
「おやつカルパス」という駄菓子がある。有名かつ大人気ゆえ、この商品名を聞いて懐かしい気持ちになる方もいれば、あるいは現在進行形で嗜んでいる方もいるだろう。しかし筆者は食べたことがない。
子供の頃によく駄菓子は食べていたが、筆者の行動範囲では「おやつカルパス」を見た覚えがない。仮に目撃しても「カルパス」という単語が幼少の筆者には難解すぎるため、素通りしていた可能性が高い。
ともあれそういうわけで未体験なのだが、年を追うごとに「おやつカルパス」についての「美味しすぎる」だの「抜け出せない」だのという怖いくらいの評判を聞くことが増えた。そろそろ辛抱たまらなくなってきたので、今回は同商品を初実食レビューしたい。
改めて説明しておくと、「おやつカルパス」は食肉加工品メーカーのヤガイが販売している駄菓子だ。実のところ大人になった今なお「カルパス」の意味がよくわかっていなかったため調べた結果、鶏肉と豚肉を材料とした、サラミに似たドライソーセージだと判明した。
「おやつカルパス」はそのおやつ版なのであろうが、相手がおやつだからといって舐めてかかるほど愚かではない。評判を聞いていれば尚更である。食べ足りなくなって涙することがないよう、ボックス買いを敢行した。
箱を手に取ると、にこやかなパンダと目が合った。このキャラクターは知っている。ネットで見かけたことがある。世間が何かパンダにまつわるニュースで賑わうたび、このキャラクターのことをギリギリ思い出したり思い出さなかったりする程度には記憶に残っている。
この「カルパスのパンダ」が、あるいは本物のパンダより馴染み深い存在になるかもしれない。そんな未来を期待しつつ封を開けたなら、色とりどりにパッケージングされた「おやつカルパス」の群れがお目見えした。
50本入りである。筆者は通販サイトで購入したため少し割高だったが、基本的には1本10円とのことで、1箱の場合は500円前後だと思われる。
1本のカルパスをつかみ、裏側のフィルムを剥がし、そして深く味わうように、ゆっくりと口に含んだ。
が、正直なところ、第一印象は「そこまで世間で言われるほどだろうか」というものだった。確かに美味しいには美味しい。舌にじんと沁みるようなパンチのある塩味(えんみ)、ピリッとした辛味、さらにはジューシーさと香ばしさが、エネルギッシュに畳みかけてくる。
とはいえ軽く舌鼓が鳴る程度で、あまりのハイレベルさに頬が落ちることもなければ、未体験の斬新さに膝を打つこともなかった。さすがに期待しすぎただろうか。及第点なら満足すべきか。いや、1本で全てを見定めるのも早計か。もう1本食べてみるとしよう。
この「もう1本」が引き金だった。淀みなく2本目を食べ終え、「まだ結論は出せない」と3本目に手をつけ、「もっと検証が必要だ」と4本目を胃に収め、5本目のパッケージを剥き始めた時には、自分がいつの間にか引き返せないところまで来たことを悟った。
ハマっていた。ズブズブにハマっていた。「おやつカルパス」の、妙にクセになる荒らかなテイスト。言わばそこに宿る「駄」のエッセンスが、食べ進めるうちに止めどなく体内に堆積していき、その重みでみるみる沼に飲まれていった。
確実にハマっていたのだが、一瞬でも失望しかけた自分が、愚かではないと言い張っていても結局愚かだった自分が恥ずかしく、その事実を認めたくなかった。「私は悪くない」「これは検証を重ねているにすぎない」と己に言い聞かせ、そのあいだも一向に手は止まらなかった。
「緑色のパッケージばかり剝いているから、次は青色を剥かなくては」「このパッケージがやけに剝きやすいのが悪い。もっと剥きづらくするべきだ」と、いよいよ言い訳が混迷を極めた頃、ふと気付けば目の前には大量の「おやつカルパス」の抜け殻が横たわっていた。
議論の余地なくハマっていた。私は愚かだった。どうか許してほしい。救いを求めるような心地で視線をさまよわせると、再び目が合った。
その表情は、全てを見通していた。その微笑みは、今となっては仏のアルカイックスマイルのようだった。このパンダに慈悲深さを見出しているのは世界で自分だけだろう。しかしそんなことはどうでもいい。
馴染み深いどころか、もはや上位存在と化したパンダを前にして思う。──「おやつカルパス」、美味しすぎる。抜け出せない。
西本大紀








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