
世界一のサーカスをめざし、ごく普通の大学生が木下大サーカスに入団して2年目の冬。気づけば2人のヤバい後輩に巻き込まれる形で、私も地獄の練習メニューに参加。練習生3人で心身の限界を超え続ける日々を過ごしていた。
一方で、練習の合間にも “サーカスの日常” がある。移動のたびに地元のスーパーや銭湯、うまい店を仲間内で共有し、夜はバーベキューや誕生日会で笑い合う。前回の内容が暑苦しかったので今回は “ほのぼの回” をお届けしたい。移動直後の舞台裏からどうぞ!
・場越し後の生活
2〜3カ月おきに全国各地を転々とするサーカス生活。新しい土地に移動すると、先輩団員・その土地出身の団員・そして数カ月前から前乗りしている営業社員(サーカスには営業部隊もある)が、待ってましたとばかりに情報提供をしてくる。
前乗り営業部隊からの情報は “最新” だから最も役に立つ。現場で数カ月間生活する団員のために、近所のスーパーや銭湯、うまい店、観光地まで丁寧にリスト化してくれるし、子どものいる団員のために学校の手続きまで済ませてくれる。
そんなわけで移動初日は、地元の銭湯で汗を流し、ご当地メシで景気づけるのが鉄板の流れ。名古屋では手羽先、高松では骨付鳥、宮崎では鶏の炭火焼……同じ鶏でも土地ごとに姿を変えるのが新鮮で、とくに若い頃は移動のたびに発見があった。
対して、先輩団員からのアドバイスは「8年前はここが1番安かった」「昔はあそこのスナックに通った」など、情報がビミョーに古くて現実的にはあまり役に立たない。
しまいには「鷲羽山ハイランド(岡山)のサンバショーが面白かった」「いや、スカイサイクルも楽しい」と謎に盛り上がる始末。そんな光景をニコニコ眺めながら「昭和トークはもうええわ」と心の中で静かにツッコんでいた。
一方で、昔の行きつけに連れていってもらって、店主から「おかえり〜!」なんて声が飛ぶ場面に出くわすと、急に先輩が大きく見える。さっきまで “スカイサイクル推し” だったくせに急に渋い顔を見せるとは……この落差もサーカス団員らしいと言えば、らしい。
・パーティーにて
移動直後こそバタバタしているものの、ひと段落すると今度は敷地内でのイベントが増えてくる。外国人団員の誕生日パーティーに誘われたり、ハロウィンパーティーが開かれたりと、テント裏でバーベキューが頻繁に行われるのだが……
仕事終わりは1人でのんびり過ごしたい時もある。とはいえ共同生活だから、部屋の明かりをつけてコンテナにこもるのは後々気まずい……葛藤の末に「少しだけ顔を出しておくか」と答えを出していた。今思えば、若手のクセに生意気である。
パーティーではアメリカ流の豪快な肉料理からロシア料理まで色々並ぶ。国際色豊かな食卓が広がってワクワクするが、入団したての頃はいまいち居場所がなく、気づけばサーカスの子供たちと遊ぶことが多かった。
ゴウ、リョウ、アカネら小学生を連れ出して夜のテントで隠れんぼ。夜の大テント内はやや不気味だが、隠れる場所が多くて子供たちにとっては良い遊び場だった。私にとっても、にぎやかな宴の輪から自然に抜け出せる口実となる。
居場所がなくて子供と遊んでいただけなのに、親である大先輩からは「子供を可愛がってくれてありがとう」と感謝される。なんなら “うちの子供と仲良くしている後輩” として悪い印象を持たれることはない。自然とサーカスで生き抜く術を磨いていた。
しかしある夜、いつもの小学生軍団に加え、アメリカのフラフープアーティスト・クラウディアの娘も隠れんぼに参加……すると、事情を知らないクラウディアが「娘がいない!」と大騒ぎ。しまいには号泣する事態に発展してしまった。嘘だろおい。
数分後、申し訳なさそうに娘がオートバイホールから登場。そして生き別れた娘との感動の再会のような熱い抱擁を交わしていた……まるで海外ドラマの再現VTR。さすがスターである。
ただ、私は事件の当事者ながら完全に引いていたし、なんなら小学生軍団も申し訳なさそうな顔をしていた。その事件以降、夜のサーカスで隠れんぼをすることはなかった。
・空中大車輪を教えてほしい
別の夜、あれはたしか2006年の名古屋公演か岡山公演の時だったと思う。今でも人気の芸「空中大車輪 Wheel of Death(ウィール・オブ・デス)」が日本にやってきたばかりだった。
バーベキューの席で、空中大車輪に出演しているヴィタリーに、思い切って「私に芸を教えてくれないか」と相談してみたところ、彼は真顔でこう言った。
「……あの芸は、神に選ばれた人間にしかできない」
「さすがヴィタリー……失礼なお願いをしてごめん」
当時の私は本気で信じていた。しかし今は「空中大車輪の体験会」をやっているサーカスもある。誰でも体験できるのかよ。体験会の様子を見るたびにヴィタリーのクールな表情が思い浮かぶ。あいつ……!
・大家族の一員として
それはさておき、パーティーの翌日には、その場にいた先輩方1人1人に「昨日はありがとうございました」「昨日はお疲れさまでした」「片付けありがとうございました」「ごちそうさまでした」「サンキュー」「スパシーバ」などと挨拶をして回る。
すると決まって「サーカスはどうだ?」「サーカスは楽しいだろ?」といった言葉が返ってくる。そんなやり取りをくり返すうちに、だんだんと仲間に溶け込み、自然と大家族の一員として受け入れられていくのだった。
・木下サーカスは名古屋市で公演中
──というわけで、今回はここまで。現在、木下大サーカスは愛知県名古屋市の「白川公園」で公演中だ。名古屋公演は10月27日までなので、興味を持った方はぜひ足を運んで生のサーカスを楽しんでみてほしい。それではまた!
参考リンク:木下サーカス
執筆:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.
砂子間正貫







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