ピザハットは2024年5月20日から6月12日までの期間限定で、「業界初の仰天ピザ」と謳う新商品、「超新星☆ウメゲリータ」を販売している。文字通り、具材に梅干しを使った和風マルゲリータだ。筆者はこの報を聞いてからというもの、やや落ち着きを失った。
「そうか、その手があったか」とばかりに若干天を仰いだり、「これはやられた」と内心呟きながら軽く頭を掻いたりもした。人間はあまりに「ありそうでなかった」商品を叩きつけられると、ほんのり奇行に走るのだと思い知った。
落ち着きを取り戻すには、「ウメゲリータ」を実食するほか道はなさそうである。そういうわけで、以降よりレビューするのでお付き合い願いたい。
「ウメゲリータ」について補足しておくと、この商品は東京ソラマチに店を構える「立ち喰い梅干し屋」とのコラボメニューで、同店が扱っている高級梅干し「しらら」を採用しているという。ちなみにMサイズ・クリスピー生地のみが注文可能となっており、価格は2600円だ。
そもそも何故「ウメゲリータ」が開発されたかと言えば、ピザハット曰く「どうすれば日本でデイリーにピザを食べてもらえるかを考えた結果、梅干しにたどりついた」「私たちに欠けているのは梅干しだ」「梅干しがあれば毎日ピザを食べてもらえるはずだ」とのことである。
危ういまでの梅干しへの傾倒ぶりだが、しかし気合いの入りようは伝わってくる。実際、実物を目の当たりにすると、前述の高級梅干しが1ピースに1粒ずつトッピングされている贅沢さに心躍らされる。
そのうえ梅干しの果肉のみならず、ピザ全体にオリジナルの「紀州梅」ソースもまぶされていて、こちらへのもてなしに抜かりがない。「超新星」の名に一切違わぬ、類を見ないほどの「梅」具合である。
ピザハットの先鋭的な「梅干しイズム」をそのまま見た目が反映しており、そして口に入れた際の味わいもまた、見た目通りに強烈だった。いや、正直、これは見た目以上かもしれない。
柔らかに熟したジューシーな果肉から染み出る酸味と甘み、加えて滴るソースの振りまく風味が、分厚くもまろやかな、絶妙に濃厚な「梅」テイストを織り成している。
こだわっているだけあって実に美味しいし、しっかり旨味に浸れる味わい深さは非常に好ましいのだが、忌憚なく言わせてもらうなら、いかにしても「梅」が強いように感じる。
何せ、口の中にほぼ「梅」しかいないのである。果肉の下に敷かれている大葉も、そこかしこに溶け込んでいるチーズも、強大な「梅」の前では脆弱であった。
「梅」好きな人にはたまらない一品だろうが、「梅」と他の具材たちのマリアージュを期待していると残念さは否めない。ピザを平らげるまでに、何度か「縁日で買える梅ジャムせんべいのピザ生地版」を食べているような錯覚に陥ったほどである。
薄々察してはいたが、思うにピザハットは、「梅」の力に溺れている気がする。「梅」さえあれば人々を魅了できると考えるあまり、加減がわからなくなっている節がある。高級梅干しを採用した分、ソースは抑え気味にするくらいでもよかったかもしれない。
とはいえ、仕方あるまい。ピザハットよりも先に「梅」の力に溺れたピザ会社が存在するなら別だが、前例のない挑戦に過ちは付き物である。何にせよ、ピザハットが先陣を切って新たな地平を開いたという功績は大きいはずだ。
いずれ一層ブラッシュアップされた「梅ピザ」が現れるかもしれないし、あるいは新たに想像だにしないピザが生まれるかもしれない。この業界の行く末が楽しみである。「ウメゲリータ」という超新星は、ピザという宇宙の奥行きを筆者に教えてくれたのだ。
参考リンク:ピザハット 公式サイト、PR TIMES
執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24.
[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]