奈良県は吉野地方などの郷土料理、柿の葉寿司。大手メーカーの柿の葉寿司は県外でもデパートに並んでいたりするので、そこそこ知られるものと認識している。

県内には(多分)星の数ほどの柿の葉寿司屋さんが存在し、驚くべきことに、ひとつとして同じ味はない。

すべての柿の葉寿司屋さん……は、数が多すぎてとてもではないが回り切れず。なんとか手の届く範囲の柿の葉寿司を集め、比べてみることにする。メモのご用意をどうぞ! 


柿の葉すし本舗 たなか

県内外で目にする機会の多いメーカーから見ていこう。まずは以前当サイトでも紹介した『柿の葉すし本舗 たなか』だ。


こちらは奈良県は五條市という場所に本店があり、同市は全国有数の柿の産地でもある。奈良県で2番目に面積の大きな市町村でもあり、山々に囲まれ和歌山へつながる吉野川が流れている。

奈良県民にとって『たなか』と言えば、柿の葉寿司はもちろん「五条楽(6個入 税込778円)」の印象が深い。

こちら、山菜入りご飯を薄焼き卵で巻いていたり、梅肉が乗ったご飯を青じそで包んでいたりと、趣が異なることが特徴だ。柿の葉ではなくセロファンで包んであるため、見た目にもとても鮮やかで手土産などにもちょうど良いのだ。

柿の葉寿司(紙箱さばさけ7個入 税込1360円)は、数ある柿の葉寿司の中でもバランスの取れた味であると感じる。厚すぎず薄すぎず、しかし脂の乗った魚の身は、塩気がやや強め。


すし飯は酢が効きすぎていることなく、まろやかだ。魚と米の加減が絶妙で、ちょうど良し。はじめて奈良の柿の葉寿司を食べる場合は『たなか』がオススメだろうか。


ヤマト

お次は『ヤマト』。こちらも『たなか』と同じく、五條市に本店を構えている。柿がドンと描かれたパッケージが、インパクト大だ。


同店は本店をはじめ、団体での利用も可能な店舗があるところが特徴のひとつだろう。そうした店舗では柿の葉寿司だけでなく、弁当や御膳、会席などを味わうことができる。

またなども展開しており、柿の葉寿司という枠組みにとらわれない、昔ながらの奈良の料理屋さんというイメージだ。

気になる柿の葉寿司(さばさけ10個入 税込1620円)はというと『たなか』と近いものがあり、食べやすい柿の葉寿司だ。魚の切り身は気持ち、たなかより大きめで脂は抑え目。


気候などにもよるが、米はやや硬めだろうか。新潟県産コシヒカリを使用しており、しゃっきり目であるように思う。オリジナルのブレンド酢はフレッシュさを感じる、すっきりとした味わいだ。

五條市を中心に、比較的奈良県の南に店舗が固まっている同店。団体スペースのある店舗、家に帰ってすぐ食べたい丼ものを出しているといったこともあり、そこで暮らす人たちや長期滞在する人たちにとって重宝する店であるかもしれない。


平宗

お次は『平宗』だ。同店は江戸時代末期に上市村(現・吉野町)にて、すし・川魚・乾物の製造販売を行っていたことにはじまる。伊勢街道筋にあり、かつては多くの人が行きかっていたよう。


こちらも以前、当サイトで同店の「大和牛ローストビーフずし」を紹介したことがある。大和牛、からも想像できるように商品開発にも余念がない。

もちろんそれは、ベースとなる柿の葉寿司あってこそ。例えば米は奈良県産ヒノヒカリにこだわるなど、特に地のものを特に大切にしているよう見受けられる。

柿の葉寿司(紙箱さばさけ7個入 税込1436円)は、まず柿の葉の香りが高い。寿司に葉の香りがほのかに移り、魚の身をキュっと引き締めている。


やや厚みある魚と、コクのある酢が混じり合った奈良県産の米。魚の種類も豊富なため、柿の葉寿司をさまざまな角度から楽しみたい人にオススメだ。


・ゐざさ

そして『ゐざさ』だ。こちらは、上北山村というところに本店を構える。当店は柿の葉寿司以外に、笹の葉で寿司を三角に包んだ「ゐざさ寿司」がある点が特徴だ。


面白いのは「ゐざさ」の由来で、同村山中には猪笹生(いざさおう)という背中に熊笹の生えた大猪の話がある。その話から名を取って、昭和の頃村にドライブウエイができた際、名物として売り出したそう。


