カンボジア──プノンペンの書店で、近頃とっても気になったこと。書棚に並ぶ最新刊の数々、中でも人気の「伝記シリーズコーナー」に、アドルフ・ヒトラーや毛沢東、ヘレン・ケラーらに混ざって、何とあの「南田洋子」が表紙にでかでか印刷されているのを発見!

南田洋子──。先日亡くなったばかりの長門裕之と「芸能界のおしどり夫婦」として多くのテレビドラマに出演。晩年、認知症に倒れたが、日本有数の有名女優であることには変わりなく、でも、スターリンと同列に扱うのはなどうなのか……。

もしや、長門裕之が85年に出版した暴露本「洋子へ」のクメール語翻訳か? と色めき立つが、そんな訳もなく、手に取ってみれば南田洋子ではなくビル・ゲイツ伝だったわけだが──。中味をめくってもっとびっくり!

表紙も似てないが、中のイラストはまさに想定外。同じ絵描きを雇う金が足りなかったのだろう、青木雄二ファンの60代主婦に無理やり描かせたみたいな、そんなイラストがふんだんに散りばめてあって素敵すぎる。

本文は圧倒の12ページ。この半端なページ数でビル・ゲイツの半生を語り尽くすのは流石に無理があり、1ページ目で幼年時代、2ページ目で早くもコボルを学び、4ページでマイクロソフト設立! と光陰矢のごとく展開。

同シリーズで、日本を代表する実業家・盛田昭夫伝も出版されているが、こちらのイラストもビル・ゲイツ伝以上に凄まじく、悪夢に出てきそうなタッチ。発行元には是非「手塚治虫伝」「藤子・F・不二雄伝」あたりを出してもらい、カンボジア・マンガ界のレベルを一気に押し上げる天才の出現を願ってやまない。
(取材・文=クーロン黒沢

▼新作OSを披露するゲイツ氏……なのか?

▼学生時代のゲイツ氏。新橋のサラリーマンかと思いました

▼ゲイツ氏の隣はポール・アレン。後ろ姿なのは絵描きが顔を知らなかったのかも

▼孤独死を迎えようとする老人……ではなく、ソニー創業者・盛田昭夫氏だ!

▼20代の森田氏。隣はポルトガルの奴隷商人……ではなく、故・井深大名誉会長だ