どう人間があがいても、自分の目からダイレクトに「鼻毛」は見えない。奴らときたら、ご主人様から見えないことをいいことに、やりたい放題の大盤振る舞い。抜いても切っても整えても、「ここぞ!」という場面でピロリンチョと出ているのだ。
かなり神経質に鼻毛カッターなどを用いて処理をしても、なんのつもりだか1本だけ「ど〜も〜」と勝手に挨拶している始末である。まさに「ここ一番の大勝負」の時に限って、いくら注意してもグイグイと出しゃばってくるのだ。あれは一体なんなのか。
・鼻毛のせいで失恋したことがある
普段から鼻毛に対する教育方針を「自由奔放に伸ばしたい」と定めている鼻毛ボーボーなボヘミアンならば問題ないが、私(筆者)は1本の主張さえも許さないスパルタンだ。よって、特にカッコつけたい勝負の時は、ブチブチと容赦なく鼻毛をむしっている。
そんな私がハタチくらいの頃……まだ漫画家マミヤ狂四郎として駆け出しだった頃、鼻毛のせいで失恋したことがある。
・とにかくカッコつけていた
当時、私は秋葉原にある某ゲームショップの女性店員にピュアな恋をしており、週に一度くらいは用もないのに顔を出し、カッコつけて『バックアップ活用テクニック(三才ブックス)』のバックナンバーなどを買いあさっていた。
アキバまでの道のりはバリバリに改造したスーパーカブで。世田谷区から約1時間、極寒の冬であろうとも、柄シャツ1枚で運転していた。運転中の姿なんて誰も見ちゃいないのに、柄シャツ1枚でバイクに乗るという姿がカッコイイと思っていたのだ。
・ファッションにも気を使いまくり
どんなに寒くても防寒用のカッパなんて使わない。あえて “穴あきのジーンズ” で攻めていた。膝から入る冷たい風が私の股間エンジンを空冷しまくりで、シリンダーピストンが「キュッ」と梅干しのように縮こまっていたが、カッコのためなら我慢できた。
顔には白粉代わりの「ニキビ防止用のパウダー」を塗りまくり、京本政樹ばりの “美白男子” を密かに演出。たまにパウダーを塗りすぎて顔全体が “蛾(が)” のようになっていたが、とにかく少しでも……その女性店員さんにカッコ良く見られたかった。
今にして思うと上記のカッコツケが全てにおいて絶望的にカッコワルイのであるが、当時の私は必死だった。全力フルパワーでカッコつけていた。完全にオタクだった当時の私は、一言二言、その女性店員と会話できるだけで幸せだったのだ。
・ここまでカッコつけていたのに奴は出ていた
──だがしかし。ここから先の話は、このピュアなラブストーリーから10年ほど経ってから、そのゲームショップの店員さんたちに聞いた衝撃的な裏話なのであるが、店に現れる私の鼻の穴からは、百発百中の確率でビロンと鼻毛が出ていたらしい。
「たまに出ている」なんてレベルではなく、120%の確率で1本ピローンと出ていたとの証言である。しかも悲しいことに、私が好きだった女性店員からも、この恋の話の約10年後に「はい、バリバリ出てましたよ!」と衝撃告白される始末である。
そんな鼻毛野郎の私に対し、店のスタッフさんたちは「毎回欠かさず鼻毛を仕込んでくるなんて、なんてマミヤさんのギャグレベルは高いのだろうか。さすが漫画家や……」と感心していたとのこと。つまり “わざと鼻毛を出している” と思われていたのだ。
しかもである。あまりにも確実に鼻毛が出ている私を題材にして、「今日のマミヤは右? 左?」的な、“私の鼻毛の左右当てゲーム” も密かに開催され、地味に盛り上がっていたらしい。なんとも楽しそうな職場である。
ところがある日……。すべての運命は私の鼻毛が左右する同ゲームにおいて、衝撃の結末を迎えた一幕があったそうな。
いつものように私は「今晩●時ごろに行きまーす!」とメールで訪問予告。それと同時にスタッフ連中も「今日の鼻毛は右? 左?」と予想開始で、意見は右派・左派まっぷたつ。そして私がやってきた。緊張の一瞬。今日のマミヤは右? 左? ……しかし!!
なんと、その日の私は左右両方から鼻毛が出ていたらしい。
それを見たスタッフ連中は、予想外の結果に思わずひっくり返ったという。私の好きだった女性店員も、“まさかのダブル” に のけぞったらしい。寒い寒い冬の時だった。私の恋は鼻毛に始まり鼻毛に終わった。いいや、そもそも始まってもいなかったのだ。
執筆:GO羽鳥
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