ある日、たまたま上北山村方面へ用事があった記者は本店に立ち寄った。せっかくなので、ゐざさ寿司ほか柿の葉寿司に山菜寿司などが入った「木和田(税込1047円)」を購入。


ゐざさ寿司は、中身は柿の葉寿司とよく似ているが、笹の香りが寿司に移ってまた違った味わいがある。柿の葉寿司の魚はやや肉厚で、しっかりと脂が乗っていてジューシー。米との相性も言わずもがなだ。

同村はやや和歌山に近く、奈良市内などに比べて、かつては魚が手に入りやすかったと聞く。土地ならではの歴史と味を感じられるところが魅力のひとつだ。


以上の4つは店舗数が多く、卸しているエリアも広く、大手の柿の葉寿司メーカーと言えるだろう。以下、取り寄せ対応をしているところもあるが、店舗は県内にしかない地元ならではの柿の葉寿司を紹介していきたい。


よしなや

さて、お次は『よしなや』という、大淀町にある食堂が作る柿の葉寿司だ。大淀町は奈良県中部、吉野川右岸に位置する街で梨の生産地としても知られている。


同店は食堂と書いた通り、店舗にて柿の葉寿司のほか手打ちうどんや、店主自ら釣る鮎の塩焼きなどを提供している模様。記者は最寄りの産直市場で、柿の葉寿司(さば3個さけ2個入 税込み670円)を入手。


程よく寝かされていたのか、葉がしっとりとしていて魚と酢飯とを良い感じに密着させていた。時と場合によるが、大手の柿の葉寿司は回転率が高いからか「もう少し寝かせた方が美味しいな」という時がある。

地元の限られたエリアでのみ出回っている柿の葉寿司は、その点、より熟成されているように思う。同店もしっかりと味が馴染んでいて食べごろで、美味しかった。魚も肉厚でこだわりが感じられる逸品だ。


・橋戸

そして川上村にある『橋戸』だ。こちらも「よしなや」と同じく、産直市場で手に入れた。同店は川上村というところで、民宿を営みながら柿の葉寿司作りもしているらしい。


川上村は吉野川(紀ノ川)の源流に位置しており、水源地の村として知られる。吉野林業発祥の地であるとも言われ、山と川と、豊かな自然と共にある村だ。

もちろん柿の葉寿司(さば5個入 756円)にもその点が反映されており、水は奥吉野の名水を使用。その効果か、米はしゃっきりとした爽やかな味わいだ。


やや塩っぱめの魚と米が絶妙に混じり合い、全体的にさっぱりとした味わいに仕上がっている。こちらもまた、この土地ならではの味と言えるだろう。


やっこ

まだまだ紹介し足りないところであるが、あまりに長くなってもどれがどれやらになってしまうだろうので、こちらで最後だ。金峯山寺蔵王堂(吉野町)のお膝もとにある『やっこ』である。


先に書いた通り、修験道総本山の金峯山寺の目の前にある同店。桜で名高い吉野山中にあるため、わざわざ行く楽しみもある。店舗ではうどんや素麺と柿の葉寿司をセットにした、軽食も提供している。


気軽に足を運びやすい場所とは言い難いが、同店の柿の葉寿司は時折口にしたくなる、クセになる味。記者も先日急に食べたくなって、愛車ジムニーを走らせ行ってきた。


こちらの柿の葉寿司(さば5個さけ5個 2000円)の特徴のひとつは、味の濃さであると思っている。これまで紹介した中では、断トツで塩気が強い。しかしだからこそ、恋しくなるというもので、食べる手が止まらない。


魚は肉厚でややフレッシュ。作り立てでありそうなのに、しっかり米と味が馴染んでいて旨味たっぷり。奈良の日本酒ともよく合う。パッケージも可愛らしく、ついつい手土産にしたくなってしまう。


以上、駆け足で7店舗を紹介したが気になる店舗はあっただろうか。柿の葉寿司は季節によって味わいも変わるもので、その点もまた面白い。個人的には夏から秋にかけての柿の葉寿司が好きだ。

冒頭に書いた通り、県内にはまだまだ、たくさんの柿の葉寿司の名店がある。もうじき紅葉の季節だ。紅葉狩りがてら奈良を歩き、合間に柿の葉寿司を味わい自分の舌に合うお気に入りを見つけてみては如何だろう。

執筆:K.Masami
Photo:Rocketnews24.

『柿の葉すし 山の辺』も美味しい! 見た目も奇麗

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