俗に言う「左右盲」という言葉をご存知であろうか? 正式な病名や学術用語ではなく、また病気でもないのだが、「右と左がとっさに判断できないこと(人)」のことを指す言葉である。

もちろん右と左が理解できていないわけではない。落ち着けばしっかりと右と左は判断できる。しかし、とっさに「そこ右!」などと問われたときに、瞬時に右と左が判断できない……つまり左右の判断に時間がかかってしまうのだ。

今回、長年にわたり「左右盲」に悩む、都内在住の会社員(31歳)に話を聞くことができた。果たしてどのように苦悩しているのであろうか?

「一番怖いのは車の運転です。例えば助手席から『そこ左!』と声がかかっても、左がどちらなのか理解するまでに1~2秒くらいはかかってしまいます。ということで、あまりにも突然の右左折リクエストには安全を考慮してそのまま直進するようにしています。もちろん助手席からは怒りの声が飛んできますが、中央分離帯にぶつかるよりはマシですから……」

と彼は語る。なるほど、確かに事故を起こすよりは道を間違えたほうが良いだろう。また、

「逆に助手席に座って進路をナビゲートするときも緊張します。運転時よりは落ち着いているので左右の間違いは比較的少ないのですが、左右の指示を出すときは間違いのないよう、最低でも100メートル手前くらいから考え始めるようにしています。ちなみに私は、自分の肩を逆の手でポンと叩き『よし……右!』と心のなかで確認するようにしています」

……とのこと。車にカーナビは無いらしい。さらに、

「運転以外だと、視力検査の『C』がどちらに向いているか?の答えに時間がかかります。上と下は即答できますが、左右の場合は『指で左右を指して』伝えたりもします。少し恥ずかしいのですが、うかつに間違えて視力検査が台無しになるよりはマシですから」

続けて彼はこうも述べる。

「昔から極度の方向音痴に悩んでいます。道に迷うことはしょっちゅうです。迷ったときに、『右かな?』と思って進んでも、結果は左。その逆も多いです。それを考慮して『右だと思うけど、実は左なんだろ? だから左!』と左に進むと、正解は右だったりします。つまり進む方向がすべて逆。正解率は1~2割です。なんでこうも方向音痴なのか……」

ちなみに左右盲だから方向音痴なのか?という問いに対しては

「ネットで調べてみたら、『左右盲だけど方向感覚はある』という方も多いみたいなんです。なので、『左右盲は方向音痴』というわけではないみたい。私は単に左右盲かつ方向音痴という、ダブルパンチなわけでして……」

そんな彼が手放せないのはiPhoneの地図アプリ。自分が向いている方向も示してくれるので、道に迷うことはいくぶん減ったそうな。しかし、それでも

「GPSの届かない地下などでは迷います。特に新宿駅の地下道は難関の一つです。だからあえて地上に出て歩くようにしたり……」

と、苦悩が尽きることはなさそうだ。しかし最後は、

「まあでも、道に迷ったぶん、普通の人より少なくとも2倍は歩いているわけですから。2倍の景色を見てきたわけですから。2倍の道を歩いてきたわけですから!」

と笑顔でニッコリ。ちなみに、どうして「左右盲」の症状が出るのか?ということに関しては、いまだ調査・研究がされておらず、謎のままとなっている。

(写真、文=GO