その昔、1980年代頃、全国各地の娯楽施設に巨大迷路が作られる時代があった。いわゆる「巨大迷路ブーム」である。私(佐藤)の郷里島根にも「ドラゴンメイズ」という名前の施設が存在していたが、その場所にあった迷路はすでになくなったと聞いていた。

あれから40年以上を経て、そのドラゴンメイズは場所を移して復活していた!

手作り感満載の迷路に実際に挑んでみたら、意外と苦戦を強いられる結果に……。実はこの施設、山間にありながら年間4万人を集める人気スポットで、運営法人の理事長は年間集客10万人を目標に日夜施設を進化させているのだった! おそるべし、ドラゴンメイズ!!

・伝説級の施設

昔のドラゴンメイズは「ふれあいの里奥出雲公園」(雲南市掛合町)にあった。私も小学生の頃に連れていってもらった覚えがある。広大な敷地にパネル式の巨大迷路が設営されていて、脱出に苦戦したものだ。

1987年にこの場所に誕生したドラゴンメイズは、12年間存続した後に閉鎖。2007年より同じく雲南市の大東町に場所を移して、復活オープン。今年で18年目になる。


年に1度しか帰省しない私は、昨年JR松江駅でパンフレットを見かけて驚いた。まさかあのドラゴンメイズがいまだに存続しているとは

間にブランクがあったとはいえ、同じ名前で続いていることが信じられない。飲食店でさえ、10年続く店は1割にすぎない。まして、この田舎の娯楽施設。40年もの長きにわたって、その名前が続くだけでも伝説級だ。

帰京後に、運営元の「一般社団法人 心の駅 陽だまりの丘」の田中隆理事長に電話インタビューを行い、年間4万人もの集客があると知って、さらに驚いたのだった。


・難しすぎる巨大迷路!

さて、そのドラゴンメイズだが、とてものどかな山間のテーマパークである。巨大迷路だけでなく西日本随一の椿園を有しており、600種類2000本の椿が植わっているという。毎年3~4月には椿祭りを開催しているとのこと。


広場にはゴーカートがあり、休日は子どもたちでにぎわっていることだろう。この日は平日だったので、あまりお客さんはいなかった。


案内版や縦看板はおそらく手作り。しかし取っ散らかった様子はなく、人の手のぬくもりのようなものをそこかしこに感じられる。「ほのぼの」という表現がふさわしい。


「ドラゴメイズ入口」のゲートをくぐり

さらに奥へと進んでいくと……


これか、めちゃくちゃ広いな。開業当初は1000平方メートルだったそうなのだが、2022年の地元紙によると、7000平方メートルまで拡大している。毎年リニューアルしているので、現在はさらに広くなっているのかも……。


山の上の方になんかスゲエのがいるんだけど! “ドラゴン” メイズだもんなあ、やっぱ龍がいるべきだよね。


巨大迷路には4つのコースが用意されている。入門編の「スタンダードコース」(約30~60分)、7つのタワーと風雲おろち城を探す「おろちコース」(約45~75分)。

7つのタワーと八頭龍神社(さきほどの山上の龍)を目指す「スーパーコース」(約60~90分)。そして、忍者屋敷のミニアスレチックを楽しむ「忍者コース」となっている。


料金はコースによって異なっている。私は妻と共に、スーパーコース(大人・子ども共に税込1000円)にチャレンジすることにした。


スーパーコースは迷路の攻略に挑みながら、7つのタワーにあるスタンプを押して回るというものだ。


それと龍の口の中にあるという「スーパーヒーロースサノオお守りスタンプ」もゲットしなければならない。


正直、私は中に入るまで、かなり軽く考えてた。子どもも遊べる巨大迷路だから、大人にはカンタンなんじゃないの? ……ところが! 迷路は結構エグかった!! 詳しくは言えないんだけど隠し扉とかあるんよ。子どもには難しいんじゃない?

