このシリーズでは、主に東京都内やその近郊において、人間たちが創りあげた街と共生している動植物たちに焦点を当て、それぞれの暮らしぶりやその環境、また今後の展望について検証していきたいと考えている。そんな中、現代における環境問題や、他の生き物たちと人間との共存の為に自分たちに今できることは何なのか、といったことについて、読者の皆様にほんの少しでも考える時間を持ってもらえると嬉しい限りである。
まずその第一回目は「カワセミ(翡翠)」。その色彩の美しさから「渓流のエメラルド」などとも呼ばれる、全長16~18cm程度、ブッポウソウ目カワセミ科の小さな鳥である。捕食の際、空中でホバリングをするその姿や、狙いを定めると一直線に水中に飛び込んでいってその獲物を捕らえる独特の捕食方法などから、特に鳥好きではない人たちにも人気の高い小鳥だ。 「そんな鳥、都会の方ではまず見られないでしょう?」などと筆者もよく訊ねられるが、実はそんなことはない。「渓流のエメラルド」などと書くと、山の中に行かないとなかなか遭遇できないように思われるかもしれないが、平地であっても、餌となる小魚や水棲昆虫の棲息する池や川・湖沼がある場所ならば、大概は棲息することができるようである。元々、ちょっと郊外の河川・池などに行けば比較的容易に見られる鳥であるし、都内でもここ10数年の間に随分とその数を増やし、最近では都心部の河川・池などでも度々見られるようになっているのだ。新宿区内の神田川上を飛翔するカワセミを目撃したことがあると友人から聞いたことがあるし、筆者自身も港区などで見たことがある。もっともその時、私以外にカワセミの存在に気がつく人はいないようだったが・・・・・・。最初から「いない」という先入観を持っていると、実際にいるものも見えなくなってしまうものなのだ。
カワセミは1970年代頃、一度都心部から姿を消したと聞く。それが10数年前からまた見られるようになり、少しずつその数を増やしているようだ。その理由の一つとして、1997年の河川法の改正により、環境保全に重きを置いた河川管理スタンスへとシフトしたことが挙げられるであろう。その甲斐あって、都内の水辺には小魚や水棲昆虫が少しずつ戻ってくるようになり、それらを狙ってカワセミを始めとする多くの水辺の鳥たちが、また棲み始めるようになったのだと考えられる。
もちろんそれだけではなく、東京都自然保護条例などを始めとする様々な要素が連携した上での現在の姿なのであるが、そんな中で最も大切な要素とは、「そこに暮らす人々の意識」なのではないかと考えている。都心に暮らす(通勤する)人たちが、東京という街の自然を諦めることなく、「どうすればもっと上手に生き物たちと共存していけるか? そのために自分が無理のない範囲内でできることは何か?」ということをそれぞれが考えて実践し、また「意外と都心に棲息している生き物たちは沢山いる」ことに気づくことが大切だ。
「東京には自然など残っていない」という潜在意識の色眼鏡を外すと、きっと今まで見えなかった「都会の中の自然」の一端を見つけることができるであろう。このシリーズでは、そんな風に都会で逞しく生きる自然(生き物たち)を随時紹介していければと考えている。
(文/写真)
里山散策ライター:里中遊歩