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2015年8月29日、ひとりの偉大な柔道家が全日本実業個人選手権を最後に畳を降りる。野村忠宏・40歳。言わずと知れた五輪の金メダリスト。しかも、アトランタ、シドニー、アテネと三連覇し、前人未到の快挙を達成した大選手だ。

ついにその時がやってくるが、現在ネット上で「国民栄誉賞」が話題になっている。事の発端は、プライベートで交流のあるレッドソックスの上原浩治投手が、自身のブログで野村選手の引退を惜しみつつ、こう訴えたことからである。

上原選手のコメントと野村選手の実績

「なぜ国民栄誉賞が野村さんに渡らないんだろう?いまでも思ってます」(『上原浩治オフィシャルブログ』より引用)

考えてみると、確かにそうだ。野村選手には「国民栄誉賞」が渡っていない。五輪三連覇という実績を考えてもおかしな話である。これまでに国民栄誉賞を受賞したのは、全部で22個人1団体。記憶に新しいところでいえば、サッカー女子日本代表のなでしこジャパン、長嶋茂雄氏と松井秀喜氏のダブル受賞が思い出される。

国民栄誉賞の受賞規定は「広く国民に敬愛され、社会に希望を与えることに顕著な業績があった者について、その栄誉をたたえること」。野村選手が受賞に値するのは、誰が考えても当然だろう。

・受賞していない理由の推測

感動を覚え、勇気をもらった人はもちろん、彼の柔道に夢を抱いた子供は数知れず。ではなぜ受賞していないのか。まず考えられるのは、五輪三連覇の時は現役だったということだ。

以前、イチロー選手が受賞を「まだ現役なので、もしいただけるなら引退した時に」と、固辞したこともあり、スポーツ選手が受賞するなら現役を退く時という考えがあったのかもしれない。常に高みを目指すアスリートのことを思えば、それも納得がいく。

・受賞するタイミングは今

しかし、今は現役を退こうとしている時。本来であれば、上原投手が発言する前にでも、話題になっていてもおかしくない。受賞基準が曖昧な国民栄誉賞といえども、野村選手は文句なしだろう。

4年に一度の開催である上、出場するだけでも困難なオリンピックに三度出場。さらにはすべて金メダルを獲得した実績は、異論のある人を探しても見つからない。満身創痍の野村選手が自分の想いを貫いた競技人生を終えようとしている今、その花道が用意されるべきではないだろうか。

参考リンク:上原浩治オフィシャルブログ
執筆:原田たかし
イラスト:稲葉翔子