私が最後に髪を切ったのは、2019年の後半とかそれくらいだった。いわゆる「コロナ禍」が始まる前のことだ。

ほどなくして新型コロナが猛威を振るい、緊急事態宣言が発令された。一時期、社会全体が髪を切りに行くのも自粛するというような状態になったのを覚えているだろうか。

こうして髪を切るタイミングを失った私は、ふと思い立った。じゃあ限界まで伸ばして寄付したらええんちゃう? セフィロスみたいにしてやんよ!!

・目標はセフィロス

ということで特にこれという準備も無いまま、限界まで髪を伸ばすことにした。目標はロン毛の頂点たるセフィロス。しかし伸ばせる限界はどうなるものでもなく、遺伝的素因が大きく影響していると考えられる。

どこかで伸びる限界が来るはずなので、とりあえずそこまでいってみようというものだ。スタート時の長さは、私のプロフィールの写真を参照頂きたい。厳密に同じではないが、私はだいたいこんな感じの髪型だった。

私の髪の毛は、切りに行く美容院の人によると硬くて太く、ドストレートだ。量はだいぶ多めで、伸びるのも早いそう。今回のようなチャレンジにおいては、なかなかのサラブレッドな気がする。

・基本的にずっと邪魔

髪を伸ばす作業というのは、思いのほか大変だった。いや、伸ばすこと自体は私の細胞が勝手にやるため、私自身が意識してその工程をどうこうするわけではない。

伸びてゆく髪と共に生活することが、だいぶ大変なのだ。特に、肩を過ぎたあたりから

まず風呂で消費するシャンプーやコンディショナーの量が明らかに増える。髪を乾かす時間も長くなり、風呂が面倒になりはじめる

下を向くと後ろの髪が前に落ちてくるのも地味にストレスだった。あと、周囲の音が顕著に聞こえなくなることに気付いた

耳を髪から出したら少しは改善するが、それでも短い頃のようなパフォーマンスは発揮できないと感じた。これは地味に不便だった。

耳の周囲だけでなく、頭部全体を覆う髪の毛の量が増えていること自体が問題なのだと思う。髪の毛の吸音性能は侮れない。私の耳が悪くなったのかと思ったが、切った今はまた普通に聞こえるので、この説には自信がある。

肩甲骨を超えると、いよいよ寝る時にも大変になる。髪をどこに置くのか決める必要が出てくるのだ。そのままだと、寝ている間に引っ張られたりして邪魔な事極まりない。

最終的には、全部上に流す形で落ち着いた。



・止まった

そして至ったこの長さ。


もう2か月は伸びていないので、ついに限界がきたのだと思われる。2房か3房程度であれば、まだわずかに伸びていた。しかし量の減少は明らか。ここが終わりだろう。

中央の先端部分は尻の中ほどまで到達している。ちなみにベルトの位置が、頭頂部からちょうど70㎝くらいだ。残念ながら私は毛ですらセフィロスより劣るもよう。

しかしこの状態での生活は、マジで地獄だった。まず髪の毛自体がだいぶ重い。首に明らかに負荷がかかっているのが分かる。頸椎ヘルニアが悪化しそうだ。

下ろしっぱなしが邪魔なのは誰が見てもわかるだろう。しかしこの長さになると、縛ってもヤバい。例えばポニテだが、この量の髪の重さが一点に集中するため、頭皮の引っ張られ方がヤバい。

肩甲骨くらいまでの髪でやるポニテとは、頭皮と首への負担がダンチ! また、ポニテにする作業すらもけっこうな重労働になる。綺麗にやるなら、たぶん30分くらいかかる。たかがポニテなのに。

そしてポニテにしたらしたで、テールの長さと太さがポニーではなくコモドドラゴン。下手にそのまま外を出歩くと、テールの動向は自分でも制御不可能だ……!

下ろしていたら死ぬほど邪魔。縛っても邪魔。あらゆるパフォーマンスがダダ下がりする。ここで実感した。手入れされた長い髪は、そんなに体を動かさなくていい立場にある人間の指標になると

私は残念ながら、そういう立場とは対極の、むしろ資本主義社会における最底辺だ。しかし伸ばすからには汚らしい長髪にしたくなかったので、それなりに丁寧に扱っていた。そのためには、風呂が1日で労働の次にしんどい行程となる

切れたりしないよう気を付けつつ、しかし汚れはちゃんと落ちるように洗わねばならない。こうして髪のためだけに風呂が1時間長くなった。最終的には、消費するシャンプーなどの量が短髪だった頃と比べて5倍くらいになっていた。

髪にとって、濡れている状態は最もぜい弱だ。風呂に入ったあとは素早く乾かさねばならないのだが、この長さと量を乾かすとなると、冬は1時間半。夏は2時間かけて、何か微妙に乾いてるような乾いてないようなという仕上がりになる。

他にも色々あったが、とりあえず今回はこんなところで。やっと切ることができ、肩の荷……否、頭部の荷が下りたという感じだ。圧倒的な解放感と首の軽さに感動している


いやマジで、セフィロスは凄まじい。あれほどの長髪にもかかわらず軽快な動き。鍛え方が違うのだろう。ちなみに切った髪は持ち帰ってきた。しばらくしたらどこかの団体に寄付する予定だ。

執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.