今まで、人の道から外れることなく生きてきた真面目な化学教師ウォルター・ホワイト。末期癌(がん)を宣告された彼が愛する家族に財産を残すため、一念発起して高純度ドラッグの密造に乗り出し裏世界で伸し上がる本作は、男のプライドを賭けた物語とも言える。
大学卒業後、親友エリオットと「グレイマター社」を設立するものの、個人的な理由で5000ドル(約60万円)のために会社の権利を売ったウォルター。その後、ウォルターの研究成果を基に急成長を遂げた会社は莫大な利益を生み出し、エリオットはノーベル化学賞を受賞。さらにウォルターの元恋人グレッチェンと結婚したエリオットに対して、彼は劣等感を拭い切れないでいた。
そこで今回は、ウォルターの男のプライドを揺さぶり続けた元親友エリオット・シュワルツを演じたアダム・ゴドリーの素顔に迫ってみることにした。
・アメリカの医療費の高さはハンパない!!
いきなりアメリカ文化の豆知識になるが、日本のように国民健康保険が存在しないアメリカでは、個人で保険に入っていても治療代や薬代がカバーされないこともしばしば。しかも医療費が莫大なため、大病や大怪我をしたら治療費が払えずに、借金まみれになったり自己破産する人が後を経たないという現実がある。
ウォルターの治療費は約17万ドル(約2000万円)と膨大な額だったが、米医療制度のしくみが、本作の破天荒なストーリーを生み出したと言えなくもない。
・男のプライドを木っ端微塵に打ち砕いた元親友
末期癌を宣告され余命いくばもないと分かったウォルターだが、高校教師の給料ではとても高額の治療費を払え切れない。そこで、麻薬精製に手を染めて一攫千金を狙うことになるわけだが、家族に金の出所は言えないため、「エリオットに治療費を出してもらう」と妻スカイラーに伝えるウォルター。
自分が命を危険にさらしてまで手にした金を、会社と元恋人を取られた男の手柄にされるとは、男のプライドは木っ端微塵のズダボロ状態だった違いない。ウォルターのエリオットに対する劣等感と確執、男のプライドは、全編を通して根底に流れる大きな要素となっていた。
それだけにエリオットやグレイマター社が会話に上ることが多く、登場回数が多そうに思えるエリオットだが、実際の出演回数はたった3話と意外に少ない。
・グレイマター社はエリオットとウォルターの名前に由来
以前、ウォルターの相棒ジェシーの恋人でゲロ死したジェーンについて取り上げた際、本作では “色” が登場人物の名前に使われていることを指摘した。
ウォルターの名字はホワイトでジェシーはピンクマン、そしてスカイラーは青、そしてエリオットの名字 “シュワルツ” はドイツ語で黒を意味する。ということは、二人が設立した会社「グレイマター」は、ウォルターのホワイトとエリオットの黒を混ぜ合わせた名前ということになる。色を使った絶妙な小技の効かせ方が、なんとも秀逸である。
・元々は演劇畑出身の実力派!
一見したところ真面目で人当たりが良さそうだが、親友の画期的な研究を基に成功し恋人まで奪ってしまったエリオットは、いわゆる “紳士的な偽善者”。この手のタイプを嫌味気なしに、かつ “コイツなんだか気に食わない!” と思わせるエリオット像を巧妙に作り出したアダムは、演劇畑の出身だ。
今までに数多くの演劇賞にノミネートされ受賞歴も多い彼は、生の舞台で演技力を培ってきた本格派の実力派俳優である。悪女なキャリアウーマン、リディア役を演じたローラ・フレイザーと同じくイギリス人の彼は、本作で完璧なアメリカ訛りの英語を披露している。
・最後の撮影ロケはエリオットとグレッチェンのシーン
シリーズ最後の撮影ロケとなったのは、シーズン5の第15話でノーベル賞を受賞したエリオットとグレッチェンが、ニュース番組のインタビューに登場するシーン。ちなみに、ドラマの冒頭で使用されている『ブレイキング・バッド』のテーマソングが、最初の最後まで流れたのはこのエピソードだけである。
そして、皮肉にもウォルターは、最後の頼みをエリオットに託すこととなる。犯罪に手を染め、父親のせいで叔父ハンクが死んだことを知った息子ジュニアから絶縁されてしまったウォルターに、残された手段はただひとつ。息子が18歳になったら信託金として、ウォルターの10億円近くに上るドラッグマネーをエリオットからジュニアに渡すよう頼むしかなかったのだ。
男のプライドよりも家族への愛を貫いたウォルターの行動は、常に善と悪の “グレイ” な領域をさまよっていた。そんな彼の壮絶な生き方が、「グレイマター」という会社名に象徴されているような気がする。
参照元:IMDb、Breaking Bad Wiki(英語)
執筆:Nekolas
イラスト: マミヤ狂四郎