弾力のある独特の食感と、夏らしい涼感を楽しめる「わらび餅」。本格英国スコーンとパフェのアフタヌーンティーに出かけたら、糖分ダメージで3日ほど普通の食事をとれなくなった筆者の胃にも優しい甘味だ。

なんとなく甘味処かスシローで食べるもの、というイメージがあったのだが、先日ダイソーで「レンジで簡単! 涼味デザート わらび餅セット」なる商品を見つけた。

待って。もしかして、わらび餅って……家で作れるのか……?


・「レンジで簡単! 涼味デザート わらび餅セット」(税抜100円)

何十年も生きてきて、いま初めての事実に直面している。そもそも、わらび餅の原料や製法なんて気にしたことがなかった。

内容物は一見シンプルだが、これひとつで完結する充実のキット。原材料の粉・きなこ・黒蜜がセットで、なにも買い足さなくてよい。

手順もかなり簡単に見える。まず、主原料の白い粉を水で溶く。


すると牛乳のような真っ白な液体ができた。この時点では水のようにサラサラだ。


鍋で加熱する方法が一般的のようだが、電子レンジでも調理可能だという。指示に従ってレンジに入れる。レンジ使用の場合、均一に固まるよう途中で2~3回かき混ぜる必要がある。

1回目、2回目のかき混ぜでは、とくに状態に変わりはなく、牛乳のままだった。


しかし、3回目のかき混ぜの時点で劇的な変化が起きた。中央に半透明のゼリー状物質が生まれている!


混ぜてみると、液体半分、固体半分の不思議な物体にメタモルフォーゼ。目の前で加熱による化学変化が起こっているのがわかり、理科の実験のようで面白い。

さらに最終の温めを行った後は、ベッタベタ、ドッロドロの半固体に!


混ぜていくと、餅(もち)というよりは糊(のり)のような状態になった。障子の張り替え用の糊を食べてしまう舌切りスズメの昔話を聞いたとき、子ども心に「なぜそんなことを……!」と思ったものだが、デンプンが接着剤になるというのがよくわかる。混ぜるのが大変なくらいの粘度だ。

十分に混ざったら、生地を平たい容器に入れる。この時点ではなんというか、薄茶色のネバネバした物体で、あまり美味しそうには見えない。



お菓子作りに使えるような適切な容器がなかったので、スライサー(大根おろしなどを作るツール)の受け皿を使った。以降の画像で「容器が変」という点には目をつぶっていただきたい。

続いて生地を冷やす段階に入るのだが、冷蔵庫はNGだという。シンプルに水または氷水を使う。マニュアルを見ると「上から水を十分注ぎ」とある。

上からって、どの上から? 生地に直接? ボウルを2つ重ねてとかじゃなく?


読解力の問題だろうかと思って何度も読み返したのだが、やはり水を直接注ぐようだ。生地に水分が混ざったりしないのだろうか?

レシピに忠実に材料を煮込んで、よし美味しいシチューが完成した、と思った瞬間に「んじゃあ、水入れて冷製スープに」と言われたかのような疑念がわく。頭に浮かぶのは「いや違うだろ」のひと言だ。

いいんだな? 本当にいいんだな? 蛇口から水を大量投入!


結果的に生地と水は、冷えきった熟年夫婦のごとく、まったく混ざり合うことがなかった。「水にさらす」という製法だろう。



生地は粘着力が高く、平らに「ならす」ことができなかった。デコボコの陰影が浮かぶ様子は、宇宙の神秘のガス星雲のようにも見え、また浜辺に打ち上げられて死んだクラゲのようにも見える。

あまりに見た目が悪いので、天地をひっくり返したら、いくぶんマシになった。


十分に冷えたら切り分ける! すっとヘラが入っていくので、包丁はいらない。


こんにゃくのような、薄く白濁したサイコロができた。出来のいい子だけを盛りつけたので、実際の量は写真の倍以上ある。また、やり方によっては、もう少し透明感のある仕上がりにできるのかもしれない。

このまま食べてみると、どこかアクがあるような、デンプン独特の風味がする。マズくはないけれど、大量に食べられるものではない。

しかし、きなこと黒蜜を、たっぷりかけたらば……


まんま「わらび餅」! すごい!


きなこは十分すぎるほど同梱されているが、黒蜜はもっとあってもいい。買い足してもいいかも。もっちもちの食感は、お店で食べるのと変わらない。しかも安く大量に作れるから、気の済むまで食べられる。

ちょっとオシャレなダイソー和食器に盛りつけたりすれば、甘味処のデザートみたいじゃないか!



・黒蜜を買えば、かけ放題パラダイス

正確にはこの商品の原材料は甘藷(かんしょ)デンプンというサツマイモのデンプンで、わらび粉ではない。わらび粉は高価なもので、市販されているのはミックス粉が大半だそう。

そこに価格の差や、専門店との差があるのだろう。でも作り方はほぼ同じ。わらび粉が手に入ったら、「本物の」わらび餅も自宅で作れることがわかった。

しかも飲食店でありがちな「もっと……ケチらず……黒蜜を……」というプチ欲求不満からも解放される。これはビンごと黒蜜を買いにダッシュだ。


執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.