とはいえ、すごく面白かった! 妻と2人で同じ道に行きつ戻りつして、「アッチじゃない?」とか「コッチでしょ?」とか言いながら、迷子になるのは愉快な体験だった。


ちなみにコレがタワーの中のスタンプ台だ。半分くらいはすぐにたどり着けるけど、残りの半分が難しい。その難しさは想像をはるかに超えていた……。


結局私たちは、12時26分にスタートして13時17分にクリアした。1時間切る好タイムだった。


・理事長インタビュー、もともと耕作放棄地だった

後日帰京して、田中理事長に電話でお話を伺った。現在81歳の理事長にはデッカイ野望があった


佐藤「理事長、たしかドラゴンメイズは昔、奥出雲にありましたよね? 島根出身の自分は子どもの頃に行きましたよ」

理事長「そうなんです。1987年から12年間奥出雲(ふれあいの里)でやってました。あれは県からの委託事業でしてね。それが終わってから10年、間がありましたけど、2007年から今の場所でやってます


佐藤「それも県の委託? じゃないですよね」

理事長「違います。ここはね、農家さんから相談を受けたのがきっかけですわ」


佐藤「と、言いますと?」

理事長「この場所はいわゆる「耕作放棄地」といってね、作付けされなくなった畑です。空地になってしまったから、使って欲しいと相談を受けたんですよ」


佐藤「今、多いでしょうねえ。人手不足とか跡継ぎとかの問題で農業を断念するケースが」

理事長「そうですね。それで2000年頃は地域の寄り合いの場所として「心の駅 陽だまりの丘」を作ったんですよ。それから2007年になって「帰ってきたドラゴンメイズ」として巨大迷路を復活しました」


・「うちの土地ももらって」

佐藤「懐かしいという声を聞きますよね? 実際自分は子どもの頃を思い出しましたよ」

理事長「そうでしょ。あの頃、子どもだった人たちが、今度は自分のお子さんを連れて遊びに来てくれてます。おかげさまで、今は地元だけでなく全国からお客さんが来てくれます」


佐藤「そうですよね、自分みたいに他県に移り住んでも、地元に昔を思い出させてくれる場所があれば、帰省の度に行きたくなりますもん。そもそも昔あった巨大迷路はみんななくなってしまったし

理事長「繰り返し来てもらっても飽きないように、毎年アトラクションを増やしてますからね」


佐藤「毎年!? そういえば、開業当時より広くなってるんですよね?」

理事長「そうです。最初の土地の近隣の方々が「うちの土地ももらってほしい」と言われて、段々広くなってます。おかげで、今年2月に迷路とは別のアスレチック施設「宝島の冒険」というのも作りました。

この施設はね、入場料1000円なんですよ。そのうちの200円をね、能登半島地震の義援金として寄付しています。昨日も松江の日本赤十字社の島根支部に届けてきましたよ」


・子どもの心にふるさと

佐藤「遊び場としてだけでなく、社会貢献にも役立てているんですね」

理事長「私はね、昭和39年の「山陰北陸豪雨」(出雲地方で発生した集中豪雨:住家全壊669棟、床上浸水9360棟、床下浸水48616棟)で家が流されたんですよ。だから少しでもお役に立てばと思って」


佐藤「他人ごととは思えなかったんですね」

理事長「この場所はもともと癒しの場として作りました。過疎化が進んで農地としては放棄された場所に、また人が戻ってきて、全国から人が集まる癒しの場所にしたい。

あの頃の子どもたちが今、自分の子どもを連れて帰ってきてくれる。そうして「子どもの心にふるさとを」という気持ちで、これからもやっていきます」


佐藤「では、施設を充実させていくんですね。子どもたちの記憶に残る巨大迷路、いいですね!」

理事長「そうですね、夢は年間来場者数10万人ですから。インバウンドで外国人観光客の皆さんにも来て頂きたいです」


佐藤「外国の方々も、あの迷路の難しさには驚くと思いますよ」

理事長「驚いて頂きたいです(笑)」


理事長の言葉の「子どもの心にふるさとを」がとても印象的だった。ドラゴンメイズを訪ねた際に感じたぬくもりは、きっと理事長自身の思いのあらわれなんじゃないだろうか。

そんな理事長の優しさに反して、迷路はめっちゃ難しい! 機会があればぜひ1度挑戦して頂きたい。一瞬「出られないんじゃないか?」と思わせるスリルが堪らないので、ぜひ挑んで欲しい!


・今回訪問した施設の情報

名称 癒しのテーマパーク「心の駅 陽だまりの丘」、巨大迷路「ドラゴンメイズ」
住所 島根県雲南市大東町上佐世294
時間 9:00~17:00
定休日 冬季休業

参考リンク:心の駅 陽だまりの丘山陰中央新報デジタル気象庁
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
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