気持ちになる。横に並んでいた『ダイの大冒険』を選んでおけば、こんなに暗い午後を過ごすことはなかっただろう。

・消灯時間は23時

午前中の採血祭り、そして午後の暗すぎる読書タイムも終わった。19時の夕飯は、条件を揃えるために2日連続で同じメニューを食べることになる。23時が消灯時間で、消灯前には携帯電話が没収されてしまう……もう寝るしかないのだ。

とはいっても、昼寝もしてしまった筆者はなかなか寝つくことができず、「採血ラッシュ」や「昼間の漫画」を意味もなく思い出しながら、浅い眠りを繰り返していた。

・退院(それぞれの旅立ち)

こうして2度に渡る入院を終え、最終日。被験者は、最後の採血と尿検査を行い退院となる。名前もわからない健康戦士たちの長い戦(いくさ)は終わったのだ。なお、この日から3カ月は休薬期間となり、新たな治験に参加することはできなくなる。

いかがだっただろうか。協力費の12万円を高いとみるか安いとみるかはそれぞれだろう。ただ、日常生活で頻繁に使用されている全ての薬は、このような最終審査を通過しているのである

薬を開発している人も実験台となる人も、勇敢なチャレンジャーであることには違いないだろう。

Report:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.

▼暇である

▼暇すぎて死にそうになり、この漫画を読むことにした。漫画のチョイスには気をつけよう……