中国・上海のショッピングモール『金虹橋商場(Jタウン)』は現地在住日本人の憩いの場で、以前の記事でご紹介したコメダ珈琲モスバーガー(※ 現在は閉店)もこのモール内にある。

地下1階の日本インスパイア系居酒屋や食堂が軒を連ねるストリートは、周辺で働く日本人ビジネスマンたちで賑わう。そんな中に『大勝軒』を見つけたので、「日式ラーメンでも食うか」と軽いノリで入店したところ、それは俺たちの知ってる大勝軒ではなかった……最高にいい意味で。

・大勝軒の歴史

大勝軒はかの有名な山岸一雄さん(故人)が創業したことで知られ、本店は東池袋にある。そこから “直営店の大勝軒” と  “のれん分けの大勝軒”  に分かれ、さらに “のれん分けの大勝軒が独自に展開する店” もあるようだ。なんか複雑だな、大勝軒は。

こちらが上海の大勝軒。収集がつかないほど巨大化した大勝軒のことなので、あるいは “勝手に名前だけ拝借したエセ・大勝軒” の可能性も否定できないのでは? という考えが一瞬よぎったが……

店内に山岸さんの写真とともに大勝軒の歴史をまとめた張り紙があり、立地的な側面からも、まぁ少なくともエセ・大勝軒ではなさそうな気がした。奥が深いな、大勝軒は。

分厚いメニューをのぞくと、大勝軒の代名詞たる『特製もりそば』の文字を見つけてホッとした。価格は38元(約810円)。日本とほとんど変わらない。『東京二郎系ラーメン』はさすがにやりすぎな気もするが……まぁ大勝軒は自由だからな。

『唐揚げカレー中華そば』……まぁ、自由だから。

ラーメンメニューはとにかく豊富。上海で日式ラーメンに困ることはない。



・自由すぎるぞ大勝軒

ところが……私はこの日、けっきょくラーメンを注文しなかった。

その理由は、ラーメン以上に定食メニューが充実していたから。ハンバーグ、生姜焼き、ゴーヤチャンプルー、果ては鰻重に牛丼まで。こんなムチャクチャな大勝軒、さすがに見たことがない。記者としての好奇心が、ラーメン食いたい欲を上回った瞬間である。


で、長考のすえ注文したのは……



『ホッケ一夜干し定食』(50元 / 約1065円)であった。



・近所になくても通うレベル

近年ホッケは漁獲高が著しく減少しているのだそう。日本の居酒屋で注文すると「これは……アジですか?」というサイズのヤツが出てくる場合も多くなってきている。

そこへきて、この巨大でパンパンに身が詰まったホッケはどういうことだろう? 一体どこ産なのか? これが単品だとしても1000円ちょいは安すぎる。おまけに何度も言うけど、ここラーメン屋だぞ?

その前に、この小鉢のサラダ。業務用ドレッシング味の超シンプルなソレは、全体が強烈な「これでええ感」を放っている。これでええ……こういうのが食べたいんだ。

この業務スーパーで売ってそうなタクアンっぽいヤツと、いい感じに薄味のダシが染みたオクラ。誇張抜きで、この1皿で白米1杯は余裕である。この “ザ・なんてことのない食堂” に中国で出会えるとは、それがまさか大勝軒とは、だれが想像できただろう。

ホッケの味については、わざわざお伝えするまでもない。

中国に「おかわり」文化があるか分からなかったので遠慮したが、このホッケなら白米3杯は間違いなくペロリである。これほど名残惜しい最後の一口は、この中国旅で他になかった。

なお上海の大勝軒は居酒屋っぽい雰囲気も兼ね備えていて、上海在住日本人の交流サロン的な役割も果たしているようだった。

ただ私が店にいる間、周囲から聞こえる会話は中国語が大半だったように思う。日本人にも中国人にも愛されている上海の大勝軒。次回こそは『特製もりそば』を注文したい……が、正直自信はない。

執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.