
ふと、マリトッツォのことを思い出した。今や懐かしくすらある、爆発的なブームを引き起こしたマリトッツォ。クリームたっぷりのあのパンが、急に無性に食べたくなったのだ。
ところが、そこらの店を探し回ってみても中々見つからない。街を歩けばマリトッツォに当たる勢いで溢れ返っていたというのに、もはや影も形もない。無常の一言に尽きる。ネット通販で辛うじて見つけることができたが、当然と言うべきか冷蔵か冷凍配送である。
かつて繁栄を極めた種にコールドスリープ状態でしか出会えないと考えるとディストピア感があるが、ともあれ手に入るなら構うまい。そういうわけで筆者は、今一度マリトッツォと対面することにしたのだった。
今回の取り寄せ先は、小田急百貨店のオンラインショップである。栃木の老舗フルーツダイニング「パレット」が作る苺入りのマリトッツォ、その名も「苺パレトッツォ」という商品があったので購入してみた。4個入りの箱が冷凍状態で届く。価格は3240円だ。
正直かなり高いとは感じたが、買わないという選択肢はなかった。創業120年を誇る名店の品であるから興味深かったし、何より現存するマリトッツォ職人との貴重な伝手をみすみす逃してはまずい。
と言いたいところだったが、ここで悲しい報せがある。商品を購入することはできたものの、配達された時点でもう一度商品ページを覗いてみた筆者の目に、まざまざとエラー表示が映った。つまり商品がラインナップから消え失せていたのである。
一時的なものかもしれないにせよ、2023年11月21日現在は購入することはできない。「えっ、買えないのか」と思われた読者の方もいるかもしれないが、一番驚いているのは筆者である。これほどまでにマリトッツォが儚いとは思わなかった。まさしく絶滅危惧種の如しだ。
しかし今買えないからといって、レビューしないという選択肢はない。むしろ現存する貴重なマリトッツォを保有する者としてレビューは義務であろう。そんな心持ちで「苺パレトッツォ」の外箱を開けてみると、在りし日々に見慣れた姿がお目見えした。
懐かしい顔に、また会えた。まるで卒業アルバムを開いて見返した時のような、温かくも切ない気持ちが湧いた。卒業アルバムを見返している時と違うのは、これからその「懐かしい顔」を胃に収めて溶解させようとしている点である。
普段一人で何か食べる時に「いただきます」と口にすることは滅多にないが、今回ばかりは自然とその言葉を呟いていた。そして頬張ったマリトッツォは、在りし日と同じく、いやそれ以上に味覚を揺さぶってきた。
幸せを象徴するようなビジュアルから繰り出される、そのビジュアルを何ら裏切ることのない幸せそのものの味。冷凍状態で届いたにもかかわらず、パン生地は驚くほどふっくらと柔らかく、口一杯に広がった生クリームは甘くとろけていった。さすが名店の腕前と言うべきか。
苺はシャリシャリとシャーベット感のある食感をしているが、それもまた乙だし酸味も絶妙だ。濃厚ながら不思議としつこくなく、いくらでも食べられる、いつまでも浸っていたくなる仕上がり。実に美味しい。美味しくて、満たされる。
「ああ、これだ」と思う。この食べ心地を求めていたのだと。今回はそこにセンチメンタルな要素も加わっているから、余計に味わい深い。くらくらするような甘美さと、「何故いなくなってしまったのだ」という内なる叫びが絶えずせめぎ合っていた。
「苺パレトッツォ」への、ひいてはマリトッツォそのものへの問いかけである。返事は返ってこない。
思い返すだに凄まじいブームではあったが、インパクト先行であったようにも思うし、スイーツとしての造りは生クリームサンドにも似た単純なものだ。替えが利くと言えば利く。いずれ飽きられる宿命だったのだろうか。
しかし変な話、マリトッツォに匹敵するようなブームを起こすスイーツが現れていたなら納得もできるのだが、何個か候補者は見かけこそすれ、いまだ後継の座は空位と言っていい。それに個人的には、マリトッツォからしか得られない、独特の幸福感がある気がするのだ。
定着しないままに消費され、過ぎ去ってしまったことがただただ寂しい。別に今でも棚に並んでいてよかろうと思うが、現実は厳しい。
皆さんもどこかでマリトッツォを見かけたら、なるべく確保することをお勧めしたい。出会いは一期一会である。筆者は筆者で、「苺パレトッツォ」の再販を密かに待ちたい。
なんだか取り留めのない記事になってしまったが、さして後悔はしていない。語り継ぐことに意味はあるはずだ。他の誰もが忘れても、自分だけは忘れない──とまで大それたことを言うつもりはないが、できるだけ目の前の「懐かしい顔」を覚えていたい。
どうせならこの記憶も感情も、冷凍保存できればよいのにと、ふとそんなことを思う。つくづくセンチメンタルな日であった。
参考リンク:小田急百貨店 オンラインショップ、パレット 公式サイト
執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24.
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西本大紀









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