平穏な人生を生きてきた真面目な高校教師ウォルター・ホワイトが、余命宣告されたことを機に、麻薬 “ブルーメス” の精製に手を染めたことで人生が一転。しがない中年男が、一世一代の危険な賭けに出る海外ドラマ『ブレイキング・バッド』では、暴力と死が隣合わせの世界が描かれる。
それだけに、全シリーズを通して殺される登場人物の人数は270人にも上るが、なんと女性によって殺されたのはたった一人である。そこで今回は、本作で唯一殺人を犯した女性の登場人物、ジャンキーのスプージの妻を演じたデイル・ディッキーの素顔に迫ってみたいと思う。
・本作で唯一殺人を犯した女性の登場人物
『ブレイキング・バッド』きっての悪女といえば、マフィアにブルーメスの原料となるメチルアミンを横流しして、金儲けしていた美女リディアだろう。実際に手を下さなかったとはいえ、彼女の指示で殺された男は23人にもなり、まさに計画的な知能犯と言える。
いっぽうで、メスでハイになって理性もへったくれもなくなったスプージの妻は、暴言を吐く夫にカッとなり、夫が盗んできたATMマシーンを倒して夫の頭をペチャンコに!! リディアと対象的な感情型殺人を犯した彼女は、本シリーズでオンリーワンの女性殺人犯という名誉(?)あるタイトルに輝くこととなった。
・夫と一緒にATMのシーンを見ている時に同じ状況に!!
しかもATMマシーンで頭を潰すという、ドラマ史上稀に見るオリジナルな方法で夫の息の根を止めてしまったスプージの妻。そして、デイルがATMマシーンのエピソードを夫と見ていた時、自宅の冷蔵庫が壊れてしまい、オモシロいことが起こったというのだ。
ネタばれしたくないのでATMについて何も話していなかった彼女に、夫が「冷蔵庫の底をチェックするから、押さえておいてくれ」と頼んだのだとか!
“そんなのムリ!” と拒む彼女に、夫は「どうしたんだ? ただ冷蔵庫を押さえておくだけだぞ」と解せない様子だったそうだ。あまりにもATMマシーンの場面と状況がかぶりすぎて、心的外傷後ストレス障害に似た症状が出てしまったようである。
・女優のキャリアはニューヨークでスタート
そんなデイルが、女優としてのキャリアをスタートさせたのはニューヨークだった。テネシー州ノックスビル出身の彼女はニューヨークに移住後、3人のルームメイトと一緒にワン・ベッドルームのアパートをシェアする生活を開始。
初めての女優の仕事は、映画『レインマン』などで知られる名優ダスティン・ホフマンが主演したブロードウェイの舞台『ヴェニスの商人』の代役だった。その後ロサンゼルスへ引っ越した彼女は、数々の映画やドラマに出演を続けている。
・美人女優には無理な役を演じることを楽しんでいる!
ひと昔前とは状況が変わり、オタクブームをきっかけに、ハリウッドでも美男美女でなくとも主役をはれるケースが増えてきている。だが、男優に比べて女優は容姿の良し悪しによって役が限定されることが多く、美人とは言い難いデイルには、いつも “それほど美人ではない” 役や “ブサイクな” 役ばかりが回って来たそう。
自虐する前に、人から卑下されるような状態を受け入れるのに長い期間を要したという彼女は、「今では、美人女優にはできない役を演じることを楽しんでいる」と語っている。
とにかく人は、自分にない物を欲しがる傾向にある。例えば、容姿がもてはやされるだけの美人女優は、演技力を認めてほしくて、故意にスッピンで汚れ役を演じたがったりするものだ。
どう転がっても、自分とは一生付き合っていかなかればならないわけで、デイルのように “自分を受け入れること” は、生きていくうえで欠かせない要素だと思う。競争が激しいハリウッドで、決して若くも美人でもない彼女が、仕事のオファーが途切れることなく女優として活躍している理由は、そこにあるのではないだろうか。
参照元:Breaking Bad Wiki、AMC、TORCHBEARER(英語)
執筆:Nekolas
イラスト:マミヤ狂四郎