ヒンズー教や仏教、ユダヤ教などには断食の教えは存在するものの、宗教により断食の期間も条件もさまざまだ。例えばイスラム教の断食「ラマダーン」期間中の約1カ月間は、日中の飲食は許されない(ただし、小さな子どもや生理中の女性、妊婦、病人など一部の人々に対しては例外が認められている)。我々からすれば過酷に思えるが、イスラム教徒の友人はみな口を揃えて「慣れてしまえばたいしたことはない」と言う。本当にそうかぁ……? イスラム教国マレーシアで断食を体験してみることにした。

さて、ラマダーン期間中はイスラム教徒にとって、大きな楽しみがある。それは日没後の華やかな食事である。断食期間中は、ホテルやレストランなどで「ラマダーンプロモーション」として食べ放題を打ち出すところが多い。また、各屋台がさまざまな料理を販売する「バザー」が各地で開かれている。

それぞれの屋台には、マレーの焼き鳥「サテー」、ご飯の上にチキンを乗せた「チキンライス」、サンドイッチとピザが合体した「ロッティ・ジョン」、マレーの惣菜、さとうきびやココナッツのジュース、「クエ」と呼ばれる色鮮やかな菓子などさまざまなものが並び、目移りしてしまう。バザーやビュッフェの影響もあり、断食期間中には太ってしまうイスラム教徒も少なくないのだとか。ニュースをわかりやすく解説する番組でお馴染みの池上彰さんは、著書『高校生からわかるイスラム世界』のなかで「断食月の1カ月に消費される食料は、ふだんの月よりも多くなる」と説明している。記者のマレー人の友人も池上さんと同じことを言っていた。

イスラム教徒の食事は、日没後のブカ・プアサと呼ばれる断食解除の合図(公共の場に設置されたスピーカーから流れるほか、ラジオでも放送される)と共に始まる。日中は食事ができないため、明け方にも食事をする人が多い。この食事はサホールと呼ばれ、朝5時頃にかなりしっかりした料理が食卓に並ぶ。現代のイスラム教徒の中にはこの食事をしない人もいるが、イスラム教ではサホールを行うことを奨励しているそうだ。

日本には断食の習慣がないので、「なぜ断食をするの?」と思う人も多いと思う。その理由はいくつかあるが、主な理由は「断食を通して飢えの辛さを味わえば、当たり前のように過ごしている日々の生活のありがたみを再認識できる」からである。ちなみに断食期間中は、通常よりもイスラム教と熱心に向き合うことができるのだそうだ。食欲や性欲までも抑えるため、宗教に励むのは当然といえば当然かもしれない。記者もイスラム教の友人に習い、2日間だけ断食を体験してみた。飲まず食わずの状況はなんとか大丈夫だったが、その後の体力の消耗がかなり激しかった。

イスラム教の今年の断食月は8月1日~30日まで(国によって1日程度前後する)。断食期間中のバザーはかなり楽しいので、イスラム教徒でなくてもマレーシアへ足を運んでみることをおすすめしたい。マレーシアのイスラム文化を体験できる素晴らしいチャンスだ。

(執筆・写真/sweetsholic) 

参照元:『高校生からわかるイスラム世界』池上彰

▼マレーの惣菜。どれも結構辛い

▼「今日のブカ・プアサの食事は何にしようかしら~?」屋台をはしごするマレーのおばちゃん

▼揚げたチキンをご飯に上に乗せたマレー風チキンライス

▼バーベキューチキンは1本約30円

▼ピーナッツソースで食べる焼き鳥風のサテー

▼ボリュームのあるムルタバ。中東風お好み焼き

▼トマトソース、チーズ、肉を挟んだロッティ・ジョン