日本の内外を問わず、最近は多くのアーティストが動画共有サービス「YouTube」を使ったプロモーションを積極的に行っている。再生回数は、アーティスト・楽曲に対する評価と見ていいだろう。
・閲覧規制のかかったPV
そんななか、とある女性アーティストのPVが「未成年閲覧禁止映像」の認定を受けていたことをご存じだろうか? 日本ではかなり珍しいケースなのだが、彼女の人となりを見ればそれも頷ける。キムビアンカは、過激かつ大胆なアプローチで自らを表現するアーティストだからだ。
・「性のアイコン」、新宿2丁目が育てた女性アーティスト
キムビアンカは東京・新宿2丁目を拠点に活動している。新宿2丁目といえば、同性愛者向けのバーやクラブが多数軒を連ねている。彼女自身、バイセクシュアルであることをカミングアウトしており、この街を代表する「女性アイコン」として活躍している。また「性」をダイレクトに歌う「性のアイコン」的存在でもある。「和製マドンナ」とまで言われ、大胆に活動する彼女なのだが、その表現の起源はどこから来ているのだろうか?
・ドラァグクイーンに影響を受ける
「割とませてて、10歳くらいのときから音楽番組『ビルボードトップ40』を見てたんですよ」と語る彼女は、この番組に出演していたアーティストに強烈なインスパイアを受けることになる。それがルポール(RuPaul)だった。ルポールはドラァグクイーン(女装してパフォーマンスを行う男性)の走りであり、アーティスト・モデル・俳優・作家など多方面で活躍していた。「なんじゃこの人! と思ったのが正直な感想(笑)。男性とか女性とかを超えて、放つ「美貌」が素晴らしかった」と振り返る。
・「性」への違和感
10歳当時のキムビアンカは、自らの「性」に違和感を覚えていた。後にバイセクシュアルと自認するに至るが、幼心に性別に対する不思議な居心地の悪さがあったそうだ。「なんかモヤモヤしたものに対する答えが、ルポールだったのかもしれないです。当時は幼かったから、何がどうと説明のつく気持ちではなかったと思うけど、単純に憧れました。ルポールになりたいって思ったんです。やっぱりませてたんでしょうね。小学生でドラァグクイーンに憧れるって普通じゃない(笑)」。
・今が一番
その憧れに近づく活動が始まるのは、それから随分経ってからのこと。大学在学中からダンサーを始め、卒業後は東京・大阪で振付師として活動。2003~2005年までジャズバンドのボーカルを務めた。2008年になってようやくソロ活動を開始し、「今が一番ルポール的なことをやっていると思いますよ」と語っている。意図して時間をかけた訳ではなく、彼女の表現したかったことと、タイミングが重なり合った結果だ。
・2丁目に対する感謝と尊敬
そして2013年4月にメジャーデビューを果たす。デビュー曲『ArcH QUEEN(アーチクイーン)』は新宿2丁目をテーマにしており、尊敬するドラァグクイーンの名前が織り込まれている。この曲は彼女が育った新宿2丁目に対する、感謝と尊敬の念が込められているようだ。
・女性から高い支持
「私に対する評価は、「好き」と「嫌い」がはっきりと二分しますね。でも、それでいいと思います。そうであって欲しい。そうじゃなければ、自分を表現できていないと考えてるから」。では、彼女を「好き」という支持層は、一体どんな人たちなのだろうか。「まずゲイ・レズビアンの方が本当に支えてくれている。そしてノンケ(異性愛者)の女性が最近多いかな。男性よりも前のめりになって応援してくださる女性が多い」とのこと。そんな支持層の女性たちは彼女に何を見ているのだろう。
・「性の表現」ができるアーティストが必要
「私は、多くの人が「性」そのものを謳歌していると思っています。きっと楽しんでるはず。でも、「性の表現」に対しては抵抗があるでしょ、たとえば素直に言葉に出してみたり、ファッションとして表現したり。特に日本人は抵抗があるはず。そういう人たちの考えや気持ちを、いろいろな形で表現するアーティストが必要だと思ってる。それを担うのが私の役目だと思ってます。その期待も含めて、自分の表現をして行きたい」。なるほど彼女のファンは、彼女を通して自分が言葉や行動で示せない「性の表現」を見ているのかもしれない。これこそがキムビアンカが、「性のアイコン」と言われる理由なのではないだろうか。
・フルアルバムを作りたい
ちなみに彼女はこれからの展望について、「フルアルバムを作りたい」と話している。これまでダンサー、イベント主催者としてのキャリアは積んできたが、アーティストとしてはメジャーデビューしたばかり。これまで培ってきた経験を生かして、さらに過激にさらに大胆に、表現してくれることを願う。人々が言葉にできない言葉を紡いで。
執筆:ほぼ津田さん(佐藤)
▼キムビアンカ「ArcH QUEEN」のミュージックビデオ(YouTube)
http://youtu.be/fhAYLUQi2r0