皆さんは都内を歩いていて、いきなり大きくて派手な装いのオウムが、街路樹などに群れを成している姿を見たことはないだろうか?

彼らの名前は「ワカケホンセイインコ」。体長約40cm、全身が鮮やかな緑色で覆われ、赤いくちばしに長い尾羽が特徴的で美しい鳥だ。雄の首周りには赤と黒の筋があり、その姿から「ツキノワインコ」とも呼ばれている。もちろん元々日本に棲息していた筈もなく、本来はインドやスリランカ、アフリカなどに棲息するオウム科の鳥である。【もっと画像を見る】

そんな彼らが今、私たちが見上げる空風景に随分と入り込んでくる機会が多くなってきたのだ。1960年代、ペットとして輸入されたものが脱走をはかるなどして野生化して少しずつその数を増やし、現在では実に数千羽が日本国内に棲息していると考えられている。いわゆる「篭脱けの鳥」の代表格なのだ。

記者が都心部で初めて彼らを目撃したのは、恐らく10年程昔だったろうか。新宿都庁から程近い住宅街の庭木に10数羽の群れがいたのである。その後も、大体毎年1~2度は都内様々な所で見かけるようになった。最初の頃は、およそ日本の風景にはミスマッチな感覚を覚えたものであるが、もう最近では、見かけても案外普通に「あー、また花弁とかムシャムシャ喰い散らかしておるなぁ」くらいに思う程度になってしまったものである。

まぁそれだけであればまだ良い。問題は、彼らは樹洞や人工建造物の穴などに営巣する特徴を持つことから、在来の樹洞性鳥類の生態系に今後影響を及ぼす可能性があるのである。未だその生態には未知の部分も多いが、これまでムクドリやアオゲラなどとの営巣地争いが確認されていたりもするし、今まさに在来種との競合関係が問題となりつつあるのだ。更には、そもそも原産国のスリランカ辺りでは、彼らは農作物を荒らす害鳥として嫌われているのだ。この先、日本国内でも農業被害などに繋がる可能性も否定できない。あの大きさで群れを成して来ようものなら、小さな畑などではたちまち壊滅状態に追い込まれてしまうことだってあり得るのである。

そんなことを考えていると、いつも思い出すのが、一昔前に騒がれた「ブラックバス騒動」だ。湖沼に棲息する日本在来種の小魚たちを一網打尽に喰い尽くしてしまうことから「害魚」「侵略魚」などと目の仇にされ、現在も尚、様々な場所で様々な方法を用いて駆除(殺処分)が行なわれている。

しかし、良く考えておきたい。ブラックバスもワカケホンセイインコも、自分たちの意思で侵略してきた訳ではないのだ。そもそもは人間たちが身勝手な理由で持ち込んだものなのであって、言うならば彼らの方が人間の犠牲者なのだ。確かに、彼らの存在によって仮に日本在来種の生き物が激減・絶滅することになってしまったとしたら、それは非常に哀しいことなのであるが、全ては人間が自分たちで犯した罪の仕打ちでしかない。彼らにその責任を押し付けることはできない。最も生態系に影響を及ぼしている動物は私たち人間であるということ、しかも「生きていく為に」という訳ではなく、「自己満足の為だけに」生態系を破壊し続けている人間たちが数多く存在すること、その辺りの責任というものに、そろそろしっかり向き合ってみる必要があるのではないだろうか。果たして、彼らワカケホンセイインコは、いつまで東京の空を自由に飛んでいられるのだろうか。

(文/写真)
里山散策ライター:里中遊歩

▼桜の花弁を食べるワカケホンセイインコの雄 (東京都文京区にて撮影)

▼住宅街の庭木にとまるワカケホンセイインコの雌 (東京都練馬区にて撮